
缶コーヒーの「BOSS」が25周年を迎えました。ボスは1992年の発売から、「ボスジャン」のキャンペーンや、トミー・リー・ジョーンズさんが出演する宇宙人ジョーンズのCMなどでも楽しませてくれている、ロングセラーブランド。


これまでリニューアルを含め300を超える商品が販売されてきたボスシリーズ。歴史を振り返ることになった同イベントでは、コンセプトなどブランド開発を行う柳井慎一郎さんと、ボスのロゴマークをデザインした石浦弘幸さんが登壇し、これまでにあった開発の裏話が飛び出しました。


その中でも興味深かったのが、デザインの話題。ボスといえば、パイプをくわえた渋い男性の顔のデザインが思い浮かびますが、デザインを振り返ると、いろいろなボスがあったんです。思い出せますか?
「ボス」に描かれている渋い男性は、どのように生まれたか
ボスのブランドコンセプトは「働く人の相棒コーヒー」。初代ボスが登場した1992年は、外回りの営業マンやトラックのドライバーなど、外で働く男性が主なターゲットでした。
「身体を動かし働くブルーカラーの方をターゲットに絞った当初、ドライバーをする方や職人さんにインタビュー調査を行いました。そこで、こういった職業の方の多くが家を出てから帰宅するまで一人でいることが見えてきました」(柳井さん)
そこに「孤独」と「自由」を見出したことで、「相棒」というブランドコンセプトが固まったのだとか。
一方、あの渋い男性のロゴマーク。あのモデルは誰なんだという疑問を持つ人も多いそうで、「矢沢永吉さんではないか?」「スティーブ・マックイーンでは?」と、諸説あるようです。文字通りブランドの顔となった、アイコンをデザインした石浦さんによると、実はこの男性にモデルはいないそうです。
「飲む人それぞれがイメージする『ボス』になるように、あえて特定のモデルを使うことは避けました」(石浦さん)


「初代ボス缶コーヒー『ボス スーパーブレンド』パッケージデザインの大きなポイントは、コーヒー豆のイラストなどで味を説明しないことです。
時代や働き方の変化に歩み寄り、「相棒」であり続ける

会場にズラリと並ぶのは全部、これまで発売されてきたBOSSのシリーズ。「ボス」が入ったデザインが並んでいますが、年代ごとにちょっとずつ違いがあるようです。
25年の年月で、日本の経済や労働環境は変化してきました。その時代の人の働き方に合わせてシフトしていったことが、BOSSのロングセラーたる所以でもあります。その変化はパッケージにも反映されていました。
まず、BOSSが10周年を迎えた2002年には、アイテムを持った「ボス」が登場しています。

「この時に発想したのが、これまで顔だけで表現していた『ボス』に、顔は同じ表情・角度のまま小物を加えることにしました」(柳井さん)

コンセプトは「ボス、動く」。当時、「深煎り」「モカブレンド」「カフェオレ」など5種類のコーヒーを1シリーズとして発売されました。パッケージは、ボスが持つアイテムから違うシーンを表現したのだそう。確かに小物の違いだけで、ボスのいる状況が変わって見えるんですね。
男らしさは「縦」で表す
2004年から「スタンダード」「微糖」「ブラック」「カフェオレ」の今も主力となっている定番商品が確立していった年。パッケージはどのようにして考えられたのでしょうか。

まずはブラック。ボスの顔は小さく入っています。
「ブラックのユーザーは、無糖を飲むことにこだわりがある方が多いんです。そこで大きく『BLACK』とロゴが入るようにしました」
もともとは缶が立った状態に横書きで「BLACK」と入れていたところを、「縦にしたらもっとデカく入る」ことに気づき、2005年から缶を寝かした状態の横書きで缶の前面のスペースいっぱいにロゴを入れ、男らしさを表現したそうです。デカく入れようというストレートな発想が、男らしいですね。
カフェオレはどうでしょうか。ブラックとレイアウトは似ている気がします。実は、「カフェオレは甘くて子どもっぽく見える」「ナヨっとしているみたい」と、周囲に思われない配慮がされているそうです。「カフェオレ」ではなく「BOSS」と大きく入っていますが、これは「缶コーヒーを飲んでいるんだ」という主張なのだとか。もちろん“男らしい”縦にしたロゴです。
2007年にと登場した贅沢微糖は、素材のこだわりが伝わるデザインになっているそうです。金色はコーヒー豆を贅沢に使った純度の高さを示していて、金塊をイメージ。「ボス」はレリーフになっています。
この時の裏話として、石浦さんは企画会議で、なんと100万円の金塊(!)を持ってプレゼンに臨んだそうです。
ボスが不在のデザインも…
2007年に発売された「ボスの休日」。アイデアのブレスト中に、イタリアとエスプレッソをかけて『ローマの休日』ならぬ、『ボスの休日』はどうかという、和んだ空気の中で生まれた発想なのだとか。
「BOSSというブランドが、缶コーヒーブランドとして定着したからこそできたシリーズです。これまでは働いているボスしか登場していません。休日のボスは初でした」(柳井さん)

そこで生まれたデザインは、あのボスの姿はなく、パイプだけが置かれた状態。「休日ならボスはいない方がいい」というアイデアを反映させました。
この時、開発チームは当然、休日に売れる商品になるだろうと踏んでいたそうですが、実は「平日の方が売れた」のだとか。やはり“働く人の相棒”なんですね。
さて、今回は開発の失敗談も公開されました。

「『甘くないオレ』はカフェオレと俺をかけたものですが、あまり良くなかった。…ダジャレはダメですね(笑)」と柳井さん。

「競合メーカーさんのNo.1商品にあやかり、ボスの顔を山のようにデカく入れてみました。
気取らないお二人のトークのおかげで、会場は終始笑いが絶えませんでした。

変化し続けるBOSSが一貫しているのは、「働く人の相棒」であること。それも、いわゆる一般の人たちへ向けたもの。安心して側に置ける気がするのは、そのせいかもしれません。今日の休憩時間は変わらない相棒の缶コーヒーで一息ついてみますか?
(石水典子)