ニューヨークに納豆を製造する会社がある「米国の食事には納豆が合う」

ニューヨークに、納豆を製造・販売している会社があるのをご存じだろうか?
世界中に広がる日本食ブーム。米国でも人々の食に対する好奇心はどんどんと拡大しており、ニューヨークには、すし、ラーメン、焼き肉、天ぷら、トンカツなど、さまざまな日本食のレストランが展開されている。


一方で日本食好きの外国人にとって、まだハードルが高いと思われている日本食が納豆だ。独特の香りと粘り気。箸使いも完璧で日本食が好きなアメリカ人でも、納豆は苦手という人を筆者の周りでもちらほら見かけた。しかし、そのような構図が変わりつつある。

今回はニューヨークで、納豆の製造・販売会社「NYrture(@nyrture)」を設立したアン・ヨネタニさんに、お話をうかがった。ヨネタニさんは、米フィラデルフィア生まれで微生物学者としても活躍する、発酵食品のスペシャリストである。

ニューヨークに納豆を製造する会社がある「米国の食事には納豆が合う」
NYrtureの納豆


納豆のにおいは特別強いわけではない


――米国で納豆を作ることにした経緯を聞かせてください。
私はアメリカで生まれましたが、祖父母が日本に住んでおり、幼い頃から日本に帰った時には納豆を食べていました。納豆という、素晴らしい栄養素を備えたユニークな食べ物に心ひかれた私は、納豆の自作を始めました。その後日本に渡り、東京の神田にある老舗の納豆屋、天野屋の門をたたき、納豆の作り方を学んだ後に、ニューヨークにて納豆の製造・販売を始めました。

――今回ヨネタニさんにお話をうかがう前に、まず近所のオーガニック系スーパーでNYrtureの納豆を買ってみました。私自身、納豆が大好きなので、アメリカ発の納豆はどれほどおいしいのか気になったのですが、お世辞抜きに納豆としておいしかったです。加えて、納豆の特性である香りや豆の歯ごたえ、ネバネバ感も忠実に残しています。
この辺り、アメリカでは問題はないのでしょうか?

納豆はフレーバーや食感が独特ではあるもの、それらは欧米の文化の中で、そこまで奇抜過ぎるわけでもないです。アメリカに住む人の思う発酵食品で最もポピュラーなものは、チーズです。チーズはマイルドなものもありますが、においが強烈なものも多いです。そのことを思うと、納豆だけが強烈な味わいの発酵食品だとは一概に言えません。

納豆の試作を繰り返していた頃に、家族や友人に配って食べてもいました。友人の多くは納豆を食べたことがない人たちでしたが、「おいしい!」というコメントをたくさんもらい、自信につながりました。

ニューヨークに納豆を製造する会社がある「米国の食事には納豆が合う」
納豆ピザ


米国の多文化料理に対応力が高い納豆


――私たち日本人の納豆の食べ方と言えば、そのままか白飯や生卵との組み合わせがポピュラーです。NYrtureのサイトでは、アメリカのローカルの人々へ積極的にマーケティングできるよう工夫していると感じました。納豆を普段日本食の枠で食べていない人々は、どのように納豆を食べるのでしょうか。
納豆はアメリカの食文化に、うまく取り入れることができる食べ物だと思います。日本では、例えば白飯と合わせるなど、納豆の個性を主役とするような食べ方が主流ですが、こちらでは日常の食べ物と同じように合わせています。アメリカの食事はそれぞれにしっかり味付けされているため、納豆を合わせても全ての食事が納豆の味になりきらないことが、異文化の食品である納豆の抵抗感を下げてくれます。
ニューヨークに納豆を製造する会社がある「米国の食事には納豆が合う」
ウニ納豆


――例えばどのように食べているのでしょうか?
バリエーションはたくさんありますが、例えばメキシコ料理であればタコスの具の一つとして使えます。
メキシコ料理では元から豆をよく食しますし、メキシコ料理のスパイスと塩味は納豆とよくマッチします。インド料理は豆とスパイスの親和性が高いため、納豆とも合います。他にはピザに載せたり、パスタの具に取り込んだり、フムスと合わせて食したりと、多文化なニューヨークの食事に納豆はいろいろな形で組み合わせられます。それぞれがおいしいと思う納豆の食べ方を試してほしいです。
ニューヨークに納豆を製造する会社がある「米国の食事には納豆が合う」
メキシカン納豆



魅力的な栄養素と米国文化へのフィット感


――アメリカは食文化も多様ですが、宗教や健康上の理由で食制限がある人も多いです。その中で納豆の可能性をどのように考えていますか?
納豆は食制限がある人たちにも高く評価されています。
アメリカにはベジタリアンの人やビーガンの人も多いですが、彼らの食生活で欠乏しがちなタンパク質を納豆は補えます。発酵食品の中でも、栄養素の豊富さとヘルシーさ(例えば、チーズなどは脂肪分やカロリーが高くなりがち)は群を抜いています。私自身、この10年ぐらいでアメリカの人たちの健康に対する意識がどんどん向上していることを体感しています。そこに納豆の可能性を感じます。
ニューヨークに納豆を製造する会社がある「米国の食事には納豆が合う」
納豆フムス

栄養に対する意識が高い人たちは、ビタミンやタンパク質といった栄養素のみならず、生産過程に対しても高い意識を持ちます。私たちも、大豆農家は入念に選んでおり、遺伝子組み換えでない、質の高い大豆を生産する大豆農家を選んで契約しています。
パッケージもリサイクルが可能なガラスジャーで、冷凍していない生の納豆です(筆者注:アメリカの日系スーパーで販売されている日本の納豆は一度冷凍されている)。これからも質の高い納豆を、アメリカで納豆を食べたことがない人にも届けていくことが目標です。
(迷探偵ハナン)