サクラ「下屋はどんな産科医になりたい?」
下屋「私は……」
サクラ「その答えが見つかったら、帰ってこい。待っているから」

シーズン1では研修医だった下屋加江(松岡茉優)が、産婦人科の専門医として自分の進む道を探した。

11月17日放送、金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)シーズン2・第6話は、下屋にとっての試練と決断の回となった。
「コウノドリ」6話。経験の少なさを超え、今すぐ飛び込む松岡茉優の勇気「救命は、勉強する場所じゃねえ」
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第6話 あらすじ


ペルソナ総合医療センターからこはる産婦人科にピンチヒッターとして出向いていた産婦人科医・下屋加江。そこで、同じ「かえ」という名前の妊婦・神谷カエ(福田麻由子)と出会い意気投合。下屋の同期で新生児科医の白川(坂口健太郎)は、患者に首をつっこみすぎだと心配する。
ある日、カエの様子に違和感を覚えた下屋は、こはる産婦人科の院長へ報告。「週明けに検査する」と言われペルソナに戻った。しかし、検査を待たずに、心肺停止状態のカエがペルソナに緊急搬送されてきた。

「経験がない」という悔しい現実


下屋「普段はのほほんとしているんだけどね。いざとなると本当に頼りになるし、優しくて、厳しいところもあって、でも、愛はすごくあるっていうか。上手く言えないんだけどさ。私いつか、あんな産科医になりたいって思ってる」

こはる産婦人科で、どんな産科医になりたいかをカエに話す下屋。
下屋がなりたいという「あんな産科医」とは鴻鳥サクラ(綾野剛)のこと。サクラのことを丁寧に思い出し微笑みながら話す下屋を見て、カエは「下屋先生は、サクラ先生が好きなんだ」とからかう。

演じている俳優の松岡茉優と福田麻由子も、下屋とカエと同じく同い年で名前も「まゆ」が入っている。
子役からのキャリアがあり東京都出身という共通点もあるので、撮影現場でも話が弾んだのではないかと想像する。
クールな表情や寂しさのある演技が印象的な福田が、病室で松岡とキャッキャとはしゃいでいるシーンはとても可愛かった。

下屋加江と神谷カエの微笑ましい交流シーンから、心肺停止したカエの緊急搬送で状況は一変。下屋が気にしていた甲状腺クリーゼによって急激な心不全、肺水腫をきたし、カエは搬送途中に心停止となった。
甲状腺クリーゼは、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)などの甲状腺ホルモンが過剰になる病気が治療されていなかったり、病気のコントロールが不十分だったりするときに、さまざまな臓器に障害が生じ、生命に危険が及ぶ状態のことだ。
救命救急科が必死に蘇生を試み、サクラが死戦期帝王切開を決断。無事に産まれた赤ちゃんを残し、カエは亡くなってしまう。

下屋「なんで私、あのとき強く検査をすすめなかったんだろう? どうして甲状腺を触診しなかったんだろう?」
白川「下屋」
下屋「私のせいだよ」
白川「違う、お前のせいじゃない」

キョロキョロとせわしなく視線を動かし、何もない宙に答えを探すような下屋の表情が痛々しい。
ここで「お前のせいじゃない」と言ってくれる人がサクラや四宮(星野源)だったら、もしかしたら下屋も少しは落ち着いたかもしれない。しかし、側にいたのは同期の白川で、下屋をクールダウンさせてあげられるだけの「お前のせいじゃない」根拠や理由を示すことができない。
下屋も白川も、研修医から専門医になりまだ2年目。経験の少なさゆえにできないことがある、という悔しい現実が詰まったやり取りだった。


下屋のスタートとゴール


「コウノドリ」6話。経験の少なさを超え、今すぐ飛び込む松岡茉優の勇気「救命は、勉強する場所じゃねえ」
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下屋「私は産科に戻りたい。だから、私を救命に行かせてください」「救命に行って、全身管理を身につけたいんです。総合的に患者さんを診られる技術を身につけて、何かあったときに、お母さんと赤ちゃん両方を救える産科医になりたいんです」

しばらく休みを取ることになった下屋は、助産師の小松(吉田羊)とともにピアニスト・BABYの演奏を聴き「産科に帰りたい」という自分の気持ちを確認した。
6話の冒頭では「鴻鳥先生みたいになりたい」という抽象的な目標を口にしていた下屋。カエの死を経て、具体的な行動目標や目指す医師像を持つことができた。

長い入院生活を不安に感じていたカエを、下屋はずっと「ゴールがある。だからがんばりましょう」と励ましていた。
ゴールがあるからがんばれる、という下屋の励ましを借りるならば、今回ゴール(目標)を明確に設定できた下屋は、きっと救命救急科でもがんばることができるはずだ。

下屋が救命救急科への異動希望を打ち明ける前、サクラはこんなことをつぶやいた。

サクラ「今日、新月だって。だから赤ちゃんいっぱい産まれるんだって、小松さん張り切ってるんだ。迷信だと思っていたけど、意外と当たるんだよなあ」

迷信も意外と当たるというサクラに乗っかり、少しスピリチュアル的な話をさせてもらう。
占星術では、「新月の日」は物事をスタートさせたり新しいことにチャレンジしたりすると良い結果を得やすいと言われている日だ。

サクラがそれを知っていたかはわからない。でも、赤ちゃんがたくさん産まれる新月の日に、新しいスタートを決めた下屋。改めて、きっと大きな成果を持って帰ってきてくれると思えた。

加瀬「救命は“勉強する場所”じゃねえんだよ」


仙道「全身管理を身につけたいか。でも1年で産科に戻るんだよね、1年」
下屋「1年って言うのは目安で、必要であれば2年でもそれ以上でも、学ばせてもらえればと思っています」
仙道「違う違う。1年だけかよ、とかそういう嫌味で言ったわけじゃない。1年もたないって言ってるんだよ」
加瀬「下屋、学生気分なら今すぐ帰れ。救命は“勉強する場所”じゃねえんだよ」

緊急搬送されてくる患者に対して、救命の医師は迷う間もなく措置を決断し、実行しなければいけない。筆者の知人で救命に所属していた看護師の女性は「ここは戦場だと思った」と振り返っていた。
一刻一秒以下の時間を争う現場だ。「学ばせてもらう」のではなく「絶対に目の前の命を助ける」という当事者意識がなければ、救命科部長・仙道(古舘寛治)が言うように1年ももたず潰れてしまう。ただの嫌味な男に見えた仙道だが、救命救急科の部長にまでなった医師だ。
下屋の想像を超えた経験を積んできたのだろう。

加瀬(平山祐介)に忠告されたあと、下屋が少しだけ口を開けて息を吸い、そしてキュッと唇を結んでいた。
下屋は忠告を飲み込み、呼吸とともに気持ちを切り替えたのではないだろうか。仙道、加瀬、そして患者の命に、しがみついていってほしい。

下屋が去った産科では、お腹が痛いと小松が倒れてしまった。
子宮筋腫を放置していた小松が自分の身体と人生に対して決断を迫られる第7話は、今夜11月24日(金)よる10時から放送予定だ。
第6話は、TBSオンデマンドAmazonビデオTVerで配信されている。

(むらたえりか)

金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)
出演:綾野剛、松岡茉優、吉田羊、坂口健太郎、宮沢氷魚、松本若菜、星野源、大森南朋、ほか
原作:鈴ノ木ユウ『コウノドリ』(講談社「モーニング」連載)
脚本:坪田文、矢島弘一、吉田康弘
企画:鈴木早苗
プロデューサー:那須田淳、峠田浩
演出:土井裕泰、山本剛義、加藤尚樹
ピアノテーマ・監修・音楽:清塚信也
音楽:木村秀彬
主題歌:Uru「奇蹟」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

11月18日発売 TBS系金曜ドラマ『コウノドリ』公式ガイドブック (ヤマハミュージックメディア)
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