贈与、投票妨害、休日創出、あらゆる手段を尽くすマレーシア総選挙がすごい
野党候補者集会に集まった支持者

マレーシアでは連邦議会の第14回下院選挙が5月9日に投開票日を迎え、各地で選挙戦が展開された。
今回の選挙は、野党連合「希望連盟」の首相候補として出馬しているマハティール元首相(「日本に見習え」のルック・イースト政策で1981年から2003年まで22年間首相を務めた)とナジブ首相との師弟対決。
結果は野党が勝ち、マハティール元首相が世界最高齢92歳の国家元首になった。
両陣営が展開した選挙戦は、日本のイメージからすると「激し過ぎる」のだ。

とにかく投票率を下げたい与党


マレーシアは日本と比べて投票率が高い。日本の総務省の統計によれば、直近の選挙で比較すると日本が53%(2017年衆議院選挙)であるのに対し、マレーシアは85%(2013年下院選挙)だ。今回のマレーシアの下院選挙では、投票率が上がるほど野党が有利になると言われていた。それは前回の選挙を見ても明らかだ。

前回の得票数を見ると、与党が約523万票、野党が約561万票で、野党は得票数で勝ったが議席数で負けるという逆転現象が起こっていた。
この背景としては、小選挙区制で死票が多くなることに加え、選挙区ごとに1票の重みが異なることが挙げられる。特にマレー半島部各州の選挙区同士でも、農村部は都市部に比べて1票の重みが大きい。その結果、現在、マレーシア全体で1票の重みは最大で約9倍の開きが生じている。
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街中には与党と野党の旗が混在してはためく

なんとしてでも投票率を下げたい与党は、さまざまな手段を講じた。投票日を20年ぶりにマレーシアの平日にした。水曜を投票日にすることで海外在住のマレーシア人270万人の帰国を妨害する狙いだ。
例えば、マレーシアの隣国シンガポールには50万人のマレーシア人が暮らしているが、郵便投票を受け付ける施設がなく、在外選挙登録ができない。海外留学中の大学生の中には、授業やテストがあり帰国できず、選挙を断念せざるを得ない者もいる。状況はブルネイ、タイ、インドネシアなどの他の東南アジアの国々で暮らすマレーシア人も同様だ。

国内でも地元から遠方に住んでいれば状況は同じである。システム上、地元以外でも投票手続きは可能だが、面倒な事前登録が必要であるため、多くの人は投票時に地元へ帰る。
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集会で売られる政治家の本


一方で投票率を上げたい野党


与党の選挙戦に対抗し帰国を促す動きも活発だった。野党連合代表のマハティール元首相は、投票のために地元に帰れるように配慮。
それに追随する企業もあった。

家具大手イケアは、シンガポールで働く80人のマレーシア人スタッフ全員に有給休暇を与えることを決定した。格安航空で知られるエアアジアも5月8日から10日の間は、全ての国内線に定額運賃を提供することを決めた。片道運賃は、マレー半島と東マレーシアでは99リンギット(約2970円)、マレー半島とサラワク州間では129リンギット(約3870円)、マレー半島とサバ州間では199リンギット(約5970円)で固定。「総選挙の安全な旅を願って」フェアが行われた。
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候補者集会には屋台が並びお祭りのような雰囲気

筆者の周囲にも海外渡航予定日を延期したり、急きょ休みを取って海外からマレーシアに投票に戻ったりする人がいた。
そしてマハティール元首相は、野党が勝てばマレーシア人は5月10日と11日の2日間を祝日にすると公式に発表していた。


SNSを活用したい野党と防ぎたい与党


マレーシアでもソーシャルメディアは選挙戦に大きく関わっている。マレーシアのオンラインユーザー数は2016年に77%に増加、ソーシャルメディア、特にFacebookでシェアされることは、投票に大きな影響を与えている。

マレーシアでは、地元に帰って投票するのを助ける資金を集め、またはそのサポートサービスを提供するためにソーシャルメディアを活用した。TwitterとFacebookではハッシュタグ「#PulangMengundi(投票のために家に帰る)」がトレンド入りしていた。他には「#UndiRabu(水曜に選挙しよう)」というグループは、1週間のうちに全国40の旅をサポートするため、14万リンギット(約420万円)を集めた。その資金で千人分の無料座席を確保し、無料で乗り合いできる車やバスを手配した。


こうした動きを恐れる与党は、下院選挙直前にフェイクニュース対策法(ソーシャルメディア上において偽の情報を掲載・シェアすることを禁止する法)を施行した。同法は「公共秩序と国家の安全保障」を維持することを目的として導入されたが、政治家が誤った情報を使って真実を隠蔽、自らの議題を押し進めるために「フェイク」の意味の拡大解釈が行われるのでは、と言論の自由が脅かされることへの不安の声が上がっている。
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フェイクニュース対策法の告知ポスター


不正・不公平の疑惑がある選挙システム


マレーシアでは、与党に有利に展開するよう選挙区が区割り改正されたり、有権者に無料で米や野菜、老眼鏡を田舎で配布することがある。外国人季節労働者へ違法に選挙権を与えた幽霊票の使用、開票会場での停電後の集票の食い違い、投票締め切り後に大量の投票箱が新たに持ち込まれるなど、不正疑惑も多い。
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候補者集会に並ぶフードトラック

ナジブ首相が率いる現政権は不祥事を多く抱えるだけに、今後ナジブ首相や与党関係者が逮捕されると見る動きもある。
(さっきー)