先週放送された第4話の視聴率は微増の9.2%。めちゃくちゃ面白かった第4話でこれかー! と思わざるを得ないのだが、まぁ、仕方ない。

ターゲットはパワハラ&セクハラ社長
第4話は「映画マニア編」。映画『七年目の浮気』を観ていたダー子がいきなりマリリン・モンローのコスプレ姿で登場! 相変わらずケレン味たっぷりのオープニングだ。
「マリリン・モンローは本当に自殺だったのか? UFO映像はフィクションなのか? ハリウッド映画は人類を洗脳したのか? コンフィデンスマンの世界へようこそ」
今回のターゲットは、食品偽装を指示し、社内ではセクハラ、パワハラ三昧の「俵屋フーズ」二代目社長、俵屋勤(佐野史郎)。
冒頭から「嘘」のたたみかけが上手い。工場長に就任した社員の宮下(近藤公園)を妻が「真面目に、正直に頑張ってきた」と褒めるが、次のシーンでは工場で宮下が食品偽装という会社ぐるみの嘘の現場に直面する。次のシーンでは嘘をつく息子を妻が叱っているが、宮下は叱ることができない。「嘘つきは泥棒のはじまり」という妻の言葉が脳裏に焼き付く。
宮下は俵屋に食品偽装をやめるよう直談判するが、俵屋は開き直って取り合わない。「嘘にもいい嘘と悪い嘘がある。たとえば……映画! あれって嘘だよね。でも、みんなその嘘に感動してお金を払う。
佐野史郎怪演爆発の映画マニア社長
で、この俵屋の最大の特徴が映画マニアであること。口癖は「映画は人生を変える」。社員を恫喝するときもいちいち『七人の侍』の例え話を持ち出し、「黒澤明何本観てるかって聞いてんだコラ!」などと怒鳴りつける始末(リチャードいわく「シネマハラスメント」)。いるいる、すぐに観ている本数でマウンティングしてくる奴。映画ファン同士だとしても、こんな奴とは会話したくない。
自主映画を制作したり(ちゃんとシングル8の8ミリカメラを構えている)、アングラ演劇に出演していた若い頃の回想シーンがあるが、よく佐野史郎にあんなこと(ずぶ濡れになって謎のセリフを言いながらバームクーヘンをむさぼり食べる)をやらせたもんだ。いや、佐野史郎だからできたのか……。あまりの怪演ぶりで、とても『西郷どん』で重々しく井伊直弼を演じている人とは思えない。
ダー子たちの手口は、銀座にニセの映画人御用達のカフェを作って、そこに俵屋を誘い出すこと。そこでニセの映画プロデューサー(リチャード)と新人監督(ボクちゃん)と遭遇し、ニセの映画企画に出資させようというのだ。
店主(ダー子)が俵屋に「そこ、深作さんの指定席でした」と言うが、「深作さん」とは『仁義なき戦い』や『バトルロワイヤル』の深作欣二監督のこと。壁には店主と高倉健、菅原文太との2ショット写真が(当然、合成)。俵屋がオーダーする、勝新(勝新太郎)が好きだったカツサンドにブランデーをかける食べ方は、実際に勝新がそばに日本酒をかけて食べるのが好きだったのが元ネタ。優作が開けた穴の説明を聞きながら、ブランデー浸しのカツサンドを頬張って小声で「なんじゃこりゃあ」と呟く俵屋の芸が細かい。
細かい部分だが、店を探している俵屋が子どもとぶつかっても一瞥するだけで謝りもしないシーンがリアルだった。筆者が以前、小さな子どもを連れて本好きの人が集まるイベントに行ったとき、本マニアの中年男性たちが子どもに平気でぶつかってきたりと、異様に冷たかったことを覚えている。独身の中年マニアは子どもに冷たい(もちろん、そうじゃない人たちもいるんだろうけど)。
長澤まさみ、ハニートラップ成功!?
カフェに入ってきて、俵屋の前でこれみよがしに映画の打ち合わせを始める映画プロデューサーの立浪(リチャード)と新人監督の岡本(ボクちゃん)。脚本を置き忘れたふりをして俵屋と近づいた2人は、自作の脚本を読ませることに成功する。岡本は「あの岡本監督のお孫さん」という設定だが、これはたぶん岡本喜八監督のことだろう。『日本のいちばん長い日』などを撮った名監督だが、『シン・ゴジラ』の牧教授役(写真のみ)と言ったほうがわかりやすいかもしれない。
しかし、ダー子たちがどんなにそそのかしても、俵屋はマニア特有のシャイさでなかなか出資しようとしない。深夜まで酒を飲ませても平気な顔で、またカツサンドのブランデーがけを食べたりしている。髪を振り乱しながら「早いもの勝ちだぁーっ!」と叫ぶ長澤まさみのテンションがすさまじい。女優魂を見た。
京都撮影所(実際のロケ地は日光江戸村)に連れて来られた俵屋は、京都撮影所にまつわる伝説を次々と口にするが、詳しい内容は春日太一・著『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(文春文庫)参照のこと。プロデューサーと岡本は俵屋の前で資金不足について激論を交わすが、それでも俵屋は乗ってこない。そのかわり隣で聞いていた伊吹吾郎(本人)が乗ってくるが、「伊吹吾郎を釣り上げてもしょうがない……」という超絶失礼なセリフを言わされた東出昌大の心境はいかに。
業を煮やしたダー子は、マリリン・モンロー仕込みのハニートラップ作戦を敢行。中国の国民的スター、マギー・リン(代表作は『少林忍者ガール』。観たい!)に変装して、俵屋の歓心を買おうとする。チャイナドレス姿で艶然と微笑む姿は、さすが長澤まさみとしか言いようがない。
マギー・リンの美貌に眩んだ俵屋は、3億円の出資を了承する。ハニートラップがついに成功! しかし、ここからが問題だった。俵屋の映画マニアぶりとパワハラ体質が一気に噴き出し、脚本に大量のダメ出しを始めたのだ。脚本のリライトを強要されたボクちゃん役の東出昌大がさりげなく『ロッキー』よろしく生卵ジョッキを一気呑みしているのがすごい。俵屋が描いてきた大量の絵コンテは、黒澤明が描いていた絵コンテのパロディー(ちゃんとサインも入っている)。
社長の夢がかなうと観客の夢が潰える
俵屋からのプレッシャーに負けたダー子たちは、ついに本物の映画撮影に乗り出す。300人のエキストラたちが大乱戦を繰り広げる中、くノ一に扮したマギー・リンが暴れまわる! マギー・リンのくノ一コスチュームは、数多く作られてきた山田風太郎原作『くノ一忍法帖』そっくり。現在放映中の『くノ一忍法帖 蛍火』のベッキーのコスチュームもほとんど同じだ。
俵屋の横暴は止まらない。監督をさしおいて「OK」を出すのは可愛いほう。ついには出資者の権限で、自分の役を作らせてしまう。現実にも企業映画(企業をテーマにした映画ではなく、企業のオーナーが出資して作られた映画)では、ビジネスで夢をかなえた社長が俵屋のように映画でも夢をかなえてしまうことがある。
嬉々として撮影現場で暴れまわる俵屋を複雑な表情で見つめるのは、エキストラとして駆り出された社員の宮下だった。当然のことである。自分たちが必死になって稼いだ利益が、社長の道楽で湯水のように費やされていくのだから。社員としてこれほど虚しいことはない。それを見抜いたかのように、ダー子が告発文を宮下に手渡す。
クランクアップ後、ついに俵屋の要求はピークに達する。ダー子とボクちゃんのいる部屋にやってきて、一晩の相手をするよう要求したのだ。ダー子を守ろうとするボクちゃんだったが……。俵屋の要求する相手はボクちゃんだった! 映画プロデューサーのセクハラ問題はハリウッドでも大変な問題になっているが、この展開は笑ってしまうとともに、十分ありえることなので非常にブラックなものになっている。男だからといってセクハラから逃れられるわけではないのだ。
「映画界って詐欺師ばっかり」
家老役の俵屋に与えられたセリフは、このようなものだった。
「殿をお守りするのが家臣の務め。すべては徳川の安泰のためじゃ。裏切り者は許さん! 命令に背いたものはただちに腹を切れい! 文句があるか!」
そして迎えたレッドカーペット。上映された作品は、宮下による食品偽装の告発と、俵屋のセリフがコラージュされたものだった。この映像は間もなくネット配信されるという。食品偽装を暴かれた俵屋は一巻の終わり。まさに「映画によって人生を変えられてしまった」というわけだ。
3億円を巻き上げたダー子たちが、結局はコストがかさみすぎて2815円の赤字。しかし、今回は第1話のように飛行機を使った大仕掛けなどはしておらず、ひたすら普通に映画制作をしていただけ。それだけ映画にはお金がかかるのだ。さらに伊吹吾郎がボクちゃんたちの書いた脚本をパクっており、「映画界って詐欺師ばっかり」とコンフィデンスマン全員でボヤくオチで締め。映画絡みの小ネタだけでなく、大ネタもばっちり決まった圧巻の出来だった。これで視聴率が2桁行かないのは納得いかない。
今夜放送の第5話は、大病院の経営者、かたせ梨乃がターゲット。予告で飛び出した「悪い巨塔」というフレーズが切れ味鋭い。さまざまな医療ドラマのパロディーも見られそうだ。今夜9時から。
(大山くまお)