石原さとみ主演、野木亜紀子脚本のドラマ『アンナチュラル』。架空の組織「不自然死究明研究所(UDIラボ)」を舞台に、死因究明のスペシャリストたちが活躍する法医学ミステリーだ。
集団練炭自殺の謎を通して、ミコトの過去が語られた第2話は、第1話に続いて圧巻の高密度&過圧縮エンターテイメントだった。それがストーリーのアイデアだけでなく、ちゃんと人間ドラマになっているのだからすごいとしか言いようがない。これが毎週続くの? マジですか? 視聴率は第1話を超える13.1%。

ミコトと中堂の共通項
警察の依頼によって集団練炭自殺の現場に向かったUDIラボの三澄班、法医解剖医の三澄ミコト(石原さとみ)、臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)、バイトの記録員・久部六郎(窪田正孝)の3人。彼らは現場に来られない警察の検視官のピンチヒッターとして呼ばれたのだ。
現場には4人の遺体があった。ミコトと顔なじみの刑事・毛利(大倉孝二)は集団自殺と断定するが、ミコトはきっちり解剖してから判断するという慎重な態度を崩さない。解剖の結果、4人のうち1人の少女は練炭による一酸化炭素中毒ではなく、凍死だということが判明する。
解剖の前に毛利が4人のプロフィールを読み上がるのだが、それに苛立ちを隠さないのが中堂系(井浦新)だ。
「いい加減にしろ! 必要な情報は現場の状況だけだ。自殺に誘導するためのクッソくだらねぇ話をいつまでもグダグダと」
めちゃくちゃ口が悪いが、中堂が言っているのは、勝手に自分にとって都合の良い物語を作ってしまうことの危うさだ。毛利は解剖の最中も「若くして人生に絶望して自殺、よくある話です」などと語っていたが、ミコトはさりげなく「そうあっちゃ困ります」と諌めている。人は自分が手に入れた情報をつなぎあわせ、勝手に自分にとって都合の良い物語を作り上げがちだ。
分析を進めた結果、少女・三毛猫の胃から「タスケテ」と書かれた紙を発見、さらに密閉された部屋が一度誰かに開けられたことを突き止めたミコトだったが、警察はそれらを無視。被疑者死亡、少女は身元不明のまま落着させようとした。ここではミコトは強く異議を唱える。中堂とミコトは客観的な事実からのみ真相を解き明かそうとしているのだ。
「不自然な死」と「不条理な死」に立ち向かう
分析結果から、三毛が凍死した現場へとにじり寄っていくミコトと久部。それにしてもあの鹿肉のカレー風味おにぎり、美味しそうだったな……。そして、ついに三毛が凍死した(させられた)冷凍車にまでたどり着き、もう一人の被害者・花(松村沙友理)の存在を知る。
しかし、2人は犯人(『仮面ライダービルド』の赤羽役・栄信)に冷凍車の中に閉じ込められてしまい、マイナス20度の冷気に襲われる! しかもミコトのガラケーは電波が通じない!(久部のスマホはバイクに置きっぱなし) しかし、こんな状況でも、ミコトは三毛が花を守ろうとしたことに思いを馳せる。そして、静かに怒りを燃やす。
「彼女たちを好きにしていい権利は誰にもない」
UDIラボのメンバーは「不自然な死」に立ち向かうが、ミコトは「不条理な死」にも立ち向かう。
そして、ここからが『アンナチュラル』のすごいところなのだが、犯人は冷凍車を池に水没させてしまう! マイナス20度だけでも大ピンチなのに! 鬼か! しかし、ミコトは水の性質を検査して結果をようやくつながった電話で中堂に伝え、中堂は数値から池を割り出して救助を差し向ける。スマホがなくても場所はわかる。オープニングから全部つながっているのだ。つくづくすさまじい脚本である。
ミコトと久部の救出、犯人の逮捕という劇的なシーンをクライマックスに持ってこないどころか、ほとんど描かないというのも面白い。このドラマは視聴者にわかりやすいカタルシスを与えるために作られていない。
絶望するならメシを食え
「絶望するには十分だ」(中堂)
「絶望? 絶望してる暇があったら、美味いもの食べて寝るかな」(ミコト)
中堂の言葉は、練炭自殺による一家心中で生き残った子どもについて語ったもの。ミコトの言葉は、生還してから久部と東海林に微笑みながら語ったものだ。
水没していく冷凍車の中で、ミコトは久部に問われるまま過去について語る。彼女は練炭自殺した家族の生き残りだった。
冷凍車の中で、ミコトは過去と現在と未来について語った。自分の過去、「法医学の7K」という今の仕事についての冗談、そして久部に語りかけた「明日、何食べよっかなぁ……」という言葉。
「死」とは過去のことだ。ミコトたちはすでに起こった過去のことを徹底的に調べ抜く。それは現在のため。残された人々の疑問を解き、悲しみを癒やすため。そして未来のため。同じ過ちを犯さないため。人々が生きていくため。第1話で語っていた「法医学は未来のための仕事」という言葉のとおりだ。
第3話はミコトが法廷に立つ。今夜10時から。
(大山くまお)