00年代初頭の少年ジャンプに旋風を巻き起こした名作『DEATH NOTE』。

インフレする敵を倒し続けて行くバトル漫画が主流だった中、緻密な心理戦を軸とした先の読めない展開でたちまち大人気に。
主人公が殺人にためらいのないダークヒーローという設定も斬新だった。

サブカル雑誌等で特集が組まれたり、深読みした批評が発表されたりと、人気はジャンプの枠を超えて飛び火。普段ジャンプを読まない層の支持も集め、空前のブームになったのは記憶に新しいところだ。
「Lは実は死んでいないのでは?」「ヨツバグループに現れた新たなキラの正体は?」などなど、毎週予想は白熱。連載時の盛り上がり方は凄いものがあった。

そんな中で、常に議論され続けてきたテーマがある。
それは、この作品がデビュー作として漫画原作者にクレジットされていた「大場つぐみ」の正体。
「この心躍るストーリーを書いているのは何者なのか?」という点である。

『DEATH NOTE』大場つぐみ=『とっても!ラッキーマン』ガモウひろし説の根拠


今さらもったいぶることもないので断言するが、大場つぐみとは『とっても!ラッキーマン』で有名なガモウひろし先生のことである。

『DEATH NOTE』1話で主人公が通う塾が「蒲生(がもう)ゼミナール」だったり、コミックス7巻の作者イラストがガモウ先生を思わせるタッチだったりと、連載当時も噂は絶えなかったが、08年から連載された『BAKUMAN。』時にはほぼカミングアウト状態。

コミックス1巻の表紙には『ラッキーマン』のコミックスがあるし、漫画内漫画『超ヒーロー伝説』は絵柄や設定が『ラッキーマン』そのものなら、作者のキャラ設定もガモウひろし先生そのもの。
タイトル文字の下部分を隠すと「RAKIIMAN=ラッキーマン」と読めるし、公開したネームは明らかにガモウひろし先生のタッチ。
おまけに、ファンブックでの原作者のメッセージはことさらに「ラッキー」を強調しているんだから、証拠は十分。

同時期にガモウひろし名義で出した絵本『でたぁーっ わんつーぱんつくん』では、大場つぐみが推薦文を書き、さらに『DEATH NOTE』を思わせるキャラやメッセージが多数登場するお遊びも。
リンゴ、ノート、腕時計のイラストに対する文章が「きらきら かがやく しんせかい きらワールド」なんだから、ガモウ先生自身もノリノリである。

金田一、コナンに続け! ジャンプも推理漫画に挑んだが……


そんな大場つぐみ=ガモウひろし先生が『DEATH NOTE』以前に発表した、原点ともいえる作品をご存知だろうか?
その名は『ぼくは少年探偵ダン♪♪』。98年秋から99年初頭にかけて連載されたギャグ推理漫画だ。

当時、少年マガジン『金田一少年の事件簿』、少年サンデー『名探偵コナン』などの影響で推理漫画は人気のジャンルとなっていた。ジャンプでもこのジャンルの開拓に力を入れ、たびたび新連載を始めるが鳴かず飛ばず。
その第4弾的位置付けとなったのが、この作品だ。

少年探偵モノでは「名探偵の孫の金田一」「実は高校生のコナン」と、大人顔負けの推理力を発揮する裏付けが設定上必要となる。
そこで、この作品が取ったのは「事故で頭にお酢のビンが刺さり、『推理(酢入り)』状態になっている」という設定。なので、推理をする際には、頭の傷に酢を入れてその化学反応で推理力がアップするのである!

「な…何を言っているのか わからねーと思うが おれも 何をされたのか わからなかった…」とポルナレフ状態。「まったく理解を超えていた」のである。

脱力系ギャグ漫画のため、謎解きも強引な力技が基本。
しかし、細かなコマ割りと大量のセリフでページの密度は濃い目という、ギャグ漫画では異例の作風となっていた。
濃霧の中という設定にし、膨大なセリフのみで心理戦を繰り広げる話や、(ギャグではあるが)うなるトリックもあり、その後の『DEATH NOTE』を思うと興味深いものがある。

『ぼくは少年探偵ダン♪♪』終了直後の小畑健先生へのラブコールとは?


『ぼくは少年探偵ダン♪♪』2巻の作者コメントには、作品のことには一切触れずに「そういえば今、週刊ジャンプで囲碁のマンガが、大人気らしいよ。みんなもジャンプ買って毎週欠かさず読もうね!約束だよ!!」と謎のメッセージが。
この「囲碁のマンガ」とは、当時大ヒット中だった『ヒカルの碁』のこと。作画を担当したのは後に『DEATH NOTE』でタッグを組む小畑健先生である。


もしかして、ガモウ先生はこのころから小畑先生との共作を考えていたのだろうか?
ちなみに、『DEATH NOTE』連載のきっかけとなった読み切り版が掲載されたのが、03年36号。『少年探偵ダン』の2巻発売が99年3月である。

ジャンプの推理漫画枠が次々とコケたのは前述の通りだが、1番可能性を感じさせたのは第1弾の『人形草紙あやつり左近』だった。事実、後にアニメ化されているが、その作者こそ小畑先生。
決して絵が上手いとはいえないガモウ先生だが、その奇抜で独創的なストーリー展開には定評があった。抜群の画力を誇る小畑先生と組めば、一級品の推理漫画が描ける……。

そう考えていたとしても不思議ではない。

大場つぐみとしてのインタビューでは「作画作家としての希望はなかった」と語っているので、編集部が結びつけたのかも知れない。しかし、大場つぐみインタビューは全般的に本質に触れず、はぐらかしている節がある。額面通りに受け取ってはいけない気がするが、真相やいかに……?

こうして、あれこれ考えをめぐらすこと自体が、大場つぐみ=ガモウひろし先生の術中にハマっているのかも知れない。ガモウ先生、恐るべし!