
ビール片手に見たい、ヴェニス・ビーチの変人たち
公式サイトを見るとなんだか『ダイ・ハード』シリーズの最新作みたいな感じで宣伝されている『バッド・ウェイヴ』だけど、直接の関係はない。ブルース・ウィリスが主演というだけである。しかし、そのウィリスのおかげで抜群な温度感の映画に仕上がっている。
舞台はカリフォルニアのヴェニス。ウィリス演じるスティーブはこの地区で唯一免許を持つ探偵だ。探偵と言ってもほぼ暇人の変なおっさんで、公園にスケボーをやりにきたガキどもに「大麻とコカインはやめとけ! おれみたいになるぞ!」とよくわからない説教をしている。ほとんど不審者である。
様々な依頼を破滅的にボンクラっぽい助手(自分がやることを全てスマホに録音する癖がある)と一緒に調査しつつ、地元のギャングのボス"スパイダー"にさらわれた愛犬を奪還するため、持ち逃げされた大量のコカインを取り戻すべくスティーブが奔走する……というあらすじの映画ではあるのだが、このあたりは半分くらいどうでもいい。というかコントみたいな感じのユルユルな映画なので、ストーリーを追うのに必死にならなくていいのがありがたい。
とにかくヴェニス・ビーチの底抜けな陽気と、異常な登場人物の連打が印象的である。金属探知機を使って浜辺で時計を拾いまくる高利貸し。妻に権利譲渡される店に在庫を残してなるものかとヤケクソのセールを開催する離婚調停中のサーフショップのオーナー。所有する建物の外壁に最悪の落書き(本当に最悪なので是非劇場でご覧いただきたい)を描かれてしまうユダヤ系の不動産屋。
そして、これらぶっ壊れた人物たちの騒動に巻き込まれ続けるのが、我らがブルース・ウィリスなのである。
帰ってきたウィリス、そしておっさん萌えの極北
ブルース・ウィリス、なんだかんだでもう還暦を回った、おじさんとおじいさんの中間くらいの歳である。しかし『バッド・ウェイヴ』での彼は、ハチャメチャに適当な探偵役を大喜びで演じている。
もともと俳優になる前は実際に私立探偵をやっていたというウィリスだけど、最初の当たり役は1985年から放送されたコメディドラマ『こちらブルームーン探偵社』のよく喋る探偵デイヴィッド役だ。いわば「口数が多くて調子のいい探偵」の役というのは彼にとっては実家のようなものなのである。ずっとタフガイの役が多かったけど、彼は本来コメディ俳優なのだ。言われてみれば『ダイ・ハード』シリーズも笑えるテイストのシーンが多かった。
というわけで水を得た魚のようになったウィリス、『バッド・ウェイヴ』では獅子奮迅の働きである。
いや~、忘れてました。ブルース・ウィリスって本来はこういう人だったのだ。おまけにサーフショップのオーナーでスティーブの友人役にジョン・グッドマンまでついてくる。どこで何をやっていてもだいたい馴染んで見える男として知られるグッドマンだけど、やはりデロンデロンのアロハシャツも抜群に似合う。この中年2人がヴェニス・ビーチの妙に抜けがいい風景の中で、ワチャワチャと仲睦まじく銃を振り回しているところを見られただけでも眼福だ。特にグッドマンの手榴弾芸は必見である。おっさん萌えの極致を是非味わってほしい。
【作品データ】
「バッド・ウェイヴ」公式サイト
監督 マーク・カレン
出演 ブルース・ウィリス、ジョン・グッドマン、ジェイソン・モモア、ファムケ・ヤンセン 他
新宿バルト9、丸の内TOEIほかで公開中
STORY
カリフォルニア、ヴェニスで唯一免許を持つ探偵、スティーブ。その日も依頼人に追われて窮地に陥っていたスティーブは、ピンチを救ってくれたピザ屋の依頼でギャングのボス"スパイダー"に盗まれた車を取り返すことに。
(しげる)