エキレビ!では、各ドラマの担当ライターを事前に決め、好評ならば最終話までレビューし続ける形式を取っている。ライター陣はスタート前に担当ドラマが決まるので、その作品が自分と波長が合うか……というか、そもそも面白いドラマなのか、初回を観るまでヒヤヒヤしているところがある。


私は、テレビ朝日の深夜ドラマ『おっさんずラブ』を担当することとなった。(関連)
「おっさんずラブ」この春一番ピュアな吉田鋼太郎と力ずくの林遣都、たじろぐ田中圭の現実味よ
『東京センチメンタル』DVD-BOX/Happinet

4月21日放送の初回を観て、どれだけホッとしたことか。というか、血湧き肉躍った。こんなにも箸の進む作品は久々だ。

主役・田中圭/ヒロイン・吉田鋼太郎


まずは、このドラマの主役とヒロインをご紹介したい。主役は、33歳の独身男・春田創一(田中圭)。「天空不動産」勤務の春田は、“運命の恋”に巡り会えると信じて合コンに参加するも、女性陣を引かせてしまいがち。実りなき結果を繰り返すモテない男だ。

合コン翌日、通勤中のバスで春田は痴漢に間違われる。身に覚えのない罪を詰問されドギマギする春田を助けたのは、尊敬する敏腕上司の黒澤武蔵(吉田鋼太郎)だ。おい、惚れてまうやろ……。
ホッとしたのも束の間、バスは急停止。勢い余って、春田は黒澤に抱きついた。
あくまで、偶然の体勢だ。なのに、黒澤は「はぁ……っ」と乙女の顔になり、思わず「あっ」と声を上げるのだ。黒澤の表情は恍惚というか、ほとんどイキ顔状態。
もうおわかりだと思うが、ヒロインを務めるのは吉田鋼太郎演じる黒澤部長である。

力が抜けて、携帯を落としてしまう黒澤。拾う春田。視界に入ったのは、自分の隠し撮り画像が待受になっている黒澤のスマホだった。
やばいドラマが始まった。きっと、神ドラマだ。

音声が割れるほどの吉田鋼太郎のピュアな告白


ちなみに、黒澤は妻帯者。連れ添った妻・蝶子(大塚寧々)との結婚30周年を祝い、花束を贈る愛妻家だ。

社会との折り合いをつけていた黒澤だったが、バスの出来事で遂に開き直る。ある日、後輩のイケメン社員・牧凌太(林遣都)が本社から営業所へ異動してきた。

「俺のパソコンから春のキャンペーンの資料、牧君によこしてあげてくれるか?」(黒澤)
指示された春田が黒澤のパソコンをいじると、そこには大量の春田の隠し撮り画像が……。もう、本人に見てもらうよう画策してるとしか思えない。

困惑しながらトイレで小便をする春田に、黒澤が近付いた。
黒澤 見た?
春田 いやっ、見てないです。
黒澤 本当に見てない?
春田 ……見てないです。
黒澤 っていうか、何を?
春田 わかんないスけど、見てないです。

小便器横にある「勇気を持って一歩前進」の表示プレートを指で撫でながら迫る黒澤部長。確かに、彼にとって勇気を伴う行動のはずだ。

黒澤の一途は止まらない。「本日19時 大場海浜公園にて待つ」と、営業日報を通じて春田にメッセージを送るのだ。日報で呼び出しとは、斬新な……。
待ち合わせ場所へ春田が着くと、そこにはバラの花束を持つ黒澤の姿があった。
妻へ贈ったそれより数倍大きな花束を持っている黒澤。

意を決した男は、いきなりだ。
「好きです! はるたんが……好きでぇーーすっ!! 本当は、ずっと自分の心の中だけにしまっておくつもりだった。でも……写真、見たよね? 見たでしょ? はるたんの写真! だからもう、自分に嘘をつくのやめようと思ってさ!」(黒澤)
音が割れるほど大声での告白。舞台俳優・吉田鋼太郎が声を張りすぎて、音声が割れてしまっている。しかも、黒澤の背景で灯るライトがハート型だ。

よく考えると、あまりにもベタな告白シーン。男女でやったら今更感が強烈になってしまうが、想いを必死に伝えてるのがおっさんだと濁りなくピュアに映る。不思議。

黒澤武蔵が良いのは、ピュアなところ。この春、一番ピュアな恋だ。

無自覚に人を好きにさせてしまう田中圭の無邪気


“運命の恋”を求めていた春田に、モテ期が到来する。即ち、黒澤のライバルが出現したのだ。


ある晩、春田は自宅近くで会社帰りの牧と遭遇する。春田は牧が持っていた買い物袋の中身をチェック。
春田 料理するんだ?
 簡単なものしか作れないですけど。今日はから揚げです。
春田 スゲーじゃん! 揚げ物、スゲーじゃん!

異動間もない牧は、ウィークリーマンションで生活中らしい。折しも、息子の自立を心底願う母親に突如家出され、家事もままならず途方に暮れていた春田は、料理ができる牧に同居を提案する。
「あっ、から揚げ目当てですか?」(牧)
から揚げ目当てって、何とも意味深な……。

こうした経緯で、牧は春田宅へ引っ越すことに。同居した牧はしっかり者だった。掃除はテキパキ、洗濯はお任せ、料理は凄腕。子どもがそのまま成長したような春田とは大違いだ。しかし、春田にもいいところはある。
牧の作るから揚げを口にし、素直に大喜びするのだ。
「何これ!? うめぇーーーっ! ん~~~!」
喜びのあまり、小躍りする春田。春田は春田で、無意識に誘いすぎだと思う。母性本能をくすぐる行動の連続。自覚なく人を好きにさせるのが、この男なのだ。

決定打は、春田が牧に渡した自作ファイル「春田流 営業虎の巻」だった。営業未経験の後輩を思い作成された資料を手に、牧は感激。その時の目は、完全に恋する男のそれだった。

社内でも、春田と牧は仲良し。一緒に昼食を取ったりする。その光景をブラインド越しに凝視する黒澤。仲睦まじい2人を羨ましげに見つめてる。
一途な想いが、ジェラシーの深さとして表れた。

「巨根じゃダメですか?」


第1話にもかかわらず、この回はジェットコースターだった。

現地販売会を企画した営業所の社員たち。現地で指示を出すのは黒澤だ。そんな時、立て掛けの甘い看板が倒れ込んできた。春田は身を挺して、黒澤をガード! 代わりに、春田が看板の下敷きになってしまった。
部下を前にカリスマを発揮していた黒澤が、一瞬にして乙女になる。病院の待合室で、黒澤は狼狽しっぱなしだ。医師を見つけると、居ても立ってもいられない。
「なんてこった。春田、なんてこった! 俺のせいで春田が……春田が! 先生、春田はどうなんですか! なんてこった! なんてこった!」
黒澤の「なんてこった」が、いちいちミュージカル調で笑う。笑いは演者がマジじゃないと生まれないが、吉田鋼太郎は絶対に笑わせにきてる。そんな、大仰に「なんてこった」を連呼しないでも。

そして、春田の病室に駆け込む黒澤。
「はるたん!」(黒澤)
牧もいるというのに、気が動転した黒澤は構わず「はるたん」と叫んでしまう。
「ま、ま、まっ、牧、牧……悪いんだけど、席外してくれるか?」(春田)
2人きりの病室で「バカー!」と泣きながら春田に抱きつき、上目遣いで「無事で、よかった……」とつぶやく黒澤。このくだりの吉田の演技は、完全にやり過ぎである。でも、それが良かった。いじらしいし、笑っちゃうのだ。

さあ、今度はいよいよ牧のターンだ。彼は明らかに、黒澤の存在に危機感を覚えている。入浴中の春田にタオルを持って行ってあげた牧は、そのまま春田に壁ドンを仕掛けた。
「好きだ。春田さんが巨乳好きなのは知ってます。でも……巨根じゃダメですか?」(牧)
思わず、牧の下部をチラ見した春田。その刹那、牧は春田の唇を奪う。強引なキスだ。しかも、唾液を交換してそうなディープなやつ……。公式サイトの牧凌太紹介欄には、「家事・料理などが万能。まるで母親のように世話を焼き、春田を楽に生活させる。ちなみに巨根」と書いてあった。それがこのシーンで活きてくるとは……。木目が細かい。

これで、両者の差異は明らかになった。黒澤は、あくまでピュアに乙女に春田への好意をアピールするタイプ。一方の牧は、強引なタイプ。力ずくのキスも厭わない。「肉食」の文字がふさわしいのが牧だ。

腐女子にだけ的を絞ったドラマではない


世に恋愛ドラマは多いが、これほどストレートな作品は希少だと思う。落とし物を拾おうと手が触れ合ったり、ヒロインのピンチを主役が救ったり、壁ドンからのキスがあったり。やってることは、全て王道だ。この時代に、逆に新鮮ではないか。
ただ、主役の相手は「おっさん」。ここだけだ、他とは違うのは。というか、同性愛男子の方が攻めた恋をしてるじゃない! 草食男子に警鐘を鳴らした格好でもある。


私は、基本的に「BL」が苦手だ。そんな筆者にとって、このドラマの媚びない作風には好感を持った。戸惑い、面食らい、拒絶する春田の反応に現実味を感じるのだ。その手の層ばかり狙ったドラマかとたかをくくってたが、そうじゃなかった。迫り来る黒澤に恐怖するリアクションにも、現実味がある。

それでいて、オウェッと来るような生々しさがないのもいい。これは、ひとえに役者陣の技量によるもの。
吉田鋼太郎の腕については言うまでもない。そして、主演の田中圭。彼が見事だった。愛嬌たっぷりで、ダメ男で、いい奴なことがダダ漏れの春田。この手の憎めない男を、いつも田中は好演する。要するに、キャスティングが素晴らしかった。

昨今、同性愛を取り扱う時は堅苦しくなりがちだ。でも、このドラマはライトに愛でている。同性愛を茶化すのではなく、それでいて屈託なく楽しめる今作。LGBTの理解につながるような気もする。全員が幸せになる作品ではないだろうか。

今夜放送の第2話も必見だ。タイトルは自分のために争う2人(黒澤と牧)を制止する春田の心情を表した「けんかをやめて」。2話目で、もう修羅場かよ! 予告映像で「俺のために喧嘩するのやめてくださぁぁぁあい!」と絶叫する春田の姿に、期待は高まるばかりである。
もう、黒澤だけじゃない。今晩は3人全員がヒロインだ。
(寺西ジャジューカ)

アマゾンプライムにて配信中
U-NEXTにて配信中
編集部おすすめ