大器「ほんとに……? ほんとに!?」
3月8日(木)のドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系列)、第8話。
予告どおり、8話のラストでは、ずっと妊活をしてきた奈々(深田恭子)が妊娠していたことがわかった。

相手のことは相手に聞けばわかる『となかぞ』の世界観
聡子「自分と違う立場の人や、違う事情を抱えた人のことも理解して、思いやることができたらそれは理想的だけど、実際は自分がその立場になってみたり事情を聞いたりしてみないと、わからないことだらけよね」
大器「そうだよな……、そうだよな」
この聡子(高畑淳子)の言葉のように、今回は相手の事情を聞いたり考えたりする場面が特に多かった。聡子も、娘を保育園に入れたいと思う琴音(伊藤沙莉)の考えを奈々から聞き、反対していたことを改めた。
ちひろ(高橋メアリージュン)は、亮太(和田庵)の誕生日祝いにケーキを作って待っていた。しかし、その日は亮太の母親の命日でもあることを知らなかった。自分が知らなかったせいで亮太を傷付けてしまったことを理解し、必死に謝る。
また、深雪(真飛聖)と奈々は、ちひろが親から暴力を受けて育ったことを知る。ちひろが「こどもはいらない」主義だったのは、こどもを愛する自信がないからだった。
大器(松山ケンイチ)は、不妊治療をしつつ仕事ではアウトレットモールの企画をしていた。その中で、誰にでも開かれた施設に疑問を持つ。
大器「妊活はじめる前は、独身者も既婚者も、こどもがいる家族もいない家族もみんな共存できると思ってた。大人の客メインの店に、こどもを連れてくる人がいてもそんなに目くじら立てなくてもいいじゃんと思ってた。でも今は、子連れ家族がメインターゲットの店に奈々を連れていく自信ないんだよ」
矢野「主任……」
大器「俺がしてきたことは、ただのきれいごとだったのかもしれないな」
他にも、奈々の職場の上司が過去に不妊治療をしていたことがわかるなど、登場人物たちが誰かの立場や事情に気付いていく。
『隣の家族は青く見える』が徹底しているのは、聡子の言うように「実際は自分がその立場になってみたり事情を聞いたりしてみないと、わからない」ということだ。
ちょっとした仕草などから膨大な事情を察するという描写をしない。みんなが言葉で相手の事情を確認していく。聞くことができなければ、追いかけて問いただしたり別の人に確認したりする。
奈々や大器をはじめ、登場人物たちはみんな優しい心の持ち主ばかりだ。でも、どんなに心が優しい人でも、相手の立場や事情を100%察してあげることはできない。
「思いやりを持って」と育てられると、相手に直接聞くのは野暮に感じてしまう。それでも、相手のことは相手に聞かないとわからないのだと、本作は繰り返し見せ、伝えている。
救われにくい毒親被害者
みんなが誰かの立場や事情に寛容になっていく中、どうしてもかたくなになってしまうのが深雪だった。
深雪は出来の良い兄と比較され、褒められることなく育ってきた。唯一褒められたのが、こどもを産んだとき。だから、どうしてもこどもに執着してしまうし、自分と同じつらさを味合わせたくないと願ってしまう。
深雪「人生後悔したくないのは誰だってそうよ。だから、同じ後悔を娘にはさせたくなくて、必死で勉強させてきた。この家だって、あなたが家族のためにがんばってくれてると思ってたから、必死で守ってきた。あなたがあなたの人生を謳歌するのは自由よ。でも、私の人生は? 私の人生はいったいどこにあるの」
娘の優香(安藤美優)にも夫・真一郎(野間口徹)にも「人生後悔したくない」と言われ、深雪は動揺する。深雪にとって、人生は諦めて後悔せざるを得ないものだったからだ。
深雪の親について、ちひろは「毒親」と言っていた。毒親とは、過干渉やネグレクト、暴力、暴言などによって、こどもに毒のような悪影響を及ぼす親のこと。深雪には、毒親の毒がまわってしまっている。
毒親からの影響は、一見愛情に見えることもあり周りに気付かれにくい。他の住人たちがどんどん仲良くなっていく中、深雪の問題が7~8話まで明らかにならず孤立していた。それは、毒親被害の根深さも表している。
優香と真一郎は、まだ深雪が親からもらった毒に苦しんでいるという事情を知らない。真一郎は、深雪がこうなってしまったのは子育てを全部任せたせいだと考えている。
そして、本当の事情を知らないまま真一郎は深雪に離婚を言い渡す。
真一郎「こどもたちは、俺が引き取るよ。だから、きみは1人になって、ゆっくり自分の人生を見つけると良い」
この台詞についてSNSでは、「突き放しているだけで優しくない」「自分勝手」と受け取る意見と「思いやりがある」「1人になるのは深雪に必要な時間」という意見があった。
これも、立場や事情によって受け取られ方が違うからだろう。身近に毒親やその被害者がいる人のほうが、真一郎の提案を支持する傾向があるように感じた。
食卓に置いてあった離婚届を見て、深雪は膝から崩れ落ちる。
でも、望みはある。事情や立場を伝えれば理解を示してもらえる本作の世界観において、まだ深雪は自分のことをあまり話せていない。自分のつらさを見つめ、それを誰かに伝えることで、深雪が救われる余地はまだあるはずだ。
奈々の体調に異変がありそうな第9話は、3月15日(木)よる10時から放送予定。
つらい展開が待っていそうで不安になるが、渉(眞島秀和)と朔(北村匠海)の仲良しお風呂シーンもある。楽しみに見ましょう。
(むらたえりか)
・フジテレビオンデマンド
・TVer
『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系列)
脚本:中谷まゆみ
音楽:木村秀彬、堤博明
主題歌:Mr.Children「here comes my love」(TOY’S FACTORY)
不妊治療監修:桜井明弘(医療法人産婦人科クリニックさくら 一般社団法人美人化計画)、石川勇介(株式会社ファミワン)
LGBT監修:森永貴彦( LGBT総合研究所)
コーポラティブハウス、建築事務所監修:牛田大介(株式会社タウン・クリエイション)
プロデューサー:中野利幸(CP)
演出:品田俊介、相沢秀幸、高野舞
制作:フジテレビ第一制作室
制作著作:フジテレビ