しずちゃん「お客さん目の前にして、めちゃくちゃ応援してくれてる人がいっぱいいるってのを、すごく感じました」
一時期は不仲による解散も危ぶまれた南海キャンディーズ。2016年より再びM-1グランプリにエントリーし、コンビでの活動を再起動させた。
その模様を収めたDVD『他力本願』の発売に先駆け、先日マスコミ向けの合同取材が開かれた。そこで語られたのは、15年を経てたどり着いた「楽しさ」だった。
「早い段階で南海キャンディーズ終わってたかも」
──結成15年目で初めて単独ライブを行うことになった経緯を教えてください。
山里 あのー、コンビ仲がそんなに良くない時期も長くてですね、「単独ライブを作る時間を割くなら自分を磨きたい」「向こうは女優とかやってっしな」みたいな野心がありまして……。歴代のマネージャーから「しずちゃん単独やりたいって」と聞いてはいたんですけど、「まぁまぁ時が来れば」と7,8年引っ張ってたんです。
で、今回M-1に向けて、僕のやっているラジオ『不毛な議論』(TBSラジオ)のリスナー達に南海キャンディーズがすごい世話になって。その恩返しってなんだろう……となったときに、しずちゃんの単独やりたいという気持ちもMAXに来てたし、ラジオの生放送中に「単独やろうか」と投げかけて、快諾してくれたんです。
──初の単独ライブを「他力本願」という、ラジオのリスナーが書いたネタを演じる形式にした理由は?
山里 初めての単独なんだからてめぇらだけのネタでやれよ、ってのも、もっともなんですけど……なんだろなやっぱ……シンプルに怖かったってのもあるんです。正直、南海キャンディーズだけで初めての単独を戦うのは自分の中ではすごく怖くて、そんなときにいつも助けてくれたのがリスナーだったもんで、初めての単独もリスナーと一緒に戦うことで逃げないようにしてもらう、って感じが僕はすごいあったんですね。
しずちゃん このシステムよく考えたなって。採用されるリスナーさんも嬉しいし、いいネタやったら使わせていただけるし。
山里 僕はほんと、『不毛な議論』はずーっとリスナーに助けられてるラジオだと思っていて。だって僕らのために時間割いてネタ書いてくれて、で、もらえるのはカンバッヂですよ?(笑) それでも、南海キャンディーズの新しい形を一生懸命探してくれて、漫才師として舞台に立つほうがいいんだぞってずっと教え続けてくれたんです。僕が南海キャンディーズの漫才から逃げられないように、いい意味で追い詰めてくれた。リスナーがいなかったら、もっと早い段階で南海キャンディーズ終わってたかもなって思います。
──ライブ自体は「他力本願」ですけど、1本目のネタは2004年のM-1で披露した医者のネタでした。これには何か思い入れが?
山里 やっぱり南海キャンディーズが世に出るきっかけになったネタで、そこからスタートしましたよって意味と、もう一回、南海キャンディーズ第2章のスタート地点を見てもらうと。
──久しぶりの「火を怖がるサイ」でしたね
しずちゃん そうですね、ちょっとでも、昔よりキレが悪いなって……(笑)
山里 ね? 動き遅くなってるわー。あと、これは仲良くなったことの弊害なんだけど、攻撃が弱くなってんすよ。ボクシングで手が狂気だってことを覚えてしまったせいで、殴るとこがもう全然ゆっくりだし。なんか急に優しさ覚えちゃって。元々しずちゃんがボクシングやる一番の弱点は、根が優しいから人を殴れない。
しずちゃん もういっかい「殺す」くらいの気持ちを思い出さないと……。
山里 その優しさの壁を越えなきゃってときに、コーチがサンドバッグに僕の写真貼ってたもんね。そしたら幕ノ内一歩(マンガ『はじめの一歩』の主人公)みたいな音出たって。ズドン!って。
──単独ライブに向けて「めちゃめちゃ稽古した」と聞きました。
山里 しましたねー。めちゃくちゃ稽古しました。単独ってこんなに稽古するんだって思って……。どっちかっていったら、昔はそっちがサボりだったのにね。覚えてこなかったりしてたじゃん。
しずちゃん そうやね、山ちゃんのほうがもっとやる、もっとやるって。
山里 で、年を重ねたら、そっちが無茶苦茶稽古したがるようになってたよね。
しずちゃん もう不安でしょうがなかったから、とにかく稽古して安心したいっていう……。
山里 こっちは初合わせのとき台本持ってるのに、台詞を頭に入れてきて女優づらかましてんですよ。
しずちゃん ちゃんと覚えてんやからいいやん。頑張って覚えたのに。
山里 でも、それ昔だったらできなかったよね。昔は僕、てにをは間違うだけでもホント許せなかったんで。「あ、いまそこ『が』って言ったけど、『で』だから。最初からやり直し」って。いま別に気にしなくなったから、なんとなくで覚えて、合わせながら入れてくって感じでしょ? 女優づらかまして。
しずちゃん ハハ(笑)
「なにかの試合をしたい」からM-1に
──結成から15年経って、お互いの存在についてはどう思っていますか?
しずちゃん 世間話もたまにしたりするような感じで、仲は昔より良くなっていて……
山里 これまででベストの関係だと思いますよ。
……ま、でも、僕のこういう記事を東野幸治さんが全部読んでるんですけど、記事指さしながら「山ちゃんあかんやん抜けてるやん」「自分が仕事増えたからやろ」って言うんですよ(笑) 自分が仕事増えて、一人でいつでもいけるってわかってからやんか〜って。そんなことないですよ!って、仲直りした時期を話すと「『スッキリ!』始まってるやん」って(笑) どっちか定かじゃないですけどね、東野説か山里説か。
──コンビの関係が改善したのもあると思いますが、2016年からM-1グランプリに再挑戦されたのきっかけはなんですか?
山里 同期のダイアンとかがM-1でむちゃくちゃウケたりしてるの見て、やっぱりあの場所で漫才やってウケてる姿ってすげぇカッコいいなぁ……みたいな。ただ、超現役の人達に戦い挑んで「やっぱ南海キャンディーズってロートルじゃねぇか」って言われる怖さがあったんです。でも、そこはもうこっち(しずちゃん)は、ボクシングやってから戦うってことに対して意識がすごく高くてですね、どうしても戦いてぇって、悟空みたいなこと言いだして。
しずちゃん やっぱり試合みたいなものに出たいというのがあって、できるだけ殴り合いたいというか……(笑) ボクシング引退して、じゃ何で戦えるのかなってところに、ありがたいことにM-1が結成15年までいけるってなったので、出れるやったらそこでやりたいなって思いましたね。
──今年はM-1グランプリ挑戦のラストイヤー(※結成15年目まで出場可能)です。最後の挑戦はされますか?
山里 今年はね……あの〜……もうしないかなぁ……。楽屋にいるときの自分たちのおじさん感というか……。
んー……なんか、4分という競技の漫才をするよりは、単独で覚えた10分20分、下手すりゃ30分40分やっていいって漫才のほうが楽しいので……ネタを考える時間を使うんだったら、そっちに使いたいなっていう。これは僕の意見ですけど。
しずちゃん 単独の打ち上げの時もそういう話になったんですけど、あたしは「まだ1回権利があるんやったら出たい」って言ってて。でも山ちゃんが言うこともすごくわかって、単独でこれだけ楽しかったからM-1にこだわらんでもいいような気もしつつ、でもなんかやっぱり、なんかの試合に出たい(笑)
山里 そうね〜いいんじゃないボクシングやったら?
──ということはまだ未定……?
山里 そうですね……例えばネタやって、楽しいな楽しいなめちゃくちゃ面白かったな今日って、舞台下りて、今の何分?4分だったの!?ってなったら、ね(笑) 今は「いやぁ10分の漫才の楽しさ覚えちゃって」ってもっともらしいこと言ってますけど、僕みたいなもんはホント無責任なんで、これ4分でいけんじゃね?ってなったら何があるかわからないです。ま、未定ですね〜。
──では単独ライブを振り返って、一言お願いします。
しずちゃん すごい楽しかったです。稽古してる段階ではすごく不安でいっぱいだったんですけど、幕開いたらお客さん達がすごく暖かく受け入れてくださって。私普段、1人でライブも何もやらないから、そういう方と触れあうことってなかったんで……南海キャンディーズを応援してくれる人ってこんなにいるんだ、みんなのおかげでできてるんだってのを凄く感じました。
山里 全ての漫才が、僕の人生でやった漫才のなかでの一番楽しい漫才で、それはお客さんのおかげであり、ネタを作ってくれたリスナーのおかげでもありで。最終日の最後の漫才なんかホントに、これ俺はこれだけ楽しいけど、みんなにこの楽しさちゃんと伝わってるだろうかって不安になるくらい楽しかったです。
『南海キャンディーズ初単独ライブ「他力本願」』(2018年4月11日発売)
(井上マサキ)