新装版も刊行開始『銀河英雄伝説 1 黎明篇』(マッグガーデンノベルズ版)。
第五話「第十三艦隊誕生」。

「祖国と自由こそ命を代償として守るに値するものだ」
トリューニヒト国防委員長の演説である。
「同盟万歳! 共和国万歳! 帝国を倒せ!」
盛り上がる人たち。
起立しないヤン・ウェンリー(CV:鈴村健一)。
さらに、そこに現れるジェシカ・エドワーズ(CV:木下紗華)。
戦死したジャン・ロベールラップ(CV:小野友樹)の婚約者だ。
「あなたはいま、どこにいますか?」
この問いに、“安全な場所に隠れて主戦論をとなえる”トリューニヒト国防委員長は答えられない。
第一話で、ジャン・ロベールラップ(CV:小野友樹)とヤン・ウェンリーの最後の通信シーンを追加し、第四話では、ジャン・ロベールラップとジェシカ・エドワーズ(CV:木下紗華)とヤン・ウェンリーの士官学校時代をしっかりと描いた。
そういったていねいなアレンジもあって、ずっしりと思いの込められたシーンになった。
第五話では、ヤンとジェシカの脱走劇に、原作にはないカーチェイスシーンが追加されていた。
いい演出。
この後の憂国騎士団襲撃シーンへのうまいブリッジになった。
一方で省略されたシーンもある。
「憂国騎士団を熱烈な愛国者の団体だ」と評した警官に反論するシーンである。
そのときのヤン・ウェンリーのセリフを原作から引用しよう。
「きみの言うとおりなら、なぜ連中は軍隊に志願しないんだ? 夜に子供のいる家をかこんで騒ぎたてるのが愛国者のやることか。だいいち、やってることが正当なら顔を隠していることじたい、理にあわないじゃないか」
匿名で安全な場所に隠れて勇ましい正義を指先だけで振りかざす人たちを思い出すではないか。
30年前に書き出された原作が、何度もメディア展開されるのは、こういった繰り返される“歴史の教訓”が描かれているからだろう。
最後に、もうひとつ省略されたセリフを。
宇宙港で、老婦人と子供がやってきて、老婦人が「この子も軍人になりたいと申しております』と語り、英雄であるあなたと握手をしていただきたいとお願いする。
そのときヤンが言った言葉。
「ウィル坊やが成人するころは平和な時代になっていますよ。無理に軍人になる必要はなくなるでしょう……坊や、元気で」
次回、第六話 イゼルローン攻略 前編。(テキスト/米光一成)