連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第4週「東京、行きたい!」第25回4月30日(月)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:土井祥平

連続朝ドラレビュー 「半分、青い。」25話はこんな話


秋風羽織(豊川悦司)に会えた鈴愛(永野芽郁)は、思いきって描いた漫画を見せると、「私の弟子になりませんか」と誘われ、東京に行く決意をする。

美しい少年のことをみんな「タジオ」と呼ぶ


羽織「なぜ君が名乗るんだ?」
律「なんとなく」
24話のおもしろシーンから、25話ははじまった。

「なぜ君が」と言ったものの、羽織は、律(佐藤健)の美しさを認めていた。

そして律を「タジオ」と呼びかける。
羽織は、美しい少年のことをみんな「タジオ」と呼ぶのだと、菱本(井川遥)が説明する。
タジオとは、ヴィスコンティ監督の映画「ベニスに死す」(71年)に出てくる美少年(演じているのはビョルン・ヨハン・アンドレセン)。主人公の老作曲家は、彼に心奪われる。
「半分、青い。」25話。朝ドラでここまで美少年推し。佐藤健をはじめ美少年はみんな「タジオ」
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「タジオ」という名の美少年が出てくる映画。公開当時、タジオを演じたビョルン・ヨハン・アンドレセンは
美少年のアイコンだった。
この映画、輝かしい美と若さをもつタジオの虜になった老作曲家が、自身の老いに向き合わざるを得なくなるのだが、「半分、青い。」24話で、「(羽織が)生きてるうちに」と菱本が言っていたことと、この老作曲家の顛末が重なってきたりして? とひと妄想。羽織亡き後、あの仕事場が、2016年には「運命に、似た恋」のカリスマデザイナーが買って住んでいたという勝手なストーリーまで妄想してしまった。

ビョルン・ヨハン・アンドレセンに例えられる佐藤健、すごい。
確かに、骨格が美しいし、伏し目がちのアンニュイな瞳が叙情的で、ものをつくる人の創作意欲をくすぐると思う。

「タジオ、君はやっぱり賢い」と褒める羽織。
「東大受けます タジオじゃないけど」と鈴愛。

朝ドラにイケメンはつきものだが、「イケメン」「美少年」という概念として登場するわけではない。あくまで物語のなかで主人公の夫や恋人がさりげなく「イケメン」という描き方だ。
だが、世の中には歴然と「スター」「二枚目」「美少年」「イケメン」「戦隊ヒーロー」「ジャニーズ」「2.5次元」というようなジャンルが存在する。そういう認識があることを朝ドラで感じさせたのは、現代(近代)ものならではだと思うし、「タジオ」という独自の呼び方(彼の美意識を端的に表している)をするキャラ設定として使うのは、すてきな男子前提のドラマを多く手がけてきた北川悦吏子だからこそのアイデアだと思う。

羽織の仕事・少女漫画がそもそも「美少年」ありきで成り立つ世界であるから、説得力は抜群だ。

ところで、羽織の控室で椅子に座ったときの、鈴愛と律がものすごくくっついていて、幼馴染だからこういうことが当たり前なのかと微笑ましく思った。
知らない人が見たら、彼氏彼女だと思い込む距離感だろう。

鈴愛、東京に?


「なぜ、名古屋まで出て、結局ここ(ともしび)でお好み焼きを食べるんだ」(律)
それは、名古屋の飲食店のセットを作ったり、ロケしたりする時間と予算の節約(たぶん)。

羽織に、弟子にならないかと言われ、その気になった鈴愛は、ふくろう町に戻ってきて、家族をどう説得するか考える。順番を決めて攻めていこうとするところがしっかりしている。
だが、仙吉(中村雅俊)のコネで農協に就職が決まったことを知らないから、まず仙吉を説得するのが得策と考えるところが切ない。

盛大に就職祝いをしてもらったこともあって、なかなか言い出せずにいた鈴愛だが、ついに決心して「東京に行く」と、いきなり最難関と予想していた晴(松雪泰子)に言ってしまうところで、つづく。
制服までつくってもらって、よけいに黙っていられなくなったのだろう。東京に行くことは事前の情報でわかってしまっているが、なんだかどきどきはらはらする。

わかりやすい解説


五平餅の作り方と、漫画の描き方(モデル・ボクテ〈志尊淳〉)が、わかりやすく説明された。
とりわけ、漫画の描き方の説明で、スクリーントーンを手作業で再現したり、下書きしないでいきなり絵を描いたり、鈴愛の技術面のポテンシャルがあることがわかる。
(木俣冬)
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