世界情勢による経済の変化、物価高、異常気象による光熱費増加など、この夏は「そら恐ろしい」ほど私たちは経済的に苦しめられるのではないかと予測されている。つい「家計が苦しい」と愚痴りたくもなるのだが……。


■苦労しているのは私なのに
管理職に就いて残業代がなくなるケースは多いのだが、本来は役職手当と残業代は別物。「名ばかり管理職」であって管理監督者ではないなら、残業代は別に支払われるはずだ。

「うちの夫は名ばかり管理職で残業代をもらっていません。本人もそれについては分かっているんですが、会社が身内の経営なので告発しづらいんでしょうね。管理監督者かどうかもあいまいな感じだし……。その結果、実質賃金は目減りしているのが現状です」

サヨコさん(46歳)はそう言ってため息をついた。しかも景気の影響を受けやすいメーカーなので、苦しくなると「まずは身内から」と給料を削られるケースは過去にもあった。それでも少人数で頑張っていこうという夫の父親の人間性から、踏みとどまってくれる社員も多かった。

「さすがに今年はどうなるかと夫も日々、ため息をついています。子どもたちは高校3年生と1年生。二人とも大学へ行くつもりだし、行くのなら奨学金で縛るのもかわいそうだからなんとか学費くらいは出してやりたい。そのため、私は日々、パートに節約にと励んでいるんですが、家族にはそれが伝わらない。
なんだかんだ言っても実際に家計をやりくりしているのは私。夫は小遣いが足りないと騒げば済むと思ってるし、子どもたちは部活のユニフォームが新しくなるから1万円必要と言えば済むと思ってる」

■我慢の限界に達して
そんなことが重なって、サヨコさんはつい先日、とうとうブチ切れてしまった。帰宅した夫が食卓を見て「なんだかしょぼいおかず」と言い、息子二人がクスッと笑ったのがきっかけだ。

「豚バラや鶏肉を多用しているので、確かに食卓は華やかではありません。それでも安いものを見繕って献立を立てて、なんとか栄養重視でやっているわけですよ。人の苦労も知らないでと思ったら、なんだか腹が立ってきて、『そんなこと言うなら、もうごはんは作らない。あんたたちが全部やって。ついでに家計のやりくりもやって!』と叫んで家を飛び出してしまいました」

夫と長男は必死にサヨコさんを探し、次男は留守番をしながら親戚たちに電話をかけ続けたらしい。サヨコさんは駅前のカラオケで、一人全力で3時間ほど歌い続けていた。

■家計をオープンにすることに
サヨコさんは日ごろから、大きな声は出さないし、穏やかなお母さんとして家族から頼られていた。だからこそ家族は驚いたのだろう。数時間後、家に戻ると次男が半泣きで迎えてくれた。
連絡を受けて夫と長男も帰ってきた。

「そんなに心配されるとは正直、思ってなかったんです。私も悪いことをしたと反省しました。夫も『子どもたちの前でいつも金がない、金がないと言って悪かった』と。もう子どもたちも大きいし、家計をオープンにしようかという話になりました。毎月、夫がいくらもらって私のパート代がいくらで、それじゃあ、どうやって使うのがいいのかを家族全員で考えようかと。そういうのも悪くない、試しにやってみようと家族が一致して」

夫婦の収入を合わせていくら、そこから必要な分を引いていく。夫の小遣い、息子たちの小遣いとやっていくと、次男が「お母さんのお小遣いはないの?」と言いだした。そういえば小遣いなどなかった。必要なものは生活費から買っていたが、小遣い制にした方がいいと話し合う。

■大変さをシェアしたら気持ちが楽に
「結果、みんなの経済観念が変わりました。長男は週末、予備校に通っていたんですが、とっていた単科を減らしたんです。
これは自力で頑張れるからと。次男も長男の参考書などを使うようになりました。夫は冠婚葬祭のとき以外は、今までより計画的に使うようになったし、週末の食材のまとめ買いにも積極的に協力してくれるようになった」

栄養重視の食卓は変わらないが、少し節約できるようになった分、月に1度はいい肉を買って家ですき焼きをするとか、ときには外食をするとか、プチぜいたくをすることに決めた。

「私も少しパート時間を増やしたんです。そうしたら息子たちが自分たちの洗濯ものをまとめてやってくれるようになって。今まで私一人で頑張り過ぎたのかもしれません。夫も『金がない』は封印しているようです。家計のやりくりは主婦の仕事だと思ってきたけど、家族で大変さをシェアしたら気持ちが楽になりました」

子どもたちに苦しいことは伝えてはいけないと思って頑張ってきたが、言えば楽になることもあるとサヨコさんは晴れやかに笑った。

文:亀山 早苗(フリーライター)
明治大学文学部卒業。女性の生き方を軸に、家族、夫婦関係、働き方などをテーマに取材・執筆を続ける。くまモンの追っかけ歴は長く、近著に『くまモン力』がある。
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