本作は、ある喫茶店で出会った出会った男女が、電話番号やSNSのIDを交換しないままアナログな恋愛関係を繰り広げるストーリーである。
お笑い芸人、俳優、歌手、映画監督とマルチに活躍するビートたけしには小説家としての顔もある。『アナログ』以前にも多くの小説を書いていた。90年代の名作たちをふりかえってみたい。
1.『教祖誕生』(1990年)
舞台は老人を教祖に据えた新興宗教。そこに紛れ込んだ青年の高山が、教団を影で操る司馬によって教祖へ祭り上げられてゆく。
「人は拝めるものがあれば何でもよい」とドライな思考を持つ司馬は、熱心な信者である駒村らと対立していく。さまざまな思惑が入り乱れる新興宗教団体の内部を描く、たけしなりの宗教論といえる。
本作は1993年に映画化され、たけしは司馬を演じた。
2.『漫才病棟』(1993年)
たけしには売れない時代を回顧した『浅草キッド』という名曲がある。その曲の世界をそのまま描いたような小説が本作である。
『週刊文春』に連載され、これまで短篇中心だったたけしの小説の中では珍しい長編作品となっている。
酔っぱらいやホームレスなど浅草の変人たちが次々と登場し、漫才での掛け合いのセリフもそのまま書かれており、臨場感のある小説に仕上がっている。
文庫版では2015年に亡くなった野坂昭如が解説を寄せており、これまで活字化された日本語の小説で「百番以内には入る」と絶賛している。
3.『佐竹君からの手紙』(1995年)
当時、たけし軍団の若手芸人であった佐竹チョイナチョイナを主人公とした小説である。題目は劇作家、唐十郎の芥川賞受賞作『佐川君からの手紙』のパロディだ。
たけしの命令で伊豆大島の合宿免許へと参加させられた佐竹は、たけしに手紙で出来事を報告。その手紙を通して、たけしの奇人変人があぶり出される。
4.『草野球の神様』(1996年)
弱小草野球チームに、突如助っ人が現れる。見た目はただのオジサンなれど、的確なアドバイスでチームを勝利に導く。その後、姿を消すが正体は甲子園でも活躍した有名な元プロ野球選手だったという内容だ。
どんなにダメな状況でも一発逆転のチャンスはめぐってくる。そうした野球哲学に、たけしは自身のお笑い感を重ねているのかもしれない。
たけしの文章仕事は、エッセイ、対談、毒舌時事評論などが注目されがちだが、小説にもきっちりと"たけしイズム"があふれている。じっくりと味わってみてはいかがだろう。
※文中の画像はamazonよりCut 2017年 10 月号 [雑誌]