兵庫県神戸市と淡路島を結ぶ「明石海峡大橋」は、全長3,911メートル。橋脚と橋脚の間の距離を意味する「支間長」が1,911メートルあって、世界最長を誇る巨大な吊り橋である。
本州と淡路島を行き来する場合はもちろん、関西方面から高速バスに乗って淡路島経由で四国へ行く際などにもお世話になる橋なので、筆者も結構な頻度で渡っている。「渡っている」と書いたが、それはもちろん車に乗ってのこと。歩いて渡ってみたいなー、などとは考えたこともなかった。
しかし、なんとそれが実現した。2日間限定、各日1,200名だけが普段立ち入ることのできない管理用通路を通って明石海峡大橋を歩いて渡れるという貴重なツアーが開催され、そこに参加することができたのだ。
「明石海峡大橋 海上ウォーク」という名のそのツアーは、例年では年に2回行われているのだが、定員に限りがあるため参加希望者多数で抽選になることが多いのだとか。ダメでもともと、と申し込んだところ幸運にも当選した。
参加にはいくつかの条件がある。まず、橋の全長である4キロメートルを歩ける体力があること。それは当然だが、「高所および閉所恐怖症でない方」「トイレを2時間程度我慢できる方」という条件はどうだろうか。多分大丈夫だとは思うが、あらためてそう言われるとちょっと自信が無くなってくる。開催当日が迫るにつれ、徐々に心がそわそわし出すのであった。
落下防止のため手に待つものも制限される
さて、当日、指定の集合場所である「橋の科学館」へ向かった。JR舞子駅からほど近く、明石海峡大橋の本州側の付け根にあたる場所だ。駅を出るとすぐに橋が見える。「あれを今から歩いて渡るのか……」と思うと信じられない気がする。
「橋の科学館」では、受付時に一人ひとりの参加番号が振られたゼッケンと、ケータイ電話用のストラップが配布される。
橋の上では落下防止のため、ストラップをつけて首からかけた物しか手にすることができない。ストラップを取りつける部分のないスマートフォン用には、首から下げるタイプのスマホケースの貸し出しも行われている。
各日1,200名の参加者がいるのだが、それを120名ごと10班に分け、30分間隔で出発する。そのため最初の班は午前8時45分、最後の班は午後2時40分に出発、と時間に開きがあり、その出発時間はランダムに指定されるシステムだ。
出発時間になると、まずはヘルメットを渡される。これを装着すると緊張感がグッと高まる! 無事に渡り切れますように。
高所恐怖症でなくとも怖くなる高さ
誘導係の方からあらためて注意事項の説明を受けた後、階段を登って7階にある管理用通路の入口を目指す。係の方いわく、この上りの階段がツアー全体の中で一番ハードな部分だという。
7階に到着すると、管理用通路へと続くシャッターが開く。
普段は目にすることのできないレアな景色。通路は真っすぐ、果てしなく伸びていくように見える。
そしていよいよ通路へと歩き出すのだが、網状になっていてめちゃくちゃ怖い。
日常的に自分が高所恐怖症であるとは感じたことがないのだが、そういうレベルではない。高いところでは海面から約70メートルも上を歩くことになる。エメラルドグリーンの海面がキラキラして綺麗ではあるのだが、もしあそこに落ちたら……と想像せずにいられない。写真ではなかなかその怖さが伝わらないのが残念である。
下ばかり見ていると怖いのでとりあえず前方を向きなおす。
当日は天気も良く、気温も30度以上あったが、両側に広がる海から風が強く吹き込んでくるため、暑さは感じない。
頭上には自動車用の道路があり、大型車が通ると大きな音がして通路が揺れる。
ちなみに今歩いている管理用通路も、普段は作業員の方が車で通行できるようになっている。
歩き続けていると通路の下には円形の白い土台のようなものが見えてきた。
これは、橋脚の土台部分。
前述の通り、一つ目の橋脚からもう一つの橋脚までの距離が1,911メートルでその長さが明石海峡大橋が世界一を誇る部分なのだ。
この橋脚の真上のスペースで一度目の休憩となる。脇に目をやると見える黒いものは本州から淡路島へとつながる水道管だという。
明石海峡大橋には水道管、高圧送電線、通信用ケーブルなどが通っており、淡路島の大切なライフラインにもなっているのだ。
休憩を終えて再び歩き出す。足元がスカスカである感覚にはだいぶ慣れたが、たまに大きな船が足の下を通っていく時などはなんて不思議な光景だろうかと思う。
正面に遠く見える通路の消失点に向かって無心で歩き続ける。
橋の両側に見える淡路島の景色が徐々に近づいてきた。もう少しで終わりかな、と思っていると誘導係の方が「ここで全体の半分です!」と言う。さすが世界一の橋、甘くない。
しかし緊張が落ち着いてきたところであらためて考えてみると、両側には海が広がり、向こう岸の島が少しずつでも近づいてくるという景色はとても気持ちがいい。
トンビが飛んできて橋に止まったりする。
2つ目の橋脚の真上で2度目の休憩。この通路を利用して絶え間ない橋の保全が行われていると思うと頭が下がります。
スタートから1時間半ほどしてようやく淡路島が目の前に迫ってきた。
通路の反対側の入口では係の方がシャッターを開けて待ってくれていた。トイレに行きたくなったりもせず、無事歩き切った!
ヘルメットの下にかぶっていたヘアキャップに記念スタンプを押してもらって帰ることができる。ゼッケンも記念品に。
さらに、出口付近ではご褒美のように淡路島名物の「たまねぎスープ」のふるまいが。歩き疲れた体に染みわたる。
淡路島側から明石海峡大橋を眺める。さっきまであそこを歩いていたのか。
あらためて感じる、明石海峡大橋の巨大さ
到着したのはちょうど正午過ぎだったので、橋のふもとの「道の駅あわじ」の食堂で「たまねぎうどん」を食べることにした。
淡路島の大きくて甘いたまねぎがドーンと乗っかっている。
帰りは淡路島の岩屋港付近をたっぷり散策した後、明石方面へと向かうフェリー「淡路ジェノバライン」に乗って帰ることにした。海上から再び眺める明石海峡大橋は本当に巨大で、あれを歩き切ったと思えることがなんだか誇らしいような気持ちになった。
「明石海峡大橋 海上ウォーク」の次回開催時期については現時点では未定だが、兵庫県のサイトにイベント情報がアップされるので、気になる方はたまにチェックしてみてほしい!橋の大きさを自分の足で体感できる貴重な機会、きっといい思い出になるはずです!
(スズキナオ)
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