文豪や芸術家は、温泉宿に泊まって名作を生み出すという。美しい風景や美食に癒され、非日常に身を置くことで筆を思いのままに進めることができるのかもしれない。


だがクリエイターの感性に刺さる環境は、伊豆や箱根に行かずとも身近にあった。東京メトロ末広町駅から徒歩3分という至便な場所に構えるホテル「BnA STUDIO Akihabara」だ。

アートシーンを代表する3組・計13人のアーティストが、2~4階までの各部屋をデザイン。独自の世界観をダイレクトに表現した、いわば「鑑賞型ホテル」である。

「私どもが客層のターゲットとしているのが、『クリエイティブクラス』と呼ばれている層です。インスピレーションを求めて旅行をしたり、面白い旅行先を探している、そういう人たちに長期にわたって生活していただくことを考えています」

そう話すのは今回、デザイン・運営受託を担当した「BnA 株式会社」取締役・前田悠図さん。
ここにはもちろん一般客も宿泊可能だというが、いずれにしても、単に寝泊まりするだけというより、ホテル自体も楽しんでもらうことが狙いのようだ。そこで前田さんに実際に案内していただいた。

海外映画で見かけた、いびつな和の世界


客室があるのは2階から4階。まずは一番上の4階へ。いきなり飛び込んできたのは「禅」の電飾。

「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入
いきなり悟りが開けそうだ


この部屋の空間名は401号室『ZEN GARDEN』。外国人の目から見た日本を“逆輸入”するような視点で作られたという。
東京らしい“カオス感”や、間違った“ZEN”の思想を再解釈したというこの空間。「整然と混沌」が同居する異質さが目を惹く。

「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入
東京を拠点とする若手作家・緒方数馬、NANOOK、Mitsuko Shimaeによるユニット『51.3 G-WAVE』とキュレーター佐藤拓が手がけた部屋


部屋には、時代劇でお殿様が座るような豪華な座布団、金色に塗られた石が置かれた庭、剣や木刀の入ったマガジンラックもあった。

「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入


「コンセプトは基本的にアーティストが決定。それをどう空間として具現化するかを、アーティスト本人や建築家、弊社アートディレクター・大黒健嗣とディスカッションしながら決めていきました」(前田さん)

ちなみにトイレやバスルームは「アート」の印象はまったくなく、実にニュートラル。さらにキッチンや洗濯乾燥機なども完備されており、冒頭の前田さんの言葉通り、長期滞在者を主たる対象としていることがわかる。



アイディアが駆け巡る!脳内活性ワンダールーム


続いては3階だ。ここは2部屋あるのだが、まずはその一つである301号室「RESPONDER」に入ると、壁から天井からグラフィティアートがお出迎え。

「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入


「この部屋はグラフィックアートなどを手がけることで知られるクリエイティブ集団『81 BASTARDS(81バスターズ)』によるものです」(前田さん)

構成メンバーはストリートアートの次世代を担う旗手ばかり。そんな才気あふれるクリエイター同士のコラボから生み出されるエネルギーあふれる室内に、とにかく圧倒される。もはや眠れない部屋とでも言うべきか。寝られない代わりに脳内が活性化され、クリエイティビティが高まりそうだ。

“駅から3分、泊まれる美術館”


隣の302号室「HAILER」を見てみると、俵屋宗達によって描かれたことでも知られる「風神雷神図」が。これも「81 BASTARDS」が描いたもの。


「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入
「風神雷神」が見つめるベッド…これはまさに、「駅から3分、泊まれる美術館」


「この部屋に関して言うと、コンセプト以外に81 BASTARDSが直接手がけたのは基本的にこの絵だけで、世界観を演出するためのインテリアや空間設計は『SUMAR WORKS』代表で、店舗や住居のデザインを手がける相澤澄雄が制作しました。そこで、アーティストたちの思いを崩さずに一つひとつ家具の製作や選定を行いました。彼らの『言語』を翻訳して、いかに空間に落とし込むかがポイントだと思います」(前田さん)

「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入


「遊び場」感覚の部屋


2階の作品名は「ATHLETIC PARK」。

「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入


その名の通り、公園を想起させる遊び心満載の部屋だ。

「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入


「この空間はstudio BOWLという名義で活動している家具アーティスト・村上諒平さんが手がけたものです。設置してある物もほとんどが村上さんたちの手作りです」(前田さん)

「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入
ベッドの下部分もこだわりが


村上さんは廃品や既製品をうまく組み合わせることを得意としている。
やわらかさや温かみの感じられる空間は、女性や子どものお客さんにも喜ばれるのではないだろうか。

このように、各部屋異なるホテルについて前田さんはこう語る。「通常のホテルでは同じデザインの部屋をコピー&ペーストで作っていくほうが完成も早いし、コストもおさえられます。そんな中、『ひと部屋、ひと作品』というイメージで仕上げたこのホテルはビジネスサイドから見ると少し突拍子もないプロジェクトですが、アーティスト自身の表現活動の場にするということ、さらにはそこに滞在した人にインスピレーションを与えるという意味では非常に意義のある仕事だと思っています」。

1階ロビーは、今勢いあふれる若手クリエイター集団、株式会社MIKKEが運営しているコワーキングスペース「Chat base」。

「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入


今月12日からすでにオープンしているこのホテル。
予約も徐々に埋まりつつあるという。バカンスは、ハワイでなくても楽しめる。とびっきりの思い出が作れそうだ。

「『おやすみ』と言わせない」!?ドーパミン全開ホテル「BnA STUDIO Akihabara」潜入


ちなみに「BnA株式会社」は、今回「共同事業」として当ホテルの開発に携わった「コロンビア・ワークス株式会社」とともに来春、京都にさらに大きなアートホテルを造るという。世界有数の観光地も思わずうらやむ、刺激的なバケーションホテルが出来上がるに違いない。