石原さとみ主演、野木亜紀子脚本の金曜ドラマ『アンナチュラル』。第4話の放送が終わったところだが、評価はうなぎのぼりだ。


石原さとみの合同取材ルポ、後編では石原がドラマのテーマについて大きく踏み込んで語る内容となった。

インタビュー前編はこちら
各話レビューとあわせてどうぞ。
もっと秘話「アンナチュラル」石原さとみに聞いていた「カラスがカァカァ鳴いても、カットをかけない」現場
「アンナチュラル」出演の(左から)窪田正孝、石原さとみ、井浦新(C)TBS

ミコトはスターでもヒーローでもない


──生と死について考える台本になっていると思いますが、石原さんはこの作品をきっかけにどのようなことを考えましたか?

石原 うーん、生と死か……。もし自分の家族が不自然死を遂げたら解剖するかどうかは、友達とずいぶん話し合いました。安楽死でも臓器移植でも、自分自身に置き換えるとすごく選択に困るでしょうね。

でも、この作品については、死のことよりも「今をどう生きるか」が一番大切なこととして描かれていると思います。大げさなことは何もなく、ミコトは今生きていることの実感を得ていると思うので、生きることへのたくましさ、しぶとさについて自分の中でも良い影響をもらえたらいいな、と思いますね。

──ナチュラルに演じられているということですが、解剖医ということでスペシャリストの雰囲気も醸し出さなければいけないと思います。観ている人が「この人なら謎を解いてくれるかもしれない」と思うような演技はどのようにされているでしょうか?

石原 私、まったくないです。そんなつもりで演じているつもりはまったくないので(笑)。私だけが解決するわけじゃなく、みんなでヒントを得て、みんなで解決しているんですよね。たまたま私が気づくこともいっぱいあるんですけど、中堂さん(井浦新)にもちゃんと頼るし。スターでもヒーローでもなく、淡々と仕事をこなしていくんです。
でも、それは冷たいのではなく、ちゃんと思いやりがある淡々さであって。

解剖医としてのセリフはたくさんありますけど……わからないことは言わないです。気持ちが乗らないことも言わない。なぜ気持ちが乗らないかを監督に伝えると、「じゃ、言わなくてもいい」となることが多いです。「これはこういう意味だよ」と説明されて、「ああ、なるほど」と思うこともいっぱいあります。本当は全部言いたいんですよ。野木さんの脚本は好きなセリフがいっぱいあるし、大切なセリフもいっぱいあるし、それが何かの伏線かもしれないし。でも、「ん?」と思うこともあって。セリフが(頭の中に)入らないときほど引っかかっているというか、入らない理由を理解していないんです。その理由がわかればすらすらと入っていきますね。

(セリフが)入るってことは無理していなくて。(ミコトは)「何の職業?」と聞かれても見た目ではわからないと思うんですよ。
何の仕事かわからない女の子が「あ、法医学者だよ」と答える感じ。線が引かれていない感じですね。

──家でのシーンも職場でのシーンもあまり変わらない感じのお芝居ですか?

石原 気持ちは変わらないですけど、会う人によってテンションも変わりますからね。家族のシーンですけど、本当の家族じゃないし、家族じゃなくても家族として接してくれていて、どこかで客観視するときもあれば、主観で娘として過ごしているときもありますし。薬師丸(ひろ子)さん演じるお母さんに対しても、お母さんとして見るときもあれば、(役柄の)弁護士として見るときもあって。

(UDIにいるとき)中堂さんに対しても、六郎(窪田正孝)に対しても、東海林(市川実日子)に対しても、気持ちは変わらないんだけど、人によって接し方は変わってきますよね。探ったほうがいい相手もいるじゃないですか。「中堂さんは今話しかけてもいいのかな?」とか。東海林がテンション高いなー、と思ったら、こっちが自然にクールになるときもあるし。人によって距離感が変わるような生っぽさが見せられたらいいな、と思ってます。

「その動き、ドラマっぽいからやめて」


──今回のミコトという役は、100%演じているというより、生の石原さんが何10%かの割合で入っているような感じなんですか?

石原 私自身というよりも……これはすごく難しくて、この前も実日子ちゃんともその話をしていたんですが、こんなに本能的でいられるキャラクターも他にないというか、普段は計算しながら理性で考えて演技を組み立てるんですけど、ミコトは寝起きがちょうどいい子なんです(笑)。寝て起きて、あくびするぐらいの感覚で演じたほうが楽というか。


クランクイン直後にみんなで話していたのは、自分の中でテンションが0から100まであったとき、今回は30と50の間を行ったり来たりするぐらいでありたいと思っていて。ここの部分を維持するのはすごく大変なんですよ。私はプライベートのとき、このへんの(手で50から80ぐらいまでを示すポーズ)行ったり来たりがけっこう大きいんですけど、ミコトは真ん中ぐらいの行ったり来たりが多いんですよ。だから、上がらないように、下がらないように気をつけて演じてます。

──『地味にスゴい!』の悦ちゃんとか『シン・ゴジラ』のカヨコさんなら100ぐらいですよね。

石原 そうそうそう。そこに行かないように。テンションのマックスが50ぐらいで維持できるように注意して演じていました。今までは本能的に見えるようにけど、理性的に考えて、頑張ってテンションを上げていたんです。でも、今回は上げなくていいんだ、ニュートラルのままでいいんだ、って。塚原監督にも、ちょっとでも(テンションが)飛び出してしまったら、すぐに反応して調節していただいています。「その動き、ドラマっぽいからやめて」とも言われますね。
監督、エキストラさんにも「不自然だから喋っていいよ!」って言ってますよ(笑)。

──へぇ~。

石原 エキストラさんも、実はエキストラさんではなくて、本物の人たちを使ってるんです! 会社のシーンだったら、実際のそこの会社で働いている人たちに出演してもらっているんですよ。レストランも実際の名前を使わせていただいたり、本当にそこで食べたい人たちに出てもらったり。実際の商品名とか、バンバン出ちゃいますからね。いいのかな? って思っちゃいます(笑)。

今まではいろいろな制限の中でお芝居をしていたんですけど、制限がないってすごく新鮮ですね。飛行機の音がしても、船の音がしても、カラスがカァカァ鳴いても、カットをかけないんです。そんな現場は初めてなので、音声部の人は大丈夫かな? アフレコにするのかな? って(笑)。「録れてますよ~。ウチのスタッフは優秀なんで」って言われました。

──お話を聞いていると、フェイクドキュメンタリーみたいですね。


石原 そんな感覚です! こんな現場、ないですよ! ダブルトークって知ってます?

──演者さんが同時に喋る方法ですよね。

石原 私、初めて経験しましたよ! 他の現場では、だいたい相槌を打っちゃいけないんですよ。私が何か言い終わった後に「ハイ」と言わなきゃいけないんです。

──そうですよね。

石原 今の「そうですよね」もちょっと早いんです(笑)。

──(間を置いて)そうですよね。

石原 そんな感じです(笑)。それが今まで普通だったのに、今回は逆に「段取りっぽくなってるから」と言われますから。「えっ、間に相槌打ってもいいんですか?」って。「へぇ~」とか「すご~い」とか、何言ってもいいんです。こんなにアドリブの多い現場も初めて。本当に今回は新鮮なことばかりですね。
スタッフさんも、監督の指示も、演出方法も、全部新鮮です。

脚本も、私、今までは脚本に疑問点が多かったんですよ。「これ、どういう意味ですか?」とか「どうしてこうなるんですか?」とか。でも、野木さんの脚本は一回読んだだけで理解できて、引っかからないんです。私、マネージャーさんに「脚本先行の作品に出たい」とずっとお願いしていて。私が前に出る作品ではなく、脚本が先のものがやりたいと言っていたのですが、その願いがかなってすごく嬉しいです。

(大山くまお)
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