広がりきった『HiGH&LOW』シリーズという巨大な風呂敷をいかにして畳むか……。この難しい課題に、文字通り「爆破する」というハイローにしかできない回答で応えたのが『HiGH&LOW THE MOVIE 3 FINAL MISSION』である。
タイトルが長いので以下はザム3と略すことにする。
「HiGH&LOW THE MOVIE3/FINAL MISSION」広げた風呂敷は畳まず爆破だ

日本一金と労力が投入されたヨタ話、ハイロー


ハイローこと『HiGH&LOW』は、EXILEや三代目J Soul Brothersなどが所属するプロダクションであるLDHが製作する異常なエンターテイメントである。映画、ドラマ、コミック、ライブなど様々な表現方法でハチャメチャにキャラが立ったイケメンの不良とヤクザの抗争劇を描き、その内容の尖り具合とゴージャスさとその他諸々の魅力で、もともとのLDH系アーティストのファン並びに各方面のオタクのハートを鷲掴みにしてきた。

物語の舞台は多分日本みたいな国にあるSWORD地区と呼ばれるエリア。かつてMUGENという一大バイカーチームがその一帯を制していたが、とある事情でMUGENは解散、その後にそれぞれ毛色の異なる5つの不良たちのチームが勃興し、チームそれぞれの頭文字をとってSWORD地区と呼ばれている。この一帯の利権を巡り、国と結託したヤクザ組織「九龍グループ(それぞれ名前に龍の字が含まれている9人の親分に率いられた組織の集合体なのでそう呼ばれている)」が侵攻してくるのに対し、互いに抗争を繰り返していたSWORDのギャング達が協力して立ち向かう……というお話だ。ほぼヨタ話なのだが、このヨタ話に対して潤沢な予算と強烈な脚本、ハイレベルなアクションと美術とイケメンを惜しげも無く突っ込んだ結果、他に類のないシリーズになったわけである。


ベテラン俳優陣率いる九龍グループ、本気を見せる


前作『THE MOVIE2 END OF SKY』のラスト以降、とうとう九龍グループとの全面抗争に突入したSWORDの各チーム。分裂した山王連合会の中でも、主戦派であるコブラたちは市街地に潜伏しつつゲリラ戦を仕掛ける。しかし九龍は膨大な戦力を元に各地区に攻撃を開始。SWORDの各チームはなすすべなく本拠地を壊滅させられ、コブラも拉致された挙句激しい拷問を加えられる。

さらに九龍グループと国はSWORD地区のカジノ化計画を推進し、無名街(そういう名前の、ブラジルのファベーラと川崎の工場地帯を混ぜたみたいな巨大なスラムが出てくるのである)の「爆破セレモニー」を挙行する。一方、かつてSWORD地区を混乱に陥れた琥珀たちの元では、意外な人物によってSWORD地区全体を揺るがす"ある秘密"が明かされていた。果たして無名街は爆破されてしまうのか。
そしてSWORDの運命やいかに!

完全に何かをキメて考えたとしか思えない「無名街爆破セレモニー」という字面、オタクたちを震撼させたコブラ生コン一気飲み拷問(文字通り、九龍のヤクザに捕まったコブラが生のコンクリートを飲まされるのである)、琥珀さんとタンデムでバイクにまたがる齊藤洋介と、映画公開前からファンが動揺しまくる新要素をバンバンぶち込んできたザム3。特に映画の前半は九龍グループの凄まじい攻撃が描かれ、「これどうなんの……?」という圧倒的な強さを堪能できる。

特に、前作ラストでコブラに強烈な前蹴りを食らわされた岸谷五朗演じる善信吉龍が、めちゃくちゃモーションのでかいヤクザキックでコブラを蹴り返すシーンは印象的だ。その前後の岸谷五朗の台詞回しも完全に「怪演」と言っていい異常なものなのだが、あれこそザム3の前半を象徴するフィニッシュホールドである。九龍グループのボスたちを演じるその他のベテラン俳優陣もノビノビと極悪ヤクザ軍団を演じており、もうひとつの『アウトレイジ』という感がある。

というわけで大ピンチになるSWORD軍団なのだが、それをひっくり返した上で全ての風呂敷を畳みきり、オタクに滂沱の涙を流させるというウルトラCをやってのけるのだ。


ありがとうHiGH&LOW……ありがとう……


本作で明かされる、SWORD地区に関する"ある秘密"なのだが、最初にそれが出てきた時は、さすがに「いやアンタ、此の期に及んで設定足すんかい!」と思った。なんせハイローの設定は現時点で既に飽和状態。シリーズを追うごとに過剰な足し算が繰り返されてきた結果である。

しかし、この"秘密"を軸にして、ドラマ版以降とっちらかる一方だったハイローの全ての設定がひとつのストーリーに収斂し、物語がクライマックスに向けて突っ走るためのブースターになるのである。この構成には舌を巻いた。いやほんと「無名街で謎の鉱物が採掘される設定とかどこ行ったんだよwww」とか言ってすいませんでした。
今まで製作陣が行き当たりばったりに付け足してきたように見える設定が全て伏線となって立ち上がり、ドラマ版シーズン1第1話冒頭の「俺たちはただ、この街を守りたかっただけだ」というセリフに収束していくのである。「奇跡を見た……」と思った。

実際のところ、製作陣がどこまで今回のザム3を想定してこれまでの設定を盛り込んでいったのかはわからない。しかし、その風呂敷のたたみ方として見事だったのは確かである。大きく燃え広がった油田火災を消す際には火災の近所で火薬を爆発させ、一気に大量の酸素を消費させて消火するという。本作で明かされるある秘密は、ハイローという巨大な油田火災を鎮火させるための爆薬だったのである。
まさに爆破セレモニー。よくできている……!

こういう内容なので、今までのシリーズを全部(本当に全部である)見ていれば見ているほど楽しめる作品ではある。見終わった後には「ハイロー全部見ててよかった……」と腹の底から思えるパワーと感動があった。今筆者にはハイローに対する感謝しかない。ありがとうLDH。ありがとうHiGH&LOW。
おれ、明日からも頑張るよ……。

【作品データ】
「HiGH&LOW THE MOVIE 3 / FINAL MISSION」公式サイト
監督 久保茂昭 中茎強
出演 岩田剛典 鈴木伸之 黒木啓司 山田裕貴 窪田正孝 林遣都 AKIRA 青柳翔 TAKAHIRO 登坂広臣 ほか
11月11日より全国ロードショー

STORY
悪のスカウト集団"DOUBT"とプリズンギャングとの"黒白堂駅の戦い"に勝利したSWORD連合。しかしそこに現れた九龍グループ・善信会との次なる抗争になだれ込む。九龍グループはSWORD各勢力の本拠地を切り崩し、さらに政府と結託して無名街を爆破、カジノ用地にする計画を進める。

(しげる)