ネットでたまに「幸せ恐怖症」という単語が使われている。
正式な病名ではない。
幸せになることに慣れておらず、いいことがあると憂鬱になってしまう心理のことだ。
結婚の喜びよりもこれからの不安が先走ってしまう、マリッジブルーがこれに近い。
不安をおさえるために、わざと失敗したり自分を傷つけたりと、不幸に向かう行動を取ってしまう。

『おそ松さん』2期17話の一松と十四松の「戒め!」は、幸せ恐怖症をコミカルに描いた回だ。

幸せ借金と不幸返済


夜ご飯が焼肉と決まり、大喜びする六つ子。一松も静かに喜んでいた。
彼がその後散歩をすると、自販機のジュースが当たった。大好きなネコを見かけた。500円玉を拾った。
幸運が続きすぎる一松は、途端に怯え始める。
「おそ松さん」2期17話 幸せ恐怖症は不幸依存症。渋谷で自分を戒める一松
おそ松さん 一松 なでなで6つ子 vol.2 黒ジャージ ver.(Amazonより)

一松は、幸せなことと同じ分だけ悪いことがふりかかる、人生はバランスだと言う。
「幸せ借金が膨らみすぎてる」「不幸返済が怖くて仕方ないよ」
一松と十四松は、自ら悪いことを起こしてバランスを取っていく決意を固めた。

不幸依存症


一松は一期1話からずっと、幸せになるための行動を取れない人間。
本人は斜に構えて、幸せなんてくだらないという言動を繰り返していた。

実際は自信がなくて臆病で、誰よりも寂しがりやなだけ。
一期「エスパーニャンコ」回以降彼の本心は描かれ続け、二期では哀しみを抱えっぱなしの天邪鬼キャラとして定着した。

「幸せ恐怖症」は言い換えれば「不幸依存症」。
兄弟がどんなに楽しそうでも、一松はその輪からはずれて同じ行動を取れないことがある。
3話では「世の幸せという幸せを憎んでいる」とチョロ松に評された。
彼は幸福を受け入れる勇気が持てない。

今回を踏まえた上で、改めて過去回を見てほしい。
幾つかのシーンで一松が、不幸になるための行動を取っているのに気付かされるはずだ。

自己評価の低さと幸せ恐怖症


一松と十四松が、渋谷・原宿に行くことを「戒め」とするシーンがある。
Twitterでは、「渋谷と原宿で戒めしよう!」という聖地巡礼感想が多かった。
昨年は「おそ松さんカフェ2017」が原宿で実際に行われている。

二人が渋谷・原宿に恐怖したのは、自己評価が極端に低いからだ。
5話の「夏のおそ松さん」でも、一松はビーチで「俺みたいな人間が夏のビーチにこれてんだよ、これ以上望むものはない」と、幸せ価値基準がとことん低い。


3話では彼がハロウィンに憧れていたことが明かされていた。
一松「渋谷とかはさすがに行けないけど」「ドメスティックパリピなんだよ」
彼は幸せそうなパリピが嫌いなんじゃない。なれなかっただけだ。
今回、憧れていた場所は眩しすぎて、毒になってしまった。

「自分なんかが幸せになってはいけない」というのは、幸せ恐怖症の引き金になる要因のひとつだ。
ネコを見た。そこに幸せを感じられるのは、感受性豊かな一松の本質だ。
けれども彼はそれに気づくことなく、自分を過小評価して萎縮するばかりだ。

インポスター現象


「おそ松さん」2期17話 幸せ恐怖症は不幸依存症。渋谷で自分を戒める一松
「成功と失敗の脳科学」

「成功と失敗の脳科学」ではインポスター現象について書かれている。
自分を肯定することができず、それは偽りだ、相手がそう思い込んでいるにすぎない、と拒絶してしまう反応のことだ。

釣り堀でたくさんの魚を釣ることができた一松。
それは自分の実力なはずなのに、偶然降ってきた幸福だと意識を置き換え、戒めてしまった。


もっともインポスター現象は、潜在的に持っていて表に出していない人がたくさんいる思考回路で、特別なものではないらしい。
一松が自分を過小評価するのは、根が真面目で繊細だからだ。治せと言われても簡単に治るものではない。

ところで、ヤフオク!アプリでほぼおそ松さん公式フィギュアの抽選販売が始まったそうだ。
「企画責任者のイヤミが、6つ子の顔を判別できないまま生産をスタート」したため、顔と身体が一致していないという、シッチャカメッチャカな出来。
「今後はますます、細かい指摘の多い、神経質なおそ松さんファンの皆様のために精進していきたいと(イヤミが)申しておりますので何卒ご容赦いただけますと幸いです。」
アニメ作中の一松に一番必要なのは、このくらいの図太さだ。

(たまごまご)
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