
年末年始は野球ファンにとって意外と忙しい。
と言うのも、この時期はテレビで多くの野球番組が放送されるからだ。
頼むからもう少し分散させて放送してください……と突っ込みたくなる野球番組のバーゲンセール。結果、その録画を消化している内に正月が過ぎ行く諸行無常。そんな中でテレビ朝日系列の特番『長嶋さんと中居くん』は心に沁みた。

中居君が運転する車の助手席に長嶋茂雄が乗り、後部座席に松井秀喜がいる風景。束の間のドライブを楽しみつつ、一行はミスターの母校・立教大学の食堂を訪ねる。この番組で印象深かったのがゲスト松井の存在感だ。お約束の「松井君はオリンピックの監督になると面白いよ」的なミスターからのキラーパスは笑って受け流し、長嶋さんが階段を上がる時はさりげなく肩を貸す。ハンパない大人力の高さ。43歳にして、この落ち着きはなんだろうか?
数年前、巨人宮崎キャンプ取材の帰りの飛行機で何列か前に松井が座っていたことがある。老若男女みんなその姿を見ただけでなぜか笑顔になってしまう大きさと存在感は強烈だった。高校時代に甲子園で5打席連続敬遠を経験し、巨人とヤンキースの4番を打ち、日本人選手では唯一のメジャー年間30本塁打をクリア。
取材対応にみる懐の深さ
恐らくアンチ巨人でも、松井秀喜を嫌いという人は少ないのではないだろうか? 1990年代の松井は何かを象徴していた。大げさに言えば、「古き良きプロ野球」そのものである。あの頃の野茂英雄やイチローが、新時代のヒーローという立ち位置だったのとは対照的に、長嶋監督の愛弟子にして、王貞治の55本塁打超えを託され“55番”を背負った元甲子園の怪物はマスコミが待ち望んだ昭和の香り漂う王道スターだった。なにせ92年ドラフト前日のスポーツニッポン一面は「巨運だ松井 長嶋引き当てる!!」だ。いや松井って阪神ファンで有名だったはずじゃ……なんて突っ込みは野暮だろう。
松井が凄いのは、そんな自身の置かれた特殊な立ち位置を逃げずに受け入れたことだ。入団会見時には「最近、プロ野球の人気が下がっていると言われていますが、非常に残念なことです。相撲、サッカーなどの他のスポーツに負けることがないように盛り上げたいと思います」 と堂々宣言。記者の毎日同じような質問にも淡々と答え、東スポのAV大好き的な下ネタにまでしっかり付き合う。この懐の深さはヤバイ。かと思えば、普段から忘れ物が多く、寝坊しまくり時間にもルーズという一面も持つゴジラ。日本を代表するスラッガー……なんだけど、どこか憎めず、気が優しくて力持ち。しっかりスケベ。

面倒な新年会の時期に思い出したい松井の姿
仕事始めのこの時期、付き合いで新年会が続き「あぁしんどいな……」と憂鬱な人も多いかもしれない。個人的にそんな正月休み明けの倦怠期には、松井の巨人時代のクリスマス契約更改を思い出すようにしている。時にサンタクロース人形を頭に乗せ、おもちゃのバズーカ砲をぶっ放すサービスショットに協力し、毎年クリスマス更改の理由を聞かれると「たまたまこの辺が空いているという寂しい事情もあるんですが」なんて爆笑を誘う。スーパースター松井ですら、毎年この手の茶番スレスレの記者会見をプロ野球選手のオフのイチ仕事としてしっかりこなしていたのだ。別に「もうそういうのは勘弁してください」と断ったところで誰も文句は言わないだろう。なのに、報道陣が用意した小道具を持ちポーズを決める律儀な姿。あの社会人力は凄い。よし俺も今夜は新年会に顔出そうかな。別に毎週会うわけじゃないし、年に1回の付き合いでその後の仕事が円滑に進むなら……なんつって「ウコンの力」を一気飲み。あの頃、サンタの帽子姿はマジでダサくて、死ぬほど格好良かったっすよ松井さん。
いつの日か、俺らは松井秀喜のような大人になれるだろうか?
【プロ野球から学ぶ社会人に役立つ教え】
新年会は時に面倒くさいけど、年に1度くらい笑顔で乾杯に付き合うのも大人のたしなみ。
(死亡遊戯)