『やすらぎの郷』がやってない!
先週月曜日の『やすらぎの郷』は『ミュージックステーション ウルトラFES2017』放送のためお休み。お昼の12時半から『やすらぎの郷』を見るのがすっかり習慣となっていたので、「アレーッ!?」と思ってしまった。
しかし、よりにもよって敬老の日に『やすらぎの郷』をお休みにするなんて……。
おかげで全130話での放送予定だったのが、全129話になってしまったのだが、最終回は25分拡大スペシャル(2話一挙放送)ということで、おそらく予定していた放送内容に影響はないのだろう。
ただ、週またぎのタイミングが変わってしまっているわけで(今週は4話分、最終週が6話分)、倉本聰の想定していた「引き」ではなくなってしまっているんじゃ……という残念感はぬぐえないが。
せっかくテレビ朝日の名物枠となりそうな「帯ドラマ劇場」。特番だろうが何だろうが、意地でも放送して欲しかったところだ。
それはそうとして『やすらぎの郷』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)第25週。
老俳優たちが勢揃いしている『やすらぎの郷』の中でも、特に老いた老俳優の演技に圧倒された週だった。

テレビを売女に落としたのは誰だ!
「やすらぎの郷」の創設者であり、かつて芸能界を牛耳っていたドン・加納英吉(織本順吉)から急に呼び出された菊村栄(石坂浩二)。
「もう三日ももたない」という加納に会うため、夜中に加納邸に向かう菊村。
そこで、元・総理大臣の私設秘書であり、長年にわたり加納と行動を共にしてきた川添純一郎(品川徹)に迎えられ、加納が「やすらぎの郷」を創設するに至った経緯を明かされる。
その大きなきっかけのひとつは、以前も話題に出てきたことのある、かつての大女優・大道洋子の孤独死だったという。……おそらく、大原麗子の孤独死をモチーフとしたエピソードだ。
加納はこのことをきっかけに、長年大衆に夢を与えてきた芸能人の末路について真剣に考えはじめたのだ。
さらに後押しをしたのが、加納にとっての永遠の恋人・九条摂子(八千草薫)から「そろそろ老人ホームにでも、いいところがあったら入居しようかな」と相談されたこと。
これらのことから、テレビ業界に貢献をしてきた者が安心して老後を過ごせる施設「やすらぎの郷」の構想を実現させたのだという。
やがて加納が目を覚まし、菊村へ芸能界、そしてテレビ業界への熱い思いを語る。
「テレビが出た時、ワシはこの機械に自分の未来を賭けようと思った」
「テレビはあの頃、輝いていた。汚れのない真っ白な処女だったぜ。それを、銭儲けばかり考えて、売女に落としたのは一体誰だ!」
大原麗子への思い、そして昨今のテレビ業界への思い。それは脚本家である倉本聰自身の思いだろう。
これまでも、ちょいちょいテレビ業界への苦言とも取れるセリフがぶっ込まれてきた『やすらぎの郷』だが、その中でも「売女」とは強烈な一言だ。
しかしテレビが処女から売女になってしまった……というのはすごく腑に落ちる!
そんな言葉を残し、加納英吉は息絶える。壮絶な死の演技!
彼を長年支えてきた、常に冷静で裏ボス感あふれる川添が、加納の死後、人知れず号泣しているシーンの重みにも圧倒されてしまった。
このふたり、たびたび話題には上ってきてはいたものの、実際にセリフありで出演したのはほぼ2話だけなのに。それで人生の重みをガッチリ感じさせてくれるのはスゴイとしか言いようがない。
年老いることによってピュアになる
倉本自身の思いを託した加納英吉を演じていた織本順吉。
死を目前にしながらも、最後の力を振り絞ってテレビへの熱い思いを語り、死んでいくという演技には鬼気迫るものがあった。
かつては『仁義なき戦い 完結篇』などでヤクザ役を多く演じ、近年では年齢に合わせたおじいちゃん役が多くなっていた織本だが、ボク的には『3年B組金八先生』第5シリーズでの演技がメチャクチャ印象に残っている。
舞台となる桜中学に併設されたデイケアセンターへ通う、かつての教師という役で、自らの身体をはって生徒たちに命の大切さを教え、やがて死んでいった。金八先生のお株を奪うような熱演だったのだ。
あれから17年以上経って、また壮絶な死を見せてくれるとは(まだお元気でよかった!)。
『やすらぎの郷』への出演に合わせるように、タイミングよくNHK BS1で織本順吉を追ったドキュメンタリー『老いてなお 花となる〜織本順吉 90歳の現役俳優〜』が放送されていたが、これもまたすんごい内容だった。
老いによってセリフが覚えられず、身体も思うように動かず、それでも自分の老いを認めることができないで、泣いて家族に当たり散らしながらも現役俳優を続けている壮絶な姿が記録されていた。
この『やすらぎの郷』への出演に向けての姿も放送されていたが、出演するのは実質2話分。セリフの量もそこまで多いわけではないと思うが、そのセリフを覚えるために4か月間、台本を手放せなかったという。
こう言っては何だが、あの加納英吉の「死ぬ寸前の衰えきった姿」は演技ではなく、織本自身のリアルな姿なのだ。
ドキュメンタリーには、倉本聰も出演して、年老いた俳優がドラマに出演する価値について語っていた。
「演技じゃなくて、人間が老けたということを立っているだけで出せる」
「(年老いることによって)邪念がのぞかれてきて、存在していればいいということに気持ちが変わってくるんじゃないかな。それでピュアになってくると思うんですよね」
コミカルなエピソードでも、どこか重厚さを感じさせてくれる『やすらぎの郷』だが、そこには、倉本の脚本だけではなく、立っているだけで存在感を放つ老優たちのが欠かせないということなのだろう。
ホントにあと1週で終われるの!?
さて「やすらぎの郷」の創設秘話も明かされ、いよいよ最終週に突入する『やすらぎ郷』。
あっちゃこっちゃと様々なエピソードが展開されつつ、最終的にどうキレイにまとめるのか気になるところだが、ここに来て片岡鶴太郎や上川隆也、神木隆之介という、濃いにもほどがある新キャラたちが続々登場するようだ。
さらに、マヤ(加賀まりこ)とお嬢(浅丘ルリ子)のウェディングドレス姿も公開。アザミ(清野菜名)も再登場し、菊村が浮かれて風呂をのぞいたりして……コレ、本当にあと1週で終わるのか!?
(イラストと文/北村ヂン)