連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第19週「最高のコンビ」第104回 2月5日(月)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:鈴木 航
「わろてんか」104話「あはれ」「笑えぬ」メディアの酷評にどう立ち向かうか
イラスト/まつもとりえこ

104話はこんな話


「あはれ美人女優の末路 素人相手に笑えぬ漫才」と、漫才デビューを新聞に酷評されてしまったリリコ。てん(葵わかな)たちは起死回生の方法を考える。


人前で迷うな


冒頭、リリコの食べていた肉じゃが、美味しそうだった。今夜は肉じゃがと思った人もいたのでは。
その後、いつもの松たか子のさわやかな主題歌の月曜だからロングバージョンがかかり、藤吉(松坂桃李)の遺影。ご先祖さまにお参りしないとなあと思った人もいたのではないか。

視聴率は安定。土曜日は下がるが、月から金まではだいたい20%超えている。
高級旅館の手をかけた朝食ではなくて、バイキング形式で、ちょいちょい好きなもの(恋も仕事もイケメンも笑いもいろいろ)をつまむ感じのカジュアルな朝ドラとして十分過ぎるほど成功しているといえるだろう。


ご飯食べて、ご先祖様に手を合わせて、1日をはじめよう。

さて。
漫才大会は儲かったので、もっと攻めていこうとする専務・風太(濱田岳)は、リリコは別の相方を探したほうがいいと言う。このままでは、社員から「社長の道楽」と言われかねないと、彼は彼なりにてんを心配しているのだ。
一方、伊能(高橋一生)は「いま必要なのは これをやり遂げようとする社長の覚悟だ」と言う。

迷うてんは、また藤吉が出てこないかと思い、鈴を鳴らしたら、今度は伊能から電話がかかってきた。


伊能はてんに社長の極意を伝授する。
「人前で悩むな。へこたれるな。いったんやると決めたことを簡単に諦めるな」

伊能がこれまでそうしてきたことなのだろう。うん、これは沁みる。でも、なんで、こんなに伊能だけ、
“出来た人”に設定されているのかと、笑ってしまう。


アホボン誕生


隼也(成田凌)は北村笑店に丁稚奉公をすることになった。
気取っているかとおもいきや、腰低くしてお茶運んだり、「よろしうお願いします」と屈託なく挨拶したり、意外といい子にも見える。

でも、汚れ仕事(ぞうきんがけなど)はいやがる。アメリカでショービジネスを学んできた自信があるからだが、「アメリカ禁止」と風太に言い渡されてしまう。
さらに「アホボン」とまで。
アホボンは美味しい。それを吉本新喜劇で十八番にしてきた亀井役の内場勝則に、ぜひ、倣ってほしい。


マンスリーよしもと原型の誕生


その頃、てんは、ミス・リリコ アンド シローを諦めないと奮起、マンマンで作戦会議をはじめる。
シロー(松尾諭)はしゃべりを鍛えると言い、みんなは特製弁当、リリコのブロマイド・・・と夢は膨らんでいく。

楓(岡本玲)は酷評する新聞に反論する雑誌を作ることにする。
北村笑店のモデルになっている吉本興業の広報誌「マンスリーよしもとPLUS」の原型だ。
よしもとは広報誌にも力を入れていた。ちょうど、昼の帯ドラマ「越路吹雪物語」(テレビ朝日)でも、木南晴夏演じる時子(おトキ!)が宝塚歌劇団の機関誌「歌劇」に携わるエピソードが描かれているところ(2月5日放送回では戦争によって休刊になってしまう)。


宝塚やよしもとをはじめとして、当時の演芸、演劇の集団は、作家も抱えて文芸部として機能させていたうえ、自分たちの理念を世の中に発信するための雑誌も出していた。単なる宣伝記事が載っているだけでなく、雑誌の特集のような掘り下げた記事があるなどクオリティーが高いものが多い。
それは戦後も続き、演劇だと、例えば、60年代、米倉斉加年が中心になって結成した劇団青年芸術劇場の「青芸」は、劇団の運動機関誌であり「今日の芸術、思想状況において一定の役割を果たしうるものに」と考えられていた。西武劇場(現パルコ劇場)の「劇場」や井上ひさしのこまつ座の「the座」といった、公演パンフレットに、独自の特集記事を組み込んだ発行物の内容はじつに濃かった(「the座」は未だ続いている)。よしもとの場合、難しい思想云々は置いておくとして、読み物という娯楽への営みもやめることなく続けた蓄積が、又吉直樹のような作家を生み出したともいえるのではないだろうか。とにもかくにも、商売上手なのである。

(木俣冬)

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