石原さとみ主演、野木亜紀子脚本の金曜ドラマ『アンナチュラル』。架空の組織「不自然死究明研究所(UDIラボ)」を舞台に、死因究明のスペシャリストたちが活躍する法医学ミステリーだ。


1話完結という形だが、事件が解決したらすべてリセットされるようなキャラクター主体の謎解きドラマではなく、エピソードとエピソードの関連性が強く意識された作りで、話が進むにつれて登場人物たちが抱えている過去や問題意識などが明らかになっていく。主人公だけでなく、主要登場人物の人物像をそれぞれ掘り下げているので、UDIラボの面々は非常に魅力的に見える(もちろん、役者の力量も大きく関わっている)。

また、事件の解決がメインストーリーだが、話の主眼は犯人の逮捕ではなく、事件にかかわった人々にまつわるドラマに置かれている。「毎週似た構成で物語が進み、最後の5~10分で円満解決」という1話完結の事件・問題解決ドラマの“お約束”から意識的に離れようとしているのが『アンナチュラル』だ。

先週放送された第5話は「死の報復」というタイトルからして非常にミステリー色の強いエピソードだったが、エンディングはひどくほろ苦いものだった。そこで浮き彫りになったのは、UDIラボの法医学医・三澄ミコト(石原さとみ)と中堂系(井浦新)の大きな断絶だ。

「アンナチュラル」5話「永遠に答えの出ない問い」を繰り返す。絶望を乗り越えた女、乗り越えていない男
イラスト/まつもとりえこ

絶対に解剖してはいけない遺体


態度は異様に悪いが、仕事はできる法医解剖医の中堂系。彼がUDIラボでの仕事に執着しているのは、殺された恋人・糀谷夕希子(橋本真実)の死の謎を自らの手で解き明かすためだった。

中堂は前職の日彰医大時代、夕希子の解剖を担当していた。彼が逮捕されたことがあるというのは、自ら解剖を行ったことで証拠隠滅の疑いをかけられたからであり、誤認逮捕だった(第3話に登場した検事の烏田はまだ疑っている)。そして夕希子を殺した犯人はまだ捕まっていない。UDIラボにいれば、全国から不自然死の情報が集まってくる。中堂は夕希子が連続殺人犯に殺されたと考えており、夕希子と同じく口内に「赤い金魚」のような跡がある遺体を探していた。


そんな中、UDIラボに新たな遺体が運び込まれてくる。依頼主は青森に住む鈴木巧(泉澤祐希)という若い男。海に飛び込んで自殺したとされる彼の妻、果歩(青木美香)の死の真相を知りたいというものだ。巧は果歩が自殺ではないと確信していた。2人は深く愛し合っており、関係も円満そのものだった。

協力しあって手際よく解剖を進めるミコトと中堂。
そこへ所長の神倉(松重豊)とフォレスト葬儀社の木林(竜星涼)が血相を変えて飛び込んできた。巧は果歩と入籍をしておらず、彼女の実家から遺体を強奪して解剖を依頼していた。つまり、これは解剖してはいけない遺体だったのだ!

巧を演じた泉澤祐希は、なんといっても『ひよっこ』のみね子(有村架純)の幼馴染、三男役でおなじみ。最近は『コウノドリ』で聾唖の夫婦の夫を演じていた。まっすぐな気持ちの若者を演じさせると上手い。しかし、このエピソードでは巧のまっすぐさが悲劇を招く。


「永遠に答えの出ない問い」に向き合うこと


「考えたことがあるか? 永遠に答えの出ない問いを繰り返す人生。今、結論を出さなければ、もう二度と、この人物がどうして死んだのかを知ることはできない。今、調べなければ、調べなければ、永遠に答えが出ない問いに一生向き合い続けなければいけない。そういう奴を一人でも減らすのが、法医学の仕事なんじゃないのか?」

中堂は独断で果歩の遺体を調べ続けていた。遺体から死因の鍵を握る肺だけ抜き取っていたのだ。中堂は巧の恋人の死への疑念を、自分の境遇と重ねて考えていた。中堂自身が「永遠に答えが出ない問い」に一生向き合い続けているのだ。
「調べなければ」を二回繰り返したところに意味を感じる。彼の仕事は「調べること」である。中堂は自ら青森まで出向いて現場を調べ上げる。もちろん、これは業務ではない。彼の意志でやっていることだ。

一方、ミコトも「永遠に答えが出ない問い」に向き合ってきた。
彼女は子どもの頃、一家心中で母親に殺されかけた経験がある。母はなぜ夫と娘と息子を殺そうとしたのか? 躊躇はなかったのか? 今、本当の理由を知ることはできない。だが、義母の夏代(薬師丸ひろ子)らのおかげで「納得していないけど整理はできた」と振り返る。ならば、今度は自分が「永遠に答えが出ない問い」に直面している人たちの役に立ちたい。そう考えるミコトは自分の過去をUDIラボのメンバーに何も言っていなかった。「同情なんてされたくない」と言うミコト。同情は何も生まない。自分自身が一番よく知っているのだろう。

「永遠の問いに区切りをつけて、未来を向けるように、できることをしたいんです」

土下座して懇願する巧の姿を見て、ミコトは中堂の調査をサポートすることを決意する。しかし、中堂の調査が所長の神倉にバレてしまった! いつものように上から目線で命令する中堂に、ミコトは「命令ですか?」と聞き返す。

「きょ、協力を……要請する……」

ぎこちなさすぎる中堂の言葉を聞き、満面の笑みで引き受けるミコト。ここで「お願いします」と言わせなかった脚本がエラい。それまで威張っていた男性をやりこめて勝ち誇る女性の姿は「ドラマあるあるー(東海林風)」だが、それはそれでいびつだと思う。男女がフラットに協力しあえばそれでいい。まぁ、中堂は相手が男だろうと女だろうと素直に「お願いします」とは言えないんだろうけど。

地道な調査こそが真実への道


溺死した果歩の入水地点は発見地点は大きく異なっていた。果歩はどちらで死んだのか、ウニのプランクトンを調べることで解明しようとする中堂とミコト。UDIラボが使えないため、100均(!)で実験道具を買い揃えて検証を開始する。科学の知識と手近な材料で危機を乗り越える『冒険野郎マクガイバー』を思い出した。

異性間交流会(合コン)を打ち切ってヘルプに来た東海林が酔っ払って「想われたい」と号泣する姿を見て、中堂がかすかに笑う(たぶん今シリーズ初)。彼を今、突き動かしているのは亡くなった恋人への想いだ。この微笑みは、人が人を想い、人が人に想われることへの全肯定のようにも見える。

部屋にあった死んだ恋人・夕希子が書いた絵本を見たミコトは、中堂の深い想いにふれて、彼の「永遠の問い」に答えを出すことに協力したいと考える。

「中堂さん、何か、何かできることがあれば……。法医学者として何かできることがあれば」
「今やってる」
「そうですね」

すさまじく地道で根気が必要な検証を続ける2人。不自然な死、不条理な死、それにともなう偏見、誰かが作り上げた勝手なストーリー。それらに抗い、真実を導き出すには、地道なファクトの積み重ねしかない。ミコトと中堂は法医学者として同じ考え方を共有している。しかし、2人はこの後、大きな断絶に直面することになる。

「まだ間に合う」とは何のことか?


検証の結果、果歩は発見地点で海に飛び込み、そのまま亡くなっていたことが判明する。では、入水地点で目撃者が見た「海に飛び込んだ女性」とは何だったのか? 中堂は目撃者ではなく、目撃者が見たものを疑う。つまり、飛び込みの偽装が行われていたのだ。

犯人は果歩の同僚のまゆ(城戸愛莉)だった。巧からもらったネックレスを自慢する果歩に嫉妬したまゆは、揉みあっているうちに果歩を海に突き落としてしまったのだ。彼女に殺意があったかどうかは定かではない。だが、すぐに救助すれば果歩は助かっていた。

中堂に検証結果を聞いた巧は、果歩の葬儀に出向き、参列していたまゆに刃を突き立てる! 刃物を一切見せず、いきなり刺すというショッキングな演出だった(直前に巧がビニール袋を捨てるところだけが写っていた)。一直線に向かっていく姿が、巧のまっすぐさを表している。

血まみれになって逃げながら「なんであんな子が私より幸せなの」「私は悪くない!」と絶叫するまゆ。まゆの言葉に絶望して再びナイフをふりかざす巧に、ミコトは「まだ間に合うから」と説得の言葉をかける。ミコトは巧に未来を向いてほしかった。だから倫理に反する調査を手伝ったのだ。しかし、巧の脳裏に果歩の笑顔が浮かぶ。巧は過去を想う。死んでしまった恋人は戻ってこない。何も間に合わないじゃないか。ナイフは大きくふりかぶられーー再びまゆの体を深く突き刺した。

凶行を前に、ミコトと久部(窪田正孝)は呆然と立ち尽くすことしかできない。彼らはヒロインでもヒーローでもない、普通の法医学者とバイトの記録員だ。一方、中堂は現場の近くでどこか遠くを見つめていた。彼は巧の行動を予測し、黙って見守っていたのだ。無音の状態から「夢ならばどれほどよかったでしょう」と始まる米津玄師の主題歌「Lemon」が挿入されるタイミングが第4話に続いて完璧。舞い散る雪が人々の悲しみを引き立てていた。

「どうして止めなかったんですか!?」と問い詰めるミコトに、中堂はこう答える。

「想いを遂げられて、本望だろう」

その後、警察ですれ違ったミコトは中堂に「UDIラボを辞めてください」と告げる。

ミコトと中堂の「絶望」の差


先にも書いたように、ミコトと中堂は法医学について同じ考えを共有している。しかし、その先が大きく異なっていた。中堂は恋人の死を乗り越えておらず、復讐に執着している状態が続いている。だから、自分と同じ境遇だった巧の凶行を黙って見ていたのだ。「想い」を肯定する微笑みを浮かべる中堂は、人の想いに囚われている。過去に縛られていると言ってもいい。

一方、ミコトは第1話で「法医学は未来のための仕事」と言っていた。これはUDIラボの理念でもある。過去のために仕事をしている中堂と、未来のために仕事をしているミコトは相容れない。また、UDIラボの理念とも相容れない。だから「あなたがいると迷惑です」と言ったのだ。

中堂は過去と想いに囚われ、いまだ絶望の淵にいる。第2話で中堂は一家心中で残された子どもについて「絶望するには十分だ」と言っていたが、その当事者であるミコトは「絶望してる暇があったら、美味いもの食べて寝るかな」と言っていた。ミコトは絶望を乗り越えた。中堂はまだ乗り越えていない。その差は大きい。

「さっさと解決して、永遠の問いに決着つけましょうよ。同情なんてしない、絶対に」

後半戦にさしかかった『アンナチュラル』は、中堂の「永遠の問い」を中心に展開していくようだ。同情するなら調査しろ。今夜放送の第6話では東海林がトラブルに巻き込まれる! ミコトたちは東海林の疑いを晴らすことができるのか? 今夜10時から。
(大山くまお)

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