先日開催された第30回東京国際映画祭で、初の審査員を務めた俳優の永瀬正敏。まさに日本を代表する映画俳優にふさわしい大役だ。


昔も今も映画を主戦場とする永瀬だが、その知名度を爆上げしたのは90年代のあのCMで間違いないだろう。
サントリーの『ザ・カクテルバー』。家庭でカクテルを気軽に楽しむ草分け的存在となった大ヒット商品である。

カクテルを身近な存在にした『ザ・カクテルバー』


90年代初頭はビールやチューハイが人気の主流だった。そこに新たな市場を切り開いたのが、93年3月にサントリーから発売された『ザ・カクテルバー』だ。

リキュールがあらかじめソーダで割ってある本格的なカクテル飲料は当時としては画期的。そもそも、カクテル自体がバー以外では馴染みが薄かったため、ある種憧れのアルコールだった。
そんなカクテルが手軽に楽しめる。200mlのスタイリッシュなボトル瓶は、キャップをひねるだけだ。

低アルコール化志向が進んでいた時代の流れも追い風となり、若者を中心にブレイク。その大きな原動力となったのが永瀬正敏のCMだ。

永瀬正敏のコミカルさが受けた『ザ・カクテルバー』のCM


「愛だろ、愛っ。」

このキャッチコピーをご記憶の方は多いのではないか?
永瀬演じる主人公が見せる情けない失敗やズッコケた姿、そこに被さるこのコピー。
コミカルなのに、カッコいい。そんな永瀬にファンは急増。
次々と登場する商品&CMは、常に話題の的となって行く。

このCMでの永瀬の設定は、地方から出てきたばかりの「都市単身生活男子」。恋愛がしたいと願い、カッコよく決めたつもりがいつも上手くいかない。その理由は……自分には愛が足りないからだ。だからこそ「愛だろ、愛っ。」というフレーズに繋がるという。

同じような境遇の者には余計に刺さるこのCM。ボンクラ大学生だった筆者も永瀬に憧れ、カクテルバーを嗜んだものである。

最大19種のラインナップ! あなたのお好みは?


当初はジントニック、シンガポールスリング、モスコーミュールの3種からなるスタンダードなラインナップ。さらに、ソルティドッグ、スクリュードライバー、カシスソーダなどなど、カクテルの入門編的にバリエーションは拡大して行く。
ブルーハワイやストロベリーマルガリータ、メロンダイキリなど、色鮮やかなカクテルが続々と仲間入りしたころから、さらに人気は加速した印象。シェーカーをイメージした透明瓶には、やはりカラフルなカクテルが映える。

値段もリーズナブルとあって、とりあえず一度は味わっておこうと思わせるだけの魅力があった。筆者もここまではすべて味わって、永瀬気分に浸っている。

その後も、チチ、マイタイ、ピーチベリーニなど、よりトロピカルで女性好みのラインナップが加わって行き、96年6月の時点では総勢19種類にまで拡大するが、さすがにここまで行くと飽和状態か。

96年末から97年初頭にかけてリニューアルを図り、人気商品を厳選した12種類での勝負となる。

発泡酒、赤ワイン……ライバルに追い越されて行く『ザ・カクテルバー』


97年夏には、キャッチコピーが「うまいぜベイビー。」に変更。
夏ならではのフローズンカクテルが投入され、季節限定商品の入れ替え制になるなど、飽きさせない工夫で人気を維持しようとしたが、すでに消費者の心は離れ気味……。

なぜなら、アルコール飲料の市場は大きく様変わりし、新たなブームが起き始めていたのである。

『ザ・カクテルバー』発売の翌94年10月、同じくサントリーから登場した『ホップス』から始まった発泡酒がこのころ一大ブームに。
味や香りはビール風、それでいて価格はビールの3分の2ほどという安さを消費者は支持したのだ。特に、キリンビールが98年に発売した『麒麟 淡麗〈生〉』は発泡酒市場空前のヒット商品となり、翌99年には各社が新たな発泡酒を生み出し競争は激化して行く。

また、97から98年にかけて、テレビ番組ではポリフェノールをもてはやす特集が一斉に組まれ、赤ワインブームも到来。

シェアがジリジリと削られて行く中、永瀬正敏のCMも99年春で終了。広告展開の一新とともに一般的には『ザ・カクテルバー』は過去のものといったイメージになってしまうのであった。

サントリーの公式サイトによると、『ザ・カクテルバー』の大ヒットは「第4次カクテルブーム」をもたらしたという。

確かに、このころはチェーン系居酒屋やカラオケでも豊富にラインナップされたカクテルが人気だったなぁ。
社会人になってから、初めて本格的なバーでカクテルをオーダーするも、その値段にびっくりし、あらためて『ザ・カクテルバー』のありがたみを感じたというショボイ記憶を思い出した筆者であった。

※文中の画像はamazonよりアクターズ・ファイル 永瀬正敏
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