かつては、“男ウケ”することこそが正義だったお笑い界。もちろん、今は決してそんな時代じゃない。
何しろ、お笑いライブの観覧層の大半は女性客。女性ファンの価値観に“ズバン!”とハマる感性を携えることは、成功への必要不可欠な要素だ。

それを承知で言わせていただくが、数多い女芸人の中で最も“男ウケ”する存在と言えば、やはり大久保佳代子(以下、大久保さん)を置いて他にいない。統計を採ったわけではないが、筆者の皮膚感覚として芸人・大久保佳代子へ投じる世の男子票は絶大である。
もちろん、彼女は女性人気の方も絶大。“女”を捨てて笑いを取りにいく女芸人はいまだ少なくないが、大久保さんの場合は女を磨きながら、尚且つ男子たちの琴線に触れる一言を吐き捨てている。
男女からの人気を高いレベルで両立させた、女芸人の中でも稀有な存在だ。

そんな彼女は、一体どのような姿勢で仕事に臨んでいるのだろう? 10月18日放送『一周回って知らない話』(日本テレビ系)にオアシズとしてゲスト出演した大久保さんは、このように答えている。
「失敗するのがイヤ。落ち込んで帰るのが。だから、ある程度合格点とって帰りたい」
「目標はゆる~いロケ番組をやっていくこと」

男で揉めた過去があるオアシズ


現在発売中「GINZA」11月号、ミュージシャン・岡村靖幸の連載ページ「岡村靖幸 結婚への道」のゲストとしてオアシズの2人が登場した。
光浦靖子&大久保佳代子「オアシズ」相方に媚を売った過去、相方の男を奪った過去など岡村靖幸と対談

同誌登場に際し、オアシズの2人は以下のように紹介されている。
「40代独身キャリアウーマンにとって、彼女たちは同級生的存在であり、ロールモデル的存在」

愛知県の渥美半島にある小さな町で生まれ育ち、小学1年の頃からの付き合いである大久保さんと光浦靖子(以下、光浦さん)。
まさに“腐れ縁”としか言いようのない2人の関係性だが、その長き付き合いの中でトラブルが無かったわけではない。なんと、大久保さんが光浦さんの彼氏を奪ってしまったことがあるのだ。
時期は、彼女らが21歳くらいの頃。オアシズとしてデビューする辺りのタイミングで、まだ2人は大学在学中だった。元は大久保さんの紹介で、件の男性と光浦さんの交際はスタートする。

光浦 大久保さんが好きだった人の親友だったんだもんね。

大久保 ……で、そこで劇団みたいなのを一緒にやった……のかな?
光浦 ごまかそうとしとる!
大久保 いやいや(笑)。それで、劇団をやって、仲良くなって、光浦さんが付き合いだしたんですけど……。ま、私が悪いんですけど、その人が私のことも「好きだよ」って言い出したんで、「そうなの?」って。

これで、関係が破綻しないのがすごい。
「DNAもあるんじゃないかなあって。田舎って逃げ道がないんですよ。
ヘンな人や自分と合わない人がいても共存しなくちゃいけない。だから『オマエはそこがヘンだから直せ』じゃなく、ぬるっと共存していこうとする『共存の遺伝子』が組み込まれているんじゃないかなって」(光浦さん)

大久保さんへこびを売った大学時代の光浦さん


小学生からの付き合いのオアシズだが、共学にもかかわらず「男子と話をしたらカッコ悪い」という土地の風潮ゆえ、女子だけでつるんだまま高校生活を終えてしまった。
岡村 なんの話をしてたんですか?
光浦 どうでもいい話ですよ。テレビの話とか。そのモノマネをするだけでゲラゲラ笑って。
大久保 低レベルなんだけど、「でも私たち、男子よりも面白いでしょ!」っていうのはあったね。

しかし、両者の絆は大学進学を機に壊れかけている。
千葉大学のスカッシュサークルへ入部した大久保さんは、光浦さんに「ヤッちゃんとはもう遊ばない」と宣言してしまう。どうやら大久保さん、サークルで彼氏を作ろうと試みていたらしい。
ここで焦った光浦さん、唐突に「一緒に早稲田のお笑いサークルに入ろう」と大久保さんにラブコールを送っている。
「一緒に遊ぶには何か理由が必要だ、同じサークルに入んなきゃと。とにかく、カヨちゃんを引き留めたい、そのためには、『お笑いが好き』って昔から言ってたから、お笑いサークルがいいんじゃないかと。それで早稲田のサークルを探してきて。
だから大久保さんにこびを売るためでした、最初は」(光浦さん)

その後、人力舎のオーディションを受けた2人は「ブスとブスで革命だ」という理由で目をかけられ、あれよという間に芸人デビューを果たしている。

高校まで「私たち、男子よりも面白いでしょ!」と自認していた2人は、果たしてどんなネタを演っていたのか? デビュー間もないオアシズの漫才は、以下のような内容であった。

大久保 私もバイトしようと思ってアルバイト雑誌見てんだけど、近頃やたらとカタカナ職業が多くて。クリーンスタッフ、クリーンスタッフって、結局は掃除婦のことでしょ?
光浦 そーそー。キャッシャー、キャッシャーって、結局はキャッシー中島でしょ? (レジ打ちながら)ウチの勝野が~、店長ウチの勝野が~。
大久保 ウソこけー! 見せてくれよ、そんなスーパーを。英語に直してんだよ。わかってないんじゃないのー。
光浦 そんなんわかってるってぇ。
大久保 本当に? じゃあ、いくよ。フロアレディってなに?
光浦 床女?
大久保 直訳かよ。わかってねーじゃんかよ。じゃあ、次いくよ。ホールスタッフは?
光浦 穴係、穴係。
大久保 なんか、言い方がいやらしいなあ。
(1993年発行『続 キンゴロー』/ワニブックスより)

全く男子と喋らずに純粋培養された2人の感性が、上記のネタには凝縮されている気がする。ちなみに光浦さんは、東京外国語大学卒業だ。

“笑えないブス”大久保佳代子の現在


デビューしてすぐに片岡飛鳥に認められ、1992年から放送された『新しい波』(フジテレビ系)へ出演を果たしたオアシズ。同番組の選抜メンバーがスライドしてスタートしたのは『とぶくすり』(フジテレビ系)だが、この時は光浦さんのみがメンバーに選ばれている。「光浦は“笑えるブス”で、大久保は“笑えないブス”だから」という理由で大久保さんが選から漏れたのは有名な話だ。

大久保 ひがみもすごいあって。
光浦 大久保さん、ひがみ虫だもんね。
大久保 私は、めっちゃひがみ虫ですよ。「人と比べる」、「人をすぐ下に見る」。もう、本当に。それ、受け止めて生きてますから。
(10月18日放送、日本テレビ『一周回って知らない話』から)

これぞ、大久保佳代子のトーク。キレッキレ! 今の大久保さんに「笑えない」はとんでもない話だし、ぶっちゃけると、もはや「ブス」にも当てはまっていない。何しろこの人、現在46歳なのだ。驚異的にキープってるし、全然イケる。

将来を悲観していない40代、オアシズ


しかし現在、大久保さんにも光浦さんにも結婚の気配は訪れていないらしい。「GINZA」での対談にて、オアシズの2人は将来についてしみじみ語っている。

「私も大久保さんも一生独身かもしれんけど、『あの人たち楽しそうだよね、幸せそうだよね』って思われれば、それで勝ちだなあって」(光浦さん)
「テリー伊藤さんにね、私が『孤独死とかするのイヤだなあ』って言ったら、『好きなだけひとりで生きてて、好きなことをして、好きなだけ金使って。孤独死くらい受け入れろよ!』って言われて。『なるほど』って(笑)」(大久保さん)

なるほど。オアシズが「40代独身キャリアウーマンにとってのロールモデル的存在」とは言い得て妙。21世紀の新たなロールモデルだ。
(寺西ジャジューカ)