じつは多様性に富んだ温泉天国、マレーシアで温泉に浸かってみた

日本では意外と知られていないがマレーシアにも温泉がある。半島マレーシア(首都クアラルンプールのある半島)だけでも60カ所以上あり、温泉と言ってもいろいろなスタイルが存在する。
例えば、そのまま池のように湧きたまっている自然のままの温泉、秘境にひっそりとある井戸サイズの小さな温泉、テーマパークのように大きな施設のある温泉などだ。これら私が訪れた特色の違う温泉3カ所とマレーシアの入浴作法を紹介したい。

地域住民の憩いの場になっている自然派温泉


クアラルンプールから車で30分ほどのところにあるスンガイ・スライ温泉は、マレーシアに住む日本人にもほとんど知られていない温泉だ。ほぼ自然のままに、湧いた湯がそのまま池になった場所を開放している。入湯料は24時間営業で1リンギット(約30円)。決して日本のようにきれいではないが、トイレや更衣室など最低限の設備もある。
じつは多様性に富んだ温泉天国、マレーシアで温泉に浸かってみた

ここでは、まず入口近くにある小さな売店で入場料を払う。
敷地内では鶏と猫がお出迎え。その後、広めの電話ボックスのような更衣室で水着に着替えて、湯へ入る。温度は池の中の場所によって違う。泡が底からぶくぶくと湧いているエリアはかなり熱い! 泡から少し離れるとちょうどいい湯加減になる。深さはあまりなく、肩までつかりたい場合は、椅子を枕にして寝転んだり、仰向けに浮いてつからねばならない。

湯の色は比較的透明だ。
しかし池底が砂のため、歩くたびに砂が舞い上がるのが少し難点。今回は暑い時間を避けて夕方17時半ごろに訪れたが、温泉に先客で入っていた年配の男性たちが、プラスチックの椅子に座りながら政治談議に花を咲かせていた。暗くなるにつれて、家族連れやカップル、女性客も少しずつ増え、近隣の住民のにぎやかな井戸端会議が始まる。バイクでおじさんがハーバルティー(薬草のお茶)を売りに来たり、売店で買ったお菓子を猫や鶏にあげる人がいたり、鳥の声が聞こえたりと、のどかな時間が流れていた。
じつは多様性に富んだ温泉天国、マレーシアで温泉に浸かってみた

温泉池の周りには、簡単なベンチもあり、のぼせたらそこで休んでまた入る。温泉と同じお湯が出る井戸もあり、そこで服を洗濯したり、温泉につかった後に体を洗う人もいる。



透明度はピカイチ、開放感たっぷりの秘湯


首都のクアラルンプールからは北東に約260キロ、車で2時間半ほど行ったところにあるパハン州のスンガイ・レンビンには、マウント・タピス温泉という透明度が高い温泉がある。スンガイ・レンビンは、かつてマレーシアがイギリスに統治されていた時代に、東南アジア最大の炭鉱として栄えていた。最近では、虹がかかる滝やきれいな川があることから自然愛好家の間でも人気がある。温泉までは山道をジープ型の車で走り、小川を渡る。そうするとジャングルのなかにひっそりと、秘湯が見えてくる。
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温泉は大きさは井戸のようなサイズで、深さは体がつかるのに十分ある。湯加減もちょうど良い。
更衣室やシャワーがないため、足湯のようにつかるか、サロン(腰布)を持参して湯に入る。料金は無料で24時間利用できる。

浴槽は3人も入ればいっぱいだ。したがって先客がいるとゆっくりつかることは難しい。ここは山中にありトレッキングなどのツアーで立ち寄る場所であるため、日本の湯治場のように、ゆっくりと時間をかけるというよりは、昼にさっと入るイメージの温泉だ。

近くにあるスンガイ・レンビンの町はレトロさを感じる昔ながらの街並が残り、温泉とセットで観光も楽しめる。
かつて炭鉱労働者は華人の仕事だったこともあり、今も現地には華人が多く、きれいな山水を生かした豆腐、麺などを使ったおいしい中華料理も充実している。


旧日本軍により掘られたポーリン温泉

 
東マレーシアのサバ州、マレーシアで一番高い山として知られるキナバル山の東側、標高約500メートルのところにあるポーリン温泉は、キナバル山登山ツアーとセットで訪れる人も多い山麓の温泉だ。ポーリンとはマレーシアの現地の一部族であるカダザンドゥスン族の言葉で「竹」の意味。周りには大きな竹林もある。

もともと地元では「熱湯が噴出する恐ろしい所」とされていたが、太平洋戦争中にボルネオ島を占領した旧日本軍に疲れや傷、痛みなどを癒やすために利用されるようになった。ところが地元の人には温泉入浴の習慣がなかったため、戦後は放置されていた。その後、1970年代から整備が進められ、現在は世界自然遺産キナバル公園の一部として多くの観光客が訪れる場所になった。

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庭園風に整備された施設内には、入浴料が15リンギット(約450円)かかる屋内個室風呂と、無料の露天風呂がある。露天風呂は複数の小さな浴槽に分かれていて、使用前に蛇口をひねり源泉からの熱いお湯と水を混ぜて湯加減を調整する。ここも日本のように裸ではなく、水着を着て入る。

近くにはロッジやキャンプ場、地上30mに張られたつり橋を空中散歩できるキャノピーウォークウェイがある。この辺りは世界最大の花として知られるラフレシアの自生地帯でもあり、鑑賞ツアーも催されている。ラフレシアは花を咲かすまで2年もかかる一方で、花が咲いたら約3日で枯れてしまう。タイミングがよければラフレシアの開花にも出合えるかも知れない。
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活火山がほぼないのになぜマレーシアには温泉が? 


マレーシアにはほとんど活火山がない。それなのにどうして温泉(?)と思われるかもしれない。じつは温泉とは、大きく分けると「火山性温泉」と「非火山性温泉」の二つに分かれ、マレーシアの温泉は後者に当たる。地中にしみこんだ雨水などがマグマによって地熱で熱せられ、深い地下から小さな割れ目や断層を通って地殻から地表に湧き出たものだ。マレー語で温泉は「アイルパナス」と呼ばれ「熱い水」という意味を持つ。

日本の温泉のように成分を表記している温泉はほとんどない。基本的に泉質はどこも硫黄泉だ。リウマチ、関節痛、筋肉の痛み、肩こり、皮膚病などに効くと言われている。どの温泉も硫黄の臭いはわずかで、サラリとした癖のない透明のお湯が湧いている。
(さっきー)