先週放送された第3話は、大きな仕掛けが施されていた第1話、第2話から一転してスリリングな法廷劇に。引き出し多い! ネットで話題になりがちな「男VS女」という枠組みも持ち込まれていた。視聴率は一段落して10.6%。
「別れられないから事件が起こる」
ドラマの冒頭、スマホデビューしたミコト(石原さとみ)と楽しそうに連絡先を交換する久部(窪田正孝)、東海林(市川実日子)ら。それを見て、所長の神倉(松重豊)は「2人とも無事でよかったよ~」と安堵の声を漏らす。神倉の言葉は、UDIラボの家族的な温かさを感じさせるのと同時に、第3話は第2話の続きであることを強調している。このドラマは一つの事件が解決したらリセットされるキャラクター主体のドラマではないのだ。
今回、UDIラボに持ち込まれたのは、有名主婦ブロガーの桜小路しずく(音月桂)が夫の要一(温水洋一)に刺殺されたという事件だ。公判にあたって、検察側の代理証人としてミコトに出廷してほしいという依頼である。
「殺すくらいなら別れればいいのに」と呟く久部に、ミコトは「別れられないから事件が起こるんじゃない? 殺人事件の半数以上は、親子兄弟夫婦といった親族間殺人」と言う。無理心中という形で実の親に殺されかかったミコトが言うから重みがある。ミコトに視線を送る久部も、そのこと思い出しているはずだ。
ミコト、法廷に立つ
UDIラボにやってきた検事の烏田(吹越満)は、初対面のときから女性(なかでも若い女性)に対する偏見丸出しの人物だった。ミコトから名刺を受け取ると「女性だとは……」と絶句する。
UDIラボでは資料の5年保存をルールにしているため、刺殺事件の傷口(!)まで証拠として残されていた。公用メールを60日で自動廃棄する財務省にも見習ってもらいたいものだ。しかし、烏田は「予定外の証拠は不要です」とにべもない。「証拠も証人も決められたもの以外出しません」と烏田は言う。ドラマ『99.9─刑事専門弁護士─』では、弁護士の深山(松本潤)が公判中、事前に検事に伝えていない証拠を持ち出して怒られるシーンがあった(シーズン2の第1話/レビュー)。
しかし、公判中に証拠の包丁と傷跡に矛盾があることを発見したミコトはその場で証言を撤回する。これまでの裁判をひっくり返してしまったのだ。実は要一には妻を殺した記憶がなかった。警察に自白を強要され、証拠を突きつけられて犯行を認めてしまっていたのだ。「気が弱いがゆえの悲劇」(ミコト)である。
男VS女
弁護側の証人として法廷に立つことになったミコトに対して、弁護士の亀岡(大谷亮介)は「若い女性であるということが不利になるかもしれません」と告げる。「若い女性」と言われてまんざらでもなさそうなミコトは可愛いが、事態はもっと厄介だった。裁判員は年輩の男性が多く、裁判長も保守的な人物。
烏田は女性に対する偏見を法廷戦術に取り入れてきた。ベテラン法医解剖医の草野(斉藤洋介)は、法廷で「女性だということでチヤホヤされるんでしょうが、最近は未熟ながらもいっぱしの口をきく女性研究者が増えている」と言い放つ。ベテランのくせに偏見丸出しだ。そして烏田はミコトを攻撃しはじめる。攻撃するのはミコトが女であることについて。
「人のせいですかー。責任転嫁は女性の特徴です!」
「自分の確認不足を棚に上げて、すべて人のせいにして、相手を感情的に責める。彼氏が相手なら結構ですが、ここは法廷です」
「未熟な女性研究者の口車に被告人まで乗せられてしまった。神聖なる司法の場が女性の気まぐれで振り回されるとは由々しき事態です」
「あー、これだ。
ここまで言われて黙っているミコトではない。すぐさま言い返すが、それも烏田の術中。烏田の念入りな挑発に乗ることで「女は感情的な生き物」だとミコトが示してしまう形になった。弁護士の亀岡が指摘したとおり、若い女性が年輩男性たちから信用されていないことを烏田は知り尽くしていたのだ。れっきとした印象操作だが、これが有効になってしまうのが日本の現状であり、その醜い部分を冷酷に描いている。冷静でありつつ、微妙に語尾を変化させて憎々しさを増幅させる吹越満がイヤになるくらい上手かった。
「女っていうのは都合が悪くなると人のせいにして、あげく被害者面するんです。自分の損得でしか動かない。私の人生、女なんかには預けられません」
ついには弁護されている要一までも女性への偏見を剥き出しにする。彼は温厚な人物だったが、妻に迫害されつづけて女性への信用を失っていた。ネットでは事件を契機に「男VS女」の論争が始まる。
逃げるは恥だが役に立つ
「負ければ、UDIラボの信用を失います」
所長の神倉はミコトに念押ししていた。このまま裁判に負けるわけにはいかない。烏田の挑発でミコトと東海林の怒りは沸点に達していた。また、気が弱いという理由で有罪にされかけている要一のことも放ってはおけない。ミコトの養母・夏代(薬師丸ひろ子)の「気が弱い人や声が小さい人が損しちゃう世の中なんだよね、悲しいかな」という言葉は、ドラマ『anone』の持本舵(阿部サダヲ)のことを言っているようだ。
ここからUDIラボの反撃が始まる。やり方はUDIラボらしく、徹底的なデータの検証だ。度重なる実験の末、ついに傷口を保存していたホルマリン液から鉄やクロムなどの成分を検出することに成功する。つまり、包丁はセラミック製ではなかった! やっぱり証拠の保存は大切なのだ。聞いてるか、財務省。
一方、中堂班のリーダー、中堂系(井浦新)は訴訟を抱えていた。訴えたのは、まさかの臨床検査技師・坂本(飯尾和樹)! 訴訟の内容は度重なるパワハラ。
そこでミコトは中堂に協力を求める。ミコトの策とは……なんと、法廷に自分が立たず、中堂に立ってもらうというものだった。その代わり、自分が坂本に会って次の職を世話することで訴訟を取り下げてもらう。「検事VSヒステリー女法医学者」つまり「男VS女」という構図から「尻尾巻いて逃げた」ことになるが、「女である」という攻撃材料を奪うことになる上、偏見も働かない。まさに「逃げるは恥だが役に立つ」だ。
ただし、ミコトの戦術は真実を明らかにすることはできるが、女性に対する偏見を正すことはできない。坂本と会ったときにミコトが言った「わかりあえない相手は、います」という言葉が重い。
UDIの最終兵器・中堂系
法廷に立った中堂はいつも通り態度が悪いが、言っていることは正論だ。烏田に草野と解剖実績を比較された中堂はこう言い放つ。
「カビの生えた経験が何になる? 医療と同じで法医学も年々進歩している。
か、カッコいい……。さらに大声で恫喝する烏田に対しては、
「まぁまぁ、そう感情的になるな」
と、いなしてみせる。そしてミコトたちが検証によって積み上げてきた事実を烏田に突きつける中堂。ホルマリン液からは異常に多いケイ素が検出されており、ケイ素は「合砥」という高級な砥石から出ていたもの。つまり、凶器はセラミックの包丁ではなく良く手入れされたステンレスの包丁! 真犯人は京料理の店を出していた、しずくの実弟(清水優)だった。冤罪が晴らされ、礼を言う要一に、中堂は「ふざけるな」と返す。
「“女は信用できない”とかお前がクソ小さえことを言うから俺が駆り出された。人なんてどいつもこいつも切り開いて皮を剥げばただの肉の塊だ。死ねばわかる」
法廷で「男VS女」を持ち出されたミコトだが、その枠組みをスルーして「偏見VS事実」のマッチアップに置き換え、見事に勝利してみせた。
ミコトや中堂が戦っている相手は偏見だ。第2話では刑事の毛利(大倉孝二)が勝手に作り上げた偏見をもとにしたストーリーに2人揃って反発していた。今回は妻を恨んでいた要一が犯人に仕立て上げられた。偏見には事実を積み重ねて対抗するしかない。これが『アンナチュラル』というドラマの大きなテーマなのだろう。
しかし、東海林が言うように理想は遠い。ミコトは「今日のところは法医学の勝利ということで良しとしとくの」と自分を納得させるように言うが、神倉所長は「I have a Dream! いつかあらゆる差別のない世界を。あきらめないことが肝心です」とキング牧師の演説の一節を叫んでいた。UDIラボは信用できる組織だ。
それにしても中堂には秘密が多い。ドラマのエンディングでは「いつまでも逃げおおせると思うなよ」と烏田に凄まれていたし、坂本に訴えられていても「俺はUDIを辞めない。誰に何を言われようともな」と言い切っていた。強い意志が表れている言葉だ。フォレスト葬儀社の木林(竜星涼)とも情報交換を続けている様子。坂本が言っていた「月曜に“クソ”と言うことが多い」というのも何か秘密があるのでは……? と勘ぐってしまう。今後の展開が楽しみだ。
今夜放送の第4話では、バイク事故で亡くなった男と残された家族のため、ミコトたちが死因の究明に挑む。今夜10時から。
(大山くまお)