4月の頭より、TBS、テレ東、WOWOWなどが運営する動画配信サイト「Paravi」で配信スタートした『SICK'S 恕乃抄 〜内閣情報調査室特務事項専従係事件簿〜』。

『ケイゾク』『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』と続いてきた「SPECサーガ」の完結篇として位置づけられている本作。


『ケイゾク』から『SPEC』に関しては、世界観を共有してはいるものの、ストーリー的にガッツリとつながりがあるわけではなかったが、『SICK'S』は思いっきりにSPEC』の続編となっている。

毎日1〜2分ずつという特殊すぎる配信方法のため、細切れ過ぎて毎日追いかけていても全然ストーリーが頭に入ってこなかったのだが、1ヵ月かかってようやく第壱話の完全版が配信開始。なるほど、こういう話でしたか。
堤幸彦新作「SICK’S」第1話分やっとレビュー。ファンがお金出して続編制作するテストケースなのか
イラストと文/北村ヂン

まだ第1話が終わったところなので……


『SICK'S』の舞台は『SPEC』と同じく、特殊能力・SPECを持つSPECホルダーが存在する世界。

時系列としては、『ケイゾク』『SPEC』に登場していた野々村光太郎(竜雷太)が既に死んでいるので、『SPEC』よりは後の話だということは確実だが、あれからどのくらいの時間が経過しているのかは不明だ。

『SPEC』の映画版では、その力を驚異に感じた組織によって、SPECホルダーの抹殺計画「シンプルプラン」が発動しており、SPECホルダーだけに効果のあるウイルスをばらまくという方向性で抹殺計画が進められていた。

一方、『SICK'S』では自衛隊が出動し、わりと力業でSPECホルダーを「捜索・確保。もしくは現場で処分」しようとしている模様。

それとは別に、「シンプルプラン」絡みの捜査をしていた人たちがアジアの某超大国に拉致されているという事件も起こっているようだ。

SPECホルダー、警察、アジアの某超大国……このあたりが入り乱れての戦いが繰り広げられていきそうな感じではあるが、今のところ分かっているのはこんなところ。

1ヵ月間、毎日追いかけ続けてきたもんで、かなり成し遂げた感があったけど、まだ普通のドラマでいう第1話が終わったところだからね……。

『SPEC』を見ている前提の続編か


堤幸彦作品で恒例となっている対照的な男女ふたりのコンビ。今回は、御厨静琉(木村文乃)と高座宏世(松田翔太)という組み合わせ。

これまた『SPEC』における当麻紗綾(戸田恵梨香)と瀬文焚流(加瀬亮)を思わせるふたりだ。


御厨は通常時、眼帯を着用しており、外すと「リバース」という時間を巻き戻すことができるSPECが発動。常に左手を三角巾で吊していて、左手を出すとSPECが発動した当麻をイメージさせる。

高座の方は、追っていた犯人が目の前で何者か(おそらくSPECホルダー)に刺殺されるという事件が起こり、高座自身が刺殺したと疑われたことによって警察を辞職。内閣情報調査室特務事項専従係(トクム)に異動したという経緯があり、これも、SPECホルダーのせいで部下を誤射したと誤解された過去を持つ瀬文と重なる。

そして、このふたりと敵対する存在と見られるのがニノマエイト(黒島結菜)。「時間を止める」というSPECも共通しているし、神木隆之介が演じていたニノマエジュウイチの関係者だということは確実だろう。

このように、ストーリーもキャラクター構成もつながっていることから分かるとおり、『SICK'S』は『SPEC』を見ていることを前提とした作りとなっている。

しかもテレビドラマ版、スペシャルドラマ版、映画3部作を全部見ていないとよく分からないんじゃないかという部分もあり、視聴までのハードルがなかなか高そうだ。

地上波の連ドラだったら、ここまで前作を知っている前提でのドラマ作りというのは、よっぽどの国民的ドラマじゃない限り成立しないところだろうが、「Paravi」では現在『SPEC』シリーズがすべて配信されているため、見ていなかった人は、まずは『SPEC』の方から見ることができる。

このあたりはネット配信ドラマならではの強みと言えるだろう。……とはいえ、全部見るのにはだいぶ時間はかかるけど。

ファンが課金して続編が作られるというテストケースになるか?


『SICK'S』は単に従来のテレビドラマをネットで配信したいわけではなく、ネットに対応した新しいドラマの形を模索している最中なのだろう。
毎日1〜2分ずつ配信する「ピンチョス配信」という斬新過ぎる配信方法も、そのチャレンジの一貫と考えられる。……ちょっとチャレンジしすぎという気はするが。

「Paravi」の運営側も「さすがに無理あるぞ」と判断したのか、当初は毎日「ピンチョス配信」を公開していき、週の終わりに「週刊まとめ」という形で10分程度にまとめられた動画が公開されるというペースだったのだが、途中から、週の頭にまず「週刊まとめ」が公開され、それから「週刊まとめ」を分割した「ピンチョス配信」が毎日小分けに公開されるというペースに変えられていた。

週頭に10分バージョンが見られちゃうので、実質「Paravi」に加入している人は「ピンチョス配信」を毎日見る必要がなくなっているのだ。

「ピンチョス配信」の方は、TwitterやYouTubeなどで公開する、未加入の人へのプロモーションという意味合いが強くなっていると思われる(いきなりTwitterで1分動画を見せられても意味が分からなドラマだけど)。

このように、配信方法に関してはかなり手探り状態のままスタートしている『SICK'S』。

まだ第1話が終わったところ、壮大なドラマの触り部分といった感じなので、面白いか面白くないかを判断する段階ではないが、何度も見返せるというネット配信の特性を活かして、いつも以上に細かい小ネタがちりばめられていたり、やりたい放題やっているので堤幸彦ファンにはとりあえずオススメ。

テレビ局主導で作られたネット配信ドラマのテストケースとしても追いかける価値があるドラマだと思う。

ただ、テストケースにしては、いきなり3部作になることが決まっているなど、話が壮大になりすぎそうなのが心配だが。

1シーズン何話を予定しているのか不明だけど、12話だったとしたら、完結するのは3年後……。

そう考えると正直、1年後にシーズン1が終わったくらいの段階で「Paravi」に加入して一気見するくらいでもいい気もするけど、このテストケースが成功すれば、地上波で高視聴率を取るのは難しいかも知れないけど、コアなファンが支えてくれそうな作品の続編を有料配信サイトで制作する……という流れが作られるのではないかと思う。

なので『SPEC』および堤幸彦ファンはとりあえず課金すべし!

ボク個人的には、金八先生の子ども・幸作くんが教師になって大活躍する続編『3年B組幸作先生』が見たい! これだったら毎月925円(税抜)払い続けますよ!
(イラストと文/北村ヂン)
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