1月12日よりスタートした石原さとみ主演のTBS金曜ドラマ『アンナチュラル』。「不自然死究明研究所(UDIラボ)」を舞台に、死因究明のスペシャリストたちが活躍する法医学ミステリーだ。
逃げるは恥だが役に立つ』で大ヒットを飛ばした脚本家・野木亜紀子の最新作は、今クールでもっとも評価の高いドラマの一つとして注目を集めている。

ドラマスタート前(2017年10月)に行なわれた主人公の法医解剖医・三澄ミコトを演じる石原さとみの合同取材の模様を前後編の2回にわたってお送りする。

どのようにミコト役が作られてきたか、ドラマ制作の裏側などについて、たっぷり語ってもらった。ちなみに石原さんの語り口調とテンションは、ほとんどミコトのまんまだったことを付け加えておきたい。

各話レビューとあわせてどうぞ。
秘話「アンナチュラル」石原さとみにがっつり聞いていた。本読みに行ったら「ちょっと違う」と言われて…
「アンナチュラル」出演の(左から)窪田正孝、石原さとみ、井浦新(C)TBS

「私」を演じてほしいと言われたのに「私」が何かわからない


──ここまで撮影を進めてきて、雰囲気はいかがでしょうか?

石原 そうですね、楽しいです。TBSさんの作品はすごく久しぶりで、連ドラは12年ぶり、主演は初めて、スタッフさんも初めての方ばかりなので、とても新鮮な気持ちです。

自分の役柄も本当に無理をせず、寝て起きてスタジオに行けば、すぐに演じられるようなキャラクターなんです。あえてそれを塚原(あゆ子)監督も求めていて、「お芝居しなくてもいい」と口癖のように共演者の方たちにも伝えています。だから、すごくナチュラルに、自然体でいられることができていますね。

最初の頃はどういう役柄かわからなくて、クランクイン前はすごく不安でしたが、塚原監督ともよく話させていただいて、クランクインしてからはスッと役に入れるようになりました。今はただただ、現場に来て「生きてる」だけです(笑)。

──野木さんの脚本を最初にお読みになったときの感想をお聞かせください。


石原 今回は「あて書き(キャストを想定して脚本を書くこと)」と言っていただいたんですね。でも、それってどうにでも捉えられるんですよ。選択次第で、ぜんぜん印象が変わってしまう。野木さんとは最初に中華料理屋さんで会食したのですが、そのとき、ちょうど『地味にスゴい! 校閲ガール・河野悦子』の撮影が終わって番宣の収録のために台本を読み返していたタイミングだったので、前のドラマの役柄をちょっと引きずった状態だったんですよ。

──悦ちゃんを引きずったままだったんですね(笑)。

石原 そうそう。そしたら脚本にも(悦子の)口調が残っていて、「どうしよう!」と思ったんです。悦子は私ではないですからね。あて書きと言われても、自分のことがよくわかっていないので、どの部分の自分を出せばいいのかわからず、ものすごく難しいと思って。ちょっと演じているほうが私は楽なんです。だから、クールでドライな感じで作って、本読みに行ったら「ちょっと違う」と言われて(笑)。ドライな感じのほうが演りやすいのにな……と思いつつ、「そうですよね~」って(笑)。
たしかにちょっと暗かったんです。「もっと柔らかくて穏やかで、石原さんのままでいいんだよ」って言われて、「私って何なんだろう!?」とすごい思いながら本読みをしました。

「私」が何かがわからなくて、でも「私」を演じてほしいと言われて。すごく戸惑ったので、クランクインまでに近くの友人たちに「私ってどういう人間?」って聞いて回りました(笑)。家族も含めて、一番身近な人たちが私の印象について話してくれたので、その中からミコトにあてはまる部分をチョイスして、そこから膨らませてみようと思ったんです。クランクイン前にもう一度本読みをさせてもらって、そこで提示したものに「その方向性で」と言われたので「こっちなんだ!」と。

──周囲の方から聞いた自分の印象について覚えているものはありますか?

石原 自分を過大評価するのでも何でもなく、第三者の意見として「いろいろなあなたがいるけど、悦子じゃないときのあなたはちゃんと柔らかいよ」「強くて意志はあるけど、伝えるときにはちゃんと理性が働くから大丈夫だよ」と言われました。今までは感情的な役が多くて、そこに引っ張られることもあったんですけど、この子(ミコト)は思いやりがたくさんあって、柔らかくて穏やかで、いろいろな過去があるからこそ強さが持てるけど、その分、人の悲しさも知っているから心寄り添えるんだろうな、と。自分自身もいろいろな挫折を経験しているので、そこの部分の寄り添い方はわからなくはないです。自分の経験も踏まえて理解できた感じがしました。

朝から天丼を食べる女・ミコト


──今回の白衣は石原さんのアイデアが取り入れられているとお聞きしましたが、ビジュアルの面でこだわった部分がありましたら教えてください。

石原 この白衣については、襟元が鋭角に深く入ると大人っぽく見えるとか、ロゴをを縦にしたほうがいいんないかとか、いろいろ話しましたね。
ミコトの私服に関しては、(これまで自分が演じてきた役柄の)何かと似ていると戸惑うことがあるので、そこをお願いしました。自分が演じたことのないような洋服を着たいと。今までデニムを着たキャラクターを演じたことがないので、デニムを着ている女性だったら嬉しいという話をさせてもらいました。

髪の毛に関しては、第1話の最初に輪ゴムで髪を縛るというカットがあったんですが、髪の長い人が髪を輪ゴムで縛るというのが嫌だったんです。ほどくとき、輪ゴムは絶対に痛いんですよ(笑)。もう一つ、ほどくときにミコトというキャラクターが女性っぽくなるのが嫌だったんです。もうちょっとユニセックスな感じにしたかったですね。女っぽさがまったくないわけではないですけど、外見からそんなに醸し出すようにはしたくないと思い、ずっとお風呂上がりで洗いざらしな感じでいました。

──ミコトといえば、台本では第1話の冒頭で納豆巻きを食べていましたね。さばさばしたキャラクターなんだろうなと思いましたが。

石原 それが変わったんですよ! 海外ドラマを見ていると、冒頭でどういうキャラクターかが一発でわかるところが好きなんです。「ミコトはたくましい子だ」といろいろな方がおっしゃっていたのですが、たくましさとは生命力であって、一度死にかけた人間が生きている意味も含めてたくましさを表現したいと思ったとき、納豆巻って美容的にもいい感じじゃない? と思ったんですよ。
それはそれで女性っぽいじゃないですか。

──たしかに。

石原 塚原監督ともいろいろ話しまして、がっつり食べてる感じがいいというので天丼に変わりました(笑)。(ミコトは)丼好きなんです。朝から丼行きます。しかも、そのシーンは本当に朝から撮影して、5、6回食べたので吐きそうになりました、本っ当に(笑)。

──では、力強さを大事にしているということですか?

石原 押しが強い力強さというよりも、すごく優しい人って強いと思います。感情をそこまで表に出さない人って、とても強いと思うんですよ。そういう強さを持っている子であってほしいと思っています。怒るようなことがあっても力任せではなく、諭すように言える子であってほしい。自分の意志をバンバン伝えて正義をふりかざすのが強いのではなく、ちょっと誘導してみるとか、受け取ってみるとか、受け流してみるとか、あえて聞かないとか。そういう強さは私自身、憧れている部分があるので、そういう人を演じられたらいいな、と思いました。


──法医学についてスポットが当たったドラマですが、初めて知って驚いたようなことはありましたか?

石原 私、法医学(のドラマに出演するのが)3回目なんですよ。だからけっこう知ってました(笑)。でも、各回でハッとさせられることが多いですね。あと、UDI(不自然死究明研究所)を本当に作ろうとする構想があったことにびっくりしました(日本法医学会による「死因究明医療センター構想」)。もしUDIが本当にできていたら、解決した事件がいろいろあったんじゃないかなと思います。あまり大きなことは言えませんが、このドラマを通じて、いつかUDIみたいな組織が国の中にできたらいいなと思います。一歩と言わず、半歩だけでも進めることができれば、すごく嬉しいですね。

後編に続く

(大山くまお)
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