愛すべき誤植!「インド人を右に」を超える誤植は未だ生まれていない
『ゲーメスト』画像はイメージ

86年から99年にかけて、アーケードゲームを専門に扱った『ゲーメスト』という人気雑誌があった。最盛期には発行部数30万部を超えるほど勢いのある雑誌だったが、他誌では真似できないような濃い密度の攻略情報が人気の秘訣だった。

しかし、『ゲーメスト』の人気の理由はその圧倒的な内容だけにあったわけではない。同誌が愛されたもうひとつの理由、それが多すぎる「誤植」だ。

原因は「字の汚さ」?


とにかく誤植が多いことで有名だった『ゲーメスト』、その主な原因は原稿が手書きというアナログすぎる作業体制にあった。時代はデジタル化一直線だった最中、同誌編集部はその波に乗り遅れてしまっていたのだ。

そんな中、97年4月30日発売の『ゲーメスト』193号で、伝説級の誤植が誕生した。

「くお〜!!ぶつかる〜!!ここでアクセル全開、インド人を右に!」

これはセガのレースゲーム『スカッドレース』の攻略の中で出てきた一文だ。コースの壁を目前にして激しくドリフトするプレイヤーの車。
アクセル全開、これはわかる。そこでインド人を右に?? 突如出てきたインド人の存在に、すべての読者の頭上に「?」マークが灯った。同誌の編集作業の事情など知る由もなく、もちろん何の説明もなかったため、謎は深まるばかり。この誤植は、97年から20年以上過ぎた2018年になっても未だに人々の記憶から忘れられることなくインターネット上で語り継がれている。

なぜこれが伝説の誤植と呼ばれるのか。それは、どのようにしてこの誤植が起きてしまったのかによるところが大きい。
当時、多くの人がこの誤植の原因を考察した。そして、非常に信憑性のある、かつ悲しくて可笑しい説が囁かれるようになった。それは、手書きの文字が汚すぎたために「ハンドル」が「インド人」に見えたという説だ。イラストを見て欲しい。

当時ゲーメスト編集部に在籍していた編集者も同様のことを考察していることから、この説はほぼ確定といっていいだろう。


誤植を企画にしてしまうほどの勢い


「インド人を右に!」は確かに伝説級の誤植であるが、このほかにもこれに迫る勢いの誤植が同誌から数多く誕生している。
たとえば「ラリアット」とすべきところが「ウリアッ上」に、「ジャンプニーキック」が「ジャンニーキックプ」へ、「餓狼伝説」は「餓死伝説」となった。これだけでもジワジワとこみ上げてくるものがあるだろう。これが、あくまで一例なのだ。

あまりにも誤植が多すぎるため、誌面で「誤植を撲滅する」と宣言した2行後に誤植が見つかるなんていう奇跡が起きるのも『ゲーメスト』の醍醐味だった。また、誤植をネタに、故意に誤植を作成してそれを見つけた人にプレゼントを送るという企画も実施された。しかし、天然の誤植の多さが災いしてわざと誤植した箇所が埋もれた結果、「一番面白い誤植を見つけた読者にプレゼントを進呈」するという企画に変わってしまうなんてこともあった。


手書き原稿からワープロ原稿への転換期には、読み間違いによる誤植こそ減ったが、今度は文字の打ち間違いや誤変換による誤植が増えた。しかし、そんな誤植もコミコミで愛された雑誌だった。“誤植には人間味が溢れている”なんて楽しい時代だったのではないだろうか。

(空閑叉京/HEW)