連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第19週「最高のコンビ」第105回 2月6日(火)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:鈴木 航
「わろてんか」105話。作り手と受け手とは、その関係とはいったいなんぞや
イラスト/まつもとりえこ

105話はこんな話


てん(葵わかな)は、毎号、北村笑店の芸人の紹介をする広報誌「月刊キタムラ」をつくることを決め、創刊号ではミス・リリコ アンド シロー を特集することになった。

いろいろ繋がった


105話は、中身がぎっしり詰まった回だった。珍しく、芸人さんや、マンマンのお客さんなど、エキストラがたくさん出ていて、それはきっと「人は財なり」という概念が主となった回だったからであろう。


世間がまだ気が付かないミス・リリコ アンド シローの魅力を、こちらから伝えていくという取り組みに、
りん(堀田真由)の藤岡製薬が広告を出すことになった。これによって制作費を賄うことができる。
ちょうど、藤岡製薬では化粧品を販売することになって、リリコ(広瀬アリス)に使ってもらおうという、
素敵な相互扶助システムが成立しそうだ。
振り返ると、「とと姉ちゃん」(16年)では、主人公が戦後、広告をいっさい載せない雑誌づくりを行っていた。対して「わろてんか」では、広告で成り立つ雑誌を作る(まだ戦前)。2年経ってようやく相対化されたかのよう。こんなふうに、いろんな視点があっていい。

ひとりひとりに目を配る


「映画の仕事も面白かったけど お客さんの顔が見えへん。
高座はお客さんの拍手や笑顔が身近に感じられる」

広報誌のインタビューにひじょうにまっとうなことを言うリリコ。
言い出しっぺの楓(岡本玲)が編集長かとおもいきや、編集長は万丈目(藤井隆)。
まんざらでもない感じの万丈目を見ていると、こうやっておだてて、仲間になって協力してもらうことが大事なのだなあと思う。てん、ようできた人や。わたくし、過去、その手の目配りできずに失敗した経験があるので、感じ入ります。


隼也(成田凌)が丁稚奉公によって、芸人ひとりひとりを知ることができると心を入れ替えはじめたところ、てんは、芸人300人の顔と名前を全部記憶していると胸を張る。
それはすごく大事なことなのだけれど、こういう台詞を書くと、じゃあ、団真とゆう、安来節乙女組、てんの祖母たちはどうなったのか、その後を脚本に書いてほしいと思う視聴者もいるだろうから、藪蛇でっせ〜。ここまで来たら意識的なんだろうなあと思っておりますが。

なんてタイムリー


映画会社にもかかわらず北村笑店と密にしすぎではないかと社員(玉置孝匡)に指摘された栞(高橋一生)が
「自らの利益を度外視して、大衆の夢と幸せのために働く。それこそが我が社の本業だ」
そのためにいまは投資の時期と主張する。

ちょうどこの数日、現実世界のSNSでは、ミュージシャンの岡崎体育の日が、“歌手のライブ参加やグッズ購入で「相対的に多く」お金を使ってくれたファンクラブ会員に+αのサービスを受けてもらおう“(ブログより)という趣旨のファンクラブシステムを発表したり、作家のはあちゅうがTwitterで“私はお金を使ってくれない人はファンとは呼ばないと思う。クリエイターが活動を続けるためにはお金が絶対に必要なので、お金を使って才能を伸ばすことに貢献してくれる人がファンだと思う。本を「くれるなら読みます!」イベントを「タダなら行きます!」とか言われるの腹立つ。それはファンじゃない。“とつぶやいたりして、物議を醸すなど、作り手と受け手とは、その関係とはいったいなんぞやと考えさせられることがあったので、なんてタイムリーなのかと驚いた。
言ってしまえば、映画もお笑いも、資本主義の上に成り立っている。「わろてんか」はその黎明期の物語なのだ。
こうしてはじまった資本主義社会のなかで、「とと姉ちゃん」では、広告を入れない(資本主義に乗らない)雑誌づくりという奮闘を描いた。日本テレビで坂元裕二が脚本を書いている現代のドラマ「anone」(日本テレビ)は、偽札づくりをする主人公たちを通して、幸福とは何かを描こうとしている。

ひとの数だけいろんな考え方があるけれど、お腹が空くのはみな同じ。
マンマンで、飲み過ぎを歌子(枝元萌)に注意された栞だったが、ビフテキを愛嬌ある顔で食べていた。104話の肉じゃがに続いて、105話はビフテキ。これを見て、今夜は肉と思った視聴者もいるだろう。「2人して死ぬ気でがんばるだけや」とかっこいい台詞を言ったリリコと、シローはエビフライ。隼也はてんのつくった料理(中身がよく見えなかったけど)。やたら食べ物の出てくる回でもあった。
(木俣冬)

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