「おそ松さん」2期4話は、今まで描かれなかったおそ松たちの両親、松造と松代の話だ。
こういう哀愁話があってこその「おそ松さん」。

二人に似せたサブタイトルロゴかわいかったですね。
「おそ松さん」2期4話「妻を愛する夫よ、DTであれ」子育てを終えた父親のブルース
おそ松さん 二期メインビジュアル(公式HPより)

マンガの親の性生活


全く働かず、競馬で金をすり、すねかじり続けている六つ子を支えている大黒柱の松造。一応サラリーマンのはず。
松造も松代も、1期含め今まで「さっさと早く働いてほしい」という主張はずっと続けてきた。
この両親は主張が同じなだけに、今までキャラ差がほとんどなかった。あえていえば松造がたまにツッコミ、なくらい。
どちらも「親」というポジション以上の描写はなかった。


今回はその松造と松代の、夫婦愛にスポットが当たる。
作中では中年両親の性生活を持ち出されることへの、おそ松たちの抵抗感がネタになっていた。

もっともこのアプローチ、寺山修司がエッセイ「サザエさんの性生活」で、サザエさんやマスオを生身の人間として掘り下げて、日本の文化や家制度を探ったのと、ベクトルは同じだ。
結果、成人した子供を持つ中年夫婦の、配偶者との距離感の悩みに、うまいこと切り込めている。
そもそもこの作品自体が、ニートの子を持つ核家族を、明るい視点からギャグで批評する姿勢を持ち続けている。酒にギャンブル、クズだなんだとやっていても、崩壊せず家族仲良しなところにいつも戻ってくる。


お父さんは家族を愛しているから


松造は妻に振り向いてもらうために、デカパンに惚れ薬を作ってもらうことを決意する。
若い女の子とかじゃない。長年寄り添ってきた妻に惚れなおしてもらうためだけに、命がけで材料を集めに行く。
やり方は間違っているけど、ものすごい愛の深さ!

松造は、家族が大好きで仕方ない人間のようだ
六つ子が生まれた瞬間に両手を挙げて喜んでいた。子供の六人が大暴れしているのを、笑顔で見守っていた。思い出が頭をよぎる。

「すまんな付き合わせて。
まぁぶっちゃけた所、寂しかっただけなんだろうなー俺は」

1期ではチョロ松が働くことを決めた時心から喜んでいた。まっとうに子供の成長を喜んでいる。
成人して、早く職について出ていってほしいとは思っていても、子が離れていくのは、親としては切なさは感じてしまう。
ニートとはいえ、成人してくれたことが、嬉しいのだ。
「一応俺達夫婦も、あぁこれでお役御免か、みたいな気持ちになって。そしたら急に不安になったんだ。
じゃああいつは今何のために一緒にいるのか。好きで一緒にいてくれてるのか、ってな」


チビ太に一万円を支払いつつ、家で食べると言って帰る松造。
家での時間をそこまでしてでも優先したい、父親像が見えてくる。

愛を示せない男


最後の最後で松代が登場する。
深夜一人、丘の上の公園で思い出にふけっている松造に近寄り、話しかける。
「覚えてる?いつの日かあなた私に向かって叫んだじゃない、ここで」
それに対し、冒険をしてまで妻への惚れ薬を作ろうとした彼はこう言ってしまう。
「忘れた。
覚えとらんそんな昔の事をいちいち」


一人の時、回想シーンが入っているのだ。忘れているわけがない。
実際は松造の方が、きちんと言葉にして愛を伝えられていないのが、ここでようやく見える。

「でも私は忘れない。いつまで経っても」
「あっそう」
そっけない。父親が息子たちに話していた、妻への情熱と真逆の空気だ。


松造の悩みは、これからばかりを考える杞憂だ。
一方松代は、これまで積み重ねてきたものを大切にして、夫婦の仲を信じて疑わない。
倦怠期ではない。松造が求める妻の反応と、松代が共有したい気持ちがどうにもかみあっていないだけだ。
妻や息子への愛情が濃厚に描かれてきただけに、それを伝えられない父親には、はがゆさと哀愁を感じる。がんばれ松造。

ところで赤塚不二夫はというと「ニャロメのおもしろ性教室」の中で、松造の家族観を書いている。
「なんてバカなセックスをしてしまったんだろう……」「妊娠しても人工中絶をしときゃよかった」
ここから避妊の解説に。いやいやそれ、「おそ松くん」自体なくなっちゃう。
これ今の日本だったら電波に乗せられるのかなあ。やっぱり本家はエッジが効いている。

偉大なれDT力


「おそ松さん」は、六つ子はニートで童貞、というのが決まり文句。
ただこの作品で使われる「童貞」は、性体験の有無というよりも、強い妄想力を持っている、という賞賛の言葉として扱っているように見える。

松造がチビ太の店で飲んでいた時。「はは……この歳で何言ってんだ。童貞か俺は」と照れるシーンがある。
センチメンタルな妻への愛情を語る彼は、初恋男子のようにかわいらしい。
「おそ松さん」2期4話「妻を愛する夫よ、DTであれ」子育てを終えた父親のブルース
みうらじゅん・伊集院光「DT」

みうらじゅん・伊集院光は童貞的メンタルのことを「DT」と名付けた。本も出版している。
性体験の有無ではない。想像をこじらせ、こだわりを持ち、ただならぬコンプレックスや憧れを抱いている状態のこと。
みうら「童貞って、本当の意味での「自由人」なんだよね」「「あのころあんたは優しい子だったのに」もまったく同じで、その「あのころ」っていうのは、つまり「童貞だったころ」なんだよね」

童貞になるよう父の松造を特訓するおそ松たちのシーン。
アダルトな写真集ではなく、卒業アルバムを選べという息子たち。
想像せよ!という主張だ。

チョロ松は1期で、いたしているところを見られて以来「シコ松」と今も呼ばれている。
オープニングでも箱ティッシュが登場し、「げんし松さん」でもオナホ開発の様子が描かれる。
自慰へのこだわりがやたらと深い。

オードリー春日は「自分磨き」と命名し、たびたび使っていた。
彼は仕事前にも、寝る前にも自分磨きをするとのこと。
彼が自分磨きをとても大切にしているのは、自分の意思で、社会のしがらみなく行える行動だから、とオールナイトニッポンで語っている。

感傷的だったり、想像力やギャグにブレーキがなかったり、変に理屈っぽかったり。
このアニメ自体、内容に歯止めをかけないために、童貞であろうとしている。自分磨きのようにしがらみなく作ろうとしている。だから六つ子は童貞じゃないとダメなのだ。

なお1期3.5話(公開中止した1話の代わりに作られた)では、童貞なヒーロー「新品ブラザーズ」として、バーベキューをする大学生サークルに恨みの念を向けている。オチが最低なので見てください。
やっぱり「おそ松さん」は、永遠に童貞であってほしいなあ。

(たまごまご)


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