毎朝6時。
「デデーッポポーッ、デデーッポポーッ」
目覚まし時計の音よりも先に聞こえてくる、あの声。
イヤな予感がして窓を見ると、やっぱりいた。ガラス戸を隔てた狭い窓枠のところに、数羽のドバトがみっしり座っている。
都心の中高層マンションの8階、それも、身体を真っすぐにした状態でははみ出るような狭い窓枠に、なぜわざわざ?
腹が立ち、身体を横たえたまま腕を伸ばして、窓をドンッと叩くと、飛び立った。
しかし、慣れというのは怖いもので、これが連日になってくると、寝たままの窓ドンッくらいじゃ驚かず、立ち上がって窓を強く叩かないと、スルーされるようになった。
しかも、「やれやれ」と再び体を横たえると、またやって来る。我が家に窓ドンされた後は、いったん向かいのマンションあたりに一時避難し、機会をうかがって戻ってくるようなのだ。
ドバトに毎朝起こされるのも癪に障るし、休憩所にされる窓枠は当然、フンで汚れるし、たまったものではない。
そう思っていたところ、同じマンション内の同じ向きの部屋の人達が、同様の悩みを抱いていることを知った。
エサをあげる人のせい?
思えば、今から8年前、2009年にもハトに悩まされ、ハトの記事を執筆したことがあった。
当時、対策として、マンションがベランダ側全体にハト除けネットを張り巡らした。これが功を奏して、ハトは来なくなり、その存在も長いこと忘れていたのに……。
なぜか8年ぶりに思い出したらしいハトたちは、今度はネットが張られていない、別の狭い窓枠のほうに再びやってきて、そこからは毎朝通ってくるようになったのだ。
その行動パターンが気になり、チェックしてみると、このマンションに早朝訪れた後、朝10時頃になると、近所の低層階のマンションの屋上に10数羽で集うというのが、日課のよう。
小雨の降る日はどうしているのかと思い、見てみたら、やっぱり屋上で集会をやっていた。
それにしても、このマンションと、近所の屋上とが、なぜこんなにもハトに好かれてしまうのか。
山科鳥類研究所に聞いた。
「実際にそのハトや、場所を見てみないと、種類も、なぜ通ってくるかもはっきりはわかりません。しかし、『こんな狭い場所になぜ』というのは、あくまで人間から見た視点に過ぎません。例えばカワラバトの場合、もともと崖のような岩場を住処にする習性があるため、よく茂った森ではなく、緑の少ない岩場のような、駅の構内やビルの隙間など狭くジメジメした場所を好むんですよ。窓の狭いところも同様で、先祖代々の住処に近いから、ちっともイヤじゃないんです」
また、ムクドリは、田んぼなどでエサを食べた後、寝床として住宅街に移動し、集って休むことがあるそう。なぜなら、フクロウなど天敵のいる場所より、住宅街に集うほうが安全だからだという。
「いわゆるドバトで、都心で、10数羽が集っているとなると、おそらくエサをやっている人がいて、エサ目当てで集まっている可能性が非常に高いですね。そのマンションか、あるいは近隣にエサをあげている人がいるか、近くに精米所などがあれば、クズ米が出るかなど。
時間帯についても「エサをあげている人がいれば、それに合わせて集まっている可能性が高い」という。
原因を確実に知るためには、日中から夜まで、ハトの群れを1日中ずっと観察してみること。すると、おそらくメインでエサを食べている場所などが判明するそうだ。
「ちなみに、ハトも集う習性があるとはいえ、エサがなければ基本的に一羽ずつで生きています。猫の集会も実は同じで、たいていエサをあげている人がいる場合が多いですよ」
そういえば、以前、近所に三角ポールが数本置かれ、「ハトにエサをあげるな」と貼り紙が出たことがあった。
また、数年前になるが、「通学路に、夕方になると、猫がエサをもらってブラッシングされるためにズラリと並ぶ場所がある」と娘が話していたこともある。
それってもしかして……?
ちなみに、今回は、剣山のようなスパイク(針山)を窓枠に取り付けることで、ハトが来なくなった。
しかし、知人の話では、「敷き詰めた針山の、わずかにあいたすき間にみっちり座っている」などということもあるらしいから、油断はできない。
ハトに愛されすぎて、本当に困ってます。
(田幸和歌子)