石原さとみ主演、野木亜紀子脚本の金曜ドラマ『アンナチュラル』。不自然死究明研究所、通称UDIラボを舞台に、死因究明のスペシャリストたちが活躍する新感覚の法医学ミステリー。

傑作ドラマ「アンナチュラル」面白い、面白すぎる1話を解剖してみる
イラスト/まつもとりえこ

先週放送された第1話は放送開始直後からツイッターには「面白い!」「めっちゃ面白い!」「面白すぎる!」という声が相次ぎ、終わる頃には「傑作!」「天才!」「シーズン2希望!」などの声が溢れかえった。視聴率は12.6%、上々の滑り出しだ。

なんといっても脚本がいい


まず、なんといっても野木の脚本が良い。架空の組織であるUDIラボの説明と登場人物たちのキャラクターを異常に手際良く明かしていくオープニングから(出勤ボードの使い方!)、文字通りストーリーが二転三転し続けて視聴者は振り回されっぱなし。しかも、ご都合主義っぽい部分や無理やりな部分が見当たらない。何度も「おおっ、こうくるか!」「えーっ、ああ、そうかー!」と思わされて、ラストは「参りました!」という感じだった。

法医解剖医・三澄ミコト(石原)が勤務するUDIラボに持ち込まれたのは、突然死したサラリーマン・高野島渡(野村修一)の遺体。彼の両親が「虚血性心疾患(心不全)」という渡の死因に納得がいかず、UDIラボに究明を依頼したのだ。

ミコト、臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)、バイトの記録員・久部六郎(窪田正孝)の3人からなる三澄班が遺体の解剖に取り組むが、心臓には何の異常もなく、急性腎不全の症状が見つかる。毒物による死を疑うミコトたち。さらに高野島と交際が噂されていた取引先の女性、敷島由果(田中こなつ)が高野島の死の翌日に不自然死を遂げていたことが判明する。これは連続毒殺事件……?

高野島の部屋や会社を徹底的に調べ、「名前のない毒」を究明しようとするミコトたち。そこへ現れる高野島の恋人・馬場路子(山口紗弥加)。
第一発見者であり、恋人の死にも淡々としている彼女は、毒物を扱う科学者でもあった。高野島の二股交際に腹を立てた路子が2人を毒殺したのではないか? 凡人である彼らの同僚と久部、そして視聴者たちは浮足立つ。しかし、野木の脚本はスマートだ。

「馬場さんって人、おかしいですよ。恋人が死んだのに淡々として」
「淡々とした人なんじゃない?」
「普通、あの部屋で寝られますか?」
「寝られる」

さらっと言うミコトがカッコいい。「普通」という偏見を持たず、フラットに人間と物事を見ることができる。多様性の肯定を体現しているようなキャラクターだ。しかし、それはそれ。毒殺の証拠を洗い出そうとするミコトたちだったが……。

「エチレングリコール……出ませんでした!」
「えっ!」

えっ! たっぷり疑惑を膨らませておいて、CM明けにあっさりチャラにするなんて! これこそアイデアを惜しげもなく投入してやるぞ、という作り手の姿勢の表れだ。『アンナチュラル』恐るべし、とあらためて感じたシーンだった。

これでもかとアイデア投入!


この後、高野島が中東から帰ってきたことがわかり、ミコトは高野島の死因がMERS(中東呼吸器症候群)だと判明する。国内初のMERS感染症での死亡が明らかになり、人々はパニックに陥る。
検疫に行かず、自覚症状があっても会社を休まず、病院で健康診断をしてMERSウィルスを撒き散らした高野島の行動に日本中からバッシングが巻き起こり、高野島の両親はマスコミに追い回される羽目になる。ああ、マスコミってのは人々の代弁者なんだな、ということがよくわかるシーンだった。ここまで怒涛の展開である。

「我慢強い男になれと。そう言い聞かせて育てました」。高野島の両親は涙をこらえて自責の念に駆られる。風邪ぐらいで学校や会社を休むな。「どうしても休めない日に」というフレーズが風邪薬のキャッチコピーになる日本の体質を抉るシーンだった。

しかし、まだ話は終わらない。高野島と「濃密」なキスを交わしていた路子がMERSウィルスに一切接触していないことに疑問を持つ。高野島は中東からMERSウィルスを持ち帰ったのではなく、健康診断に行った大学病院で院内感染していた……! 大学病院では少なくない人数の患者が不審死を遂げていた。その中の遺体を解剖し、ついにMERSウィルスを検出するミコト。
これで高野島の無実が証明された!

毒殺疑惑、MERSウィルス、パニックとバッシング、院内感染の隠蔽と、これでもかとアイデアを投入し、ストーリーを何度もひっくり返しながら一つのエピソードを作り上げた脚本の手腕にうなるしかない。一つのエピソードに複数のアイデアを投入していくのは隆盛を極める海外ドラマの特徴でもある。ドラマの中でも『BONES─骨は語る─』や『ウォーキング・デッド』に言及されており(「ウォーキングできないデーッド!」)、スタッフらが海外ドラマを意識していたことは明らかだ。野木もツイッターで「日本のドラマは見ない、という皆さんも、騙されたと思って第一話を見てみてください」と語っていた。

演出のテンポが抜群


キャストも素晴らしかった。石原さとみは『シン・ゴジラ』のカヨコとも『地味にスゴい!』の河野悦子とも違う、法医学医をナチュラルに演じてみせた。石原と井浦新、窪田正孝、市川実日子、松重豊のUDIラボチームのコンビネーションは絶妙だし、意味深な葬儀社員の竜星涼も怪しげで良い。2話以降はここにマスコミの記者の北村有起哉(団真! 第1話でも1シーンのみ登場)、大倉孝二と吉田ウーロン太の刑事コンビがレギュラーとして加わるというのだからゼイタクである。

キャスト陣によるダブルトーク(相手の言葉が終わるのを待たず、セリフを重ねる手法)も交えた早いテンポの会話がドラマのスピード感に一役も二役も買っているのは明らかだが、それ以上に印象に残ったのが塚原あゆ子監督によるメリハリの効いた演出だった。

まず、カット数が多い。同じ1時間ドラマに比べると、かなりカット数が多いのではないだろうか。そして1カットの尺が短い。出演者がセリフを言い終わるや否や、余韻を残さず、パッと次のカットに切り替わる。
これは膨大な情報量を2時間強に圧縮した『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『この世界の片隅で』でも使われた手法だ。『アンナチュラル』がどこかカラッとした印象を残すのも、登場人物たちの言動に加えて、このスピード感を重視した演出手法が影響しているはずだ。
傑作ドラマ「アンナチュラル」面白い、面白すぎる1話を解剖してみる
イラスト/まつもとりえこ

食べることと生きること


第1話のファーストカットは朝9時から天丼をもりもり食べるミコトの姿だった。海外ドラマなどでは、冒頭で主人公のキャラクターが一発でわかるカットを用意することが多いが、このカットがまさにそれ。ミコトを端的に象徴するのが「朝から天丼」、つまり「たくましい子」ということだ。もともと納豆巻きを食べる予定だったのが、「女性っぽい」という石原のオーダーによって天丼に変更されたという経緯がある。

ミコトは常に何か食べている。職場ではいつもお菓子をむさぼり食べ、恋人の聡史(福士誠治)と一緒に焼きとんを頬張る。恋人を失い、恋人への心ないバッシングとその原因になった自分を責めて涙する路子にはアンパンを薦める。

「私、そんな気分じゃないんです!」
「そんな気分じゃないから、食べるんです」

薄皮アンパンを小さくかじる山口紗弥加に対して、一口でパクっと食べてしまう石原さとみが、ミコトのたくましさを表現している。『カルテット』3話の松たか子のセリフ「泣きながらごはんを食べたことがある人は、生きていけます」を思い出した人も多いはず。食べることは生きることなのだ。


物語の序盤で「法医学って死んだ人のための学問でしょ?」と久部に言われたミコトは、淡々とこう答える。

「法医学は未来のための仕事」

これはミコト一人の考え方ではない。UDIラボ所長の神倉(松重豊)は記者会見で「法医学は未来のための医学です」と熱弁していた。UDIラボのパンフレットにも「法医学は未来のための学問です」というフレーズが大きく印刷されている。つまり、UDIラボ全員が共有している意識なのだ。ミコトたちは、あくまでもチームで「不条理な死」に立ち向かう。それは生きている人たちのための仕事である。

ミコトの複雑な過去は今後、徐々に明らかになっていくだろう。弟の秋彦(小笠原海)の「その男さ、姉ちゃんのこと知ってんの?」「本当に知ってんの?」という意味深な言葉は、ラストで久部が電話の相手に話した「本当の名前?」という言葉につながる。「三澄じゃなくて、雨宮……養子ってことですか?」。

キャスト、脚本、演出の三位一体が極上のエンターテイメントを生み出すドラマ『アンナチュラル』。第2話では集団練炭自殺の謎に挑む。
乃木坂46の松村沙友理のゲスト出演にも注目だ。今夜10時から、必見。
(大山くまお)
編集部おすすめ