
一人旅満喫中の女子を襲う、いきなりの拉致監禁!
『ベルリン・シンドローム』の主人公クレアは、オーストラリアのブリスベンからはるばるドイツのベルリンまで一人旅をしている女子である。不動産会社で建物の写真を撮る仕事をしていた彼女は、毎日決まった事を繰り返す生活に疑問を感じ、ヨーロッパを旅するバックパッカーだ。
アンディはスポーツクラブで英語とバスケットボールを教えているドイツ人教師。背が高く真面目そうなイケメンで、人当たりもいい。クレアは彼に惹かれ、ベルリンからドレスデンに向かうはずの予定をキャンセル。ドミトリーを出てアンディの家に泊まり、2人は一夜を共にする。ピロートークで「ずっとこうしていたい」と口にするクレア。頷くアンディ。
次の日、目が覚めたクレアは部屋を出ようとドアを開けるが、鍵がかかっていて開けることができない。自宅に戻ったアンディは「鍵を置いていくのを忘れた」と話す。しかし、次の日も部屋の鍵は開けることができず、クレアは次第にアンディを疑う。
監禁中の複雑な心理を、息苦しくなるほど追う
映画の冒頭には、まさしく自分探し系映画のキラキラ感が漂っている。たどり着いた知らない街。魅力的な風景。同じような年頃の若者たちと語らい、異邦の地でイケメンと恋に落ちる……。そんな絵に描いて額に入れたような筋書きが、徐々に「なんかおかしい……」という不穏な流れになっていく。アンディはいきなり「おれはサイコ野郎だ!」となるのではなく、ドアが開かなかった初日あたりまでは普通の人っぽく振る舞うので、実際どの時点から監禁されていたのかすぐにはわからない。
とんでもないサイコ野郎に監禁されたクレア。手足もベッドに縛り付けられ、同じ部屋にいるのは最悪の監禁イケメンだ。しかし彼女は諦めない。アンディの隙をついてはわずかな武器で攻撃を挑み、部屋から脱出しようとする。
だが、何度も脱出を試みては失敗するうちに、心が折れそうになる瞬間もやってくる。しかもアンディは、平気で数日間家からいなくなったりする。冬のベルリンで、寒い部屋から一歩も出ることができないクレア。ひょっとしたらもうアンディは逃げているかもしれない……。戻ってこなかったら自分は部屋から出られない……。そこに唐突に帰ってくるアンディ。自分を監禁している男なのに、クレアが考えるのは「帰ってきてくれてよかった」という気持ちだ。
監禁が長期間に及ぶうち、2人の関係は単なるサイコ野郎と被害者ではなくなり、どちらが上位にあるのかも曖昧になる。誘拐や監禁の被害者が犯人と時間を過ごすうちに共感や同情を抱くストックホルム症候群という用語があるが、『ベルリン・シンドローム』というタイトルはこの用語を意識してつけられたものだろう。
ややこしすぎる監禁被害者の心理を、クレアを演じたテリーサ・パーマーは目つきや表情や座っている時の姿勢だけで表現する。そしてカメラはそれを懇切丁寧に追う。丁寧すぎて息苦しいくらいだ。「たとえイケメンだろうとも、同じ密室にいる男が何を考えているのかわからないとめっちゃ怖い」という生々しさは、監督ケイト・ショートランドが女性であることとも無関係ではないだろう。男が見ても「なるほど、これは怖いわ……」と納得させられるパワーがある。
果たしてクレアは無事に脱出できるのか、そしてアンディがどうなっちゃうのかは、ぜひ映画を見て確認していただきたい。おれはとりあえず、「知らない国に行くときは、現地語で『助けてくれ!!』はどう言うのかちゃんと練習しておこう」としみじみ思った。
(しげる)
【作品データ】
「ベルリン・シンドローム」公式サイト
監督 ケイト・ショートランド
出演 テリーサ・パーマー マックス・リーメルト マティアス・ハービッヒ エマ・パディング ほか
4月7日よりロードショー
STORY
ベルリンに旅行に来たバックパッカー、クレア。