SF映画に重要なのはリアルよりリアリティだ。

35年ぶりの続編として公開中の『ブレードランナー2049』(製作総指揮:リドリー・スコット、監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ)を観ながらそう思った。
科学技術的にどうこうよりも、「あぁこれ近いうちに実現しそうだよなぁ」と観客に納得させられたら、ストーリーの説得力も格段に増す。

妙なリアリティがある未来描写


例えば、82年公開の前作でも登場していたブレードランナーたちが乗るスピナー(飛翔能力を備えた自動車)に、今作は“パイロット・フィッシュ”と呼ばれる人工知能付きのドローンのような飛行物体が付属している。運転手が車から離れた際、周辺を撮影したり見張ることも可能な便利すぎる機能を次々に披露。「あれ欲しいな」なんつってどこかの自動車メーカーで開発していても驚かない違和感のなさだ。

さらにブレードランナーのK(ライアン・ゴズリング)は、自室でユーザーの生活スタイルや好みを分析し会話相手になったり、音楽を選択し再生するAI搭載のホームオートメーションシステムを使っている。
つまり若い美女(アナ・デ・アルマス)のホログラフィーが部屋の中を動き回り応対し、実際に彼女と生活しているような気分を味わえるわけだ。毎日裸エプロンでも大丈夫。
このシステムは独身男の恋人であり、妻の役割を果たす。

我々がプレイステーションVRで遊んでいる現代だからこそ「30年後には普通にこういうのありそうだな」と思わせてくれる仕掛けの数々。これらはアメリカ議会図書館の国立フィルム登録簿に永久保存登録された35年前の歴史的第1作目で描いていたら、実現性のないドラえもんの道具的に見られていたかもしれない。
2017年に公開されたブレードランナーだからこそ、観客は2049年の未来描写に妙なリアリティを感じられるわけだ。

ところでブレードランナーって何?


ところで「ブレードランナーってなんなの?」と劇場の帰りのエスカレーターで彼氏に聞いている女子がいた。えっそれを知らずに2時間43分の大作を観てたのか……と驚愕しつつ、彼氏も「まあブレードランナーはハリソン・フォードとライアン・ゴズリングだよ」となんだかよく分からない投げやりな解説。

公式パンフレットによると、ブレードランナーとはレプリカント(人造人間)を捜し出し“解任(処分)”するために編成された特別捜査官のことである。
レプリカントは外見上は人間とほとんど区別がつかない。高い知能と運動能力を持ち、中には自我に目覚めて脱走を企てるケースが後を絶たず、それを追うのがハリソン・フォードやライアン・ゴズリングであるわけだ。
ただ、K自身も新型レプリカント(ネクサス9型)というのが新作のストーリーの鍵を握って来るわけだが……。

異なる数バージョンが存在する『ブレードランナー』


恐らく「今回の2049の予習として、前作のブレードランナーはどれを観たらいいの?」なんて戸惑った人も多いのではないだろうか。

なぜなら2019年11月のロサンゼルスを舞台にした前作には諸事情で異なる数バージョンが存在し、現在Huluでは劇場公開版(82年)とファイナルカット版(07年)の日本語吹き替えが、Amazonビデオではディレクターズカット版(92年)を視聴することが出来る(それら以外の2バージョンはDVDボックス『ブレードランナー 製作25周年記念アルティメット・コレクターズ・エディション』に収録)。

大きな変更が加えられた92年ディレクターズカット版


特に公開10周年を記念して監督のリドリー・スコット自ら再編集に着手した92年ディレクターズカット版は、劇場公開版から大きな変更が加えられている。主人公のリック・デッカード(ハリソン・フォード)の独白とエンディングを削除しているのだ。
なにせデッカードはナレーションで喋りまくっていた。

「新聞の求人欄じゃ殺し屋の募集が出るわけがないが、俺の稼業は殺し屋だった。元刑事、ブレードランナー、つまり殺し屋だ」
「隣の奴はガフって名だ。前に一度会ったことがある。さっきコイツが喋っていたのはブレードランナーの間で通じる隠語ってやつで何カ国かの言葉をゴチャマゼにしたものだ。スペイン語、日本語、ドイツ語、色々入っている」

序盤から饒舌に状況を言葉にして説明する男。
これらをディレクターズカット版では思いきって削除。沈黙の時間が増え、重苦しいダークな世界観を際立たせている。
エンディングもレプリカントのレイチェル(ショーン・ヤング)と旅立ちハッピーエンド風な劇場公開版とは対照的に、暗いと評判がいまいちだったワークプリント版(試写用に製作されたもの)に戻しその前の段階で唐突に終わる。

さらにユニコーンが走る白昼夢シーンも追加、えっコレ人工的な記憶? ハリソン・フォード演ずるデッカードすら人間ではなくレプリカントなのでは? と示唆する仕掛けまで加えられている。謎を解明するどころか、さらに謎を深める業の深さ。

個人的にはせめて分かりやすい劇場公開版→2049、時間がある人は作られた順に3バージョン観てから2049上映劇場へというのがベストだと思う。

それにしても、1作目に出てくるレプリカントたち。ロイ・バッティ、ゾーラ、プリスらは皆2016年製だ。あの頃の未来を現実が超えてしまった2017年秋。今、電車であなたの隣に座っている人は、もしかしたらレプリカントかもしれない……。


『ディレクターズカット ブレードランナー 最終版』
公開日:1992年10月24日
監督:リドリー・スコット 出演:ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、ダリル・ハンナ
キネマ懺悔ポイント:97点(100点満点)

なぜか『世にも奇妙な物語』風に終わったコラムだが、42年生まれのハリソン・フォードは『ブレードランナー』公開時ギラギラの39歳。『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』シリーズの大ヒット。
さらに『刑事ジョン・ブック 目撃者』ではアカデミー賞主演男優賞ノミネートとまさに80年代前半から中盤にかけてキャリアの絶頂期にあった。
(死亡遊戯)


(参考資料)
『ブレードランナー2049』パンフレット(松竹)



※文中の画像はamazonよりブレードランナー ファイナル・カット [DVD]