第1週「生まれたい!」第1回4月3日(火)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

2話はこんな話
1971年、7月7日。
岐阜・東美濃地方の梟町。
同日、同じ病院で、萩尾和子(原田知世)も男児を出産した。
猿みたいな女の子(主人公)と、つるんときれいでかわいい男の子。ふたりには大きな違いがあって・・・。
「名前はまだない」
初回の視聴率は、21.8%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)と、前3作「わろてんか」「ひよっこ」「べっぴんさん」の初回を超えるという幸先の良さ。
2話は、赤ちゃん誕生を描く15分。
へその緒が二重巻きになってしまい、15時間もお腹から出てくることができない主人公(胎児)。
主人公がお腹の中にいるときから生まれるまでを描くことで、視聴者が共に主人公を見守るような形となって、特別な意識が芽生えそう。
胎児からはじまるドラマが画期的なうえ、主人公の成長譚を描くうえでは、最強の掴みであると感じた。
数々の神話をつくってきたヒットメーカー・北川悦吏子はその才能をしょっぱなから見せつける。
子どもの誕生を感動だけでくるまず、夏目漱石を引用したり、子どもの命より自分の美しさを優先(帝王切開したらビキニが着れなくなる)する母の自我を描いたり、「『マジですか』という言い方 この時代まだしませんね」と胎児に言わせたり。そう言ったあとに、ドラマの時代(71年)を説明したり、15分という短い時間のなかに、惜しみなくアイデアを盛り込んでいる。
シンディ アイズの新作「バニー リバー最後の事件」
2話で秀逸だったのは、原田知世が読むミステリー。
原田知世は、楡野家と同じ梟町の住人・萩尾写真館の奥さん・和子役。
和子のお産はとても楽で、最初、のんびり、シンディ・アイズの新作「バニーリバー最後の事件」というミステリーを読んでいる。
カセットテープが埋め込まれていて死体がしゃべるというトリックは、胎児がしゃべると対になっているのだろう。
「あしたのジョー」とか万博とかリアルなワードが出てくる一方で、この小説はなぜか架空(たぶん)のもの。
このドラマが、完全に近代史の再現ではなく、あくまでフィクション、近代とパラレルな世界であることが、ここで示される。
史実では、この12年後、和子を演じている原田知世が、映画「時をかける少女」(83年 大林宣彦監督 角川映画)でヒロイン芳山和子(かずこ)を演じて、男子たちをメロメロにするのだが、この件についてドラマは触れないであろう。
「半分、青い。」の世界は、原田知世の存在しない世界。半分、リアル。で半分、架空。なのだということが、原田知世が架空の小説を読んでいることでよくわかった。
また、北川悦吏子は「シンディ アイズ」って誰だ? と視聴者が検索するだろうと思って楽しんで書いているに違いない。これは彼女の出世作「世にも奇妙な物語」の「ズンドコベロンチョ」(91年)で、その言葉を知らずに不安になる主人公の心境とも近いのではないか。
恋愛だけでなく、笑いも書けるという北川の自信を裏付ける作品の要素を、形を変えて「半分、青い。」の世界にうまいこと溶け込ませているところにも、作家の力量を感じた。
(← 「ひよっこ」以来書くが、脚本書きたいと思う人は参考にして!)
同じ日に生まれた男女
往年の少女漫画ちっくな設定である。
「あさイチ」で華丸・大吉が「(この男の子が佐藤健になると思うのは)早合点」とボケていたが、まごうことなく、後の律との出会いである。
難産の末生まれた猿みたいな主人公と、母体を苦しめずに生まれたつるんとかわいい男の子が、並んで眠っているカット。
ふたりの赤ちゃんの顔がほんとうに何か考えているよう。お腹のなかの胎児はモロCGだったが、生まれたての赤ちゃんの豊かな表情はCGではなく、スタッフが粘りに粘って撮影したものだという。
病院に差し込む清潔感ある光の感じといい(原田知世がふわっとした光に包まれていた感じとかも)、上品で、
誠実な印象を受ける。演出は、9日から再放送がはじまる「カーネーション」も手掛けた田中健二。穏やかな現場のムードメーカーと言われるベテラン演出家。1日からBSプレミアムで再放送がはじまっている大河ドラマ「軍師官兵衛」も担当していて、現在のNHKは、「半分、青い。」「カーネーション」「軍師官兵衛」と田中健二演出作祭りである。
(木俣冬)