このドラマの見どころは、セリフの応酬やストーリーだけじゃない。細かいところに意味を持たせてる。例えば、第2話の春田と牧は似た柄で色違いのネクタイを毎日締めていた。「春田はスーツのコーディネートまで牧に丸投げしてる」と妄想ができ、春田の生活力の無さを強く印象付けられたのだ。
それが、第3話からは全然違う柄に! 前回のエンディングで牧は「普通には戻れないです」と口にしており、2人の関係性の変化が衣服に表れた形だ。第3話が春田―黒澤夫妻のターンになるのは、当然だった。

夫・吉田鋼太郎が恋するはるたんに妻・大塚寧々も好感
一人暮らし用の物件を探しに、蝶子が「天空不動産」へやって来た。彼女は、担当に春田を指名。「はるたん……」とつぶやく夫の寝言が理由かと思いきや、そうじゃない。ホームページで「特徴 お人好し」と紹介される春田の人柄が、蝶子のアンテナに引っかかった。夫の周辺調査をするスパイとして、春田のようなタイプは最も利用しやすい。
春田は春田で、利用されるだけじゃない。
そして、いよいよ核心に踏み込む蝶子。
蝶子 ねえ、君の会社にハルカさんっていう子いる?
春田 え?
蝶子 ハルカ!
春田 ハルカさんですか? 私どもの営業所にはいないですね。
「ハルタ」と「ハルカ」、一文字違うだけで2人は話が通じない。……アンジャッシュのすれ違いコントかよ! 居酒屋店主としてアンジャッシュ・児嶋一哉が出演しているけども。
蝶子の正体を春田が知ったのは、帰社してからだった。主任の武川政宗(眞島秀和)に真相を明かされた春田は、物件回り中のやり取りを思い出してハッとする。あのご婦人は「ハルカ」と言ってたが、それって「はるたん」のことでは!?
「お……俺やん」(春田)
すでに、武蔵は妻へ離婚を切り出している。切り出された蝶子は「ハルカ(はるたん)」を探している。
一方、妻の襲来に気付かぬ武蔵は恋敵・牧への敵愾心でいっぱいだ。ミーティング中、牧にガンを飛ばすわ、離席するふりして牧に肩パンするわ……。春田とのランチデートをぶち壊され、まだ根に持ってる模様。この人、喜怒哀楽がいちいち昔の少女漫画っぽいのだ。
ミーティングで、サンドウィッチマンになることを命じられた春田。奇しくも、黒澤夫妻の圧に困惑する境遇と酷似している。物件情報だけでなく、春田は武蔵&蝶子からも板挟みになっている。
林遣都への当たりが強い眞島秀和
牧への当たりが強いのは、武蔵だけじゃない。優秀なはずなのに仕事上のミスを連発する牧に、逐一注意を与える武川主任。
「牧! なんだよ、この報告書! 縦書きは右綴じ、横書きは左綴じって決まってるだろ! すぐにやり直せ!」
牧を詰めるテンションが異常な武川。声量と迫力がパワハラの域だ。というか、そんなケアレスミスを連発する牧じゃないはず……。
決定打は、職場の飲み会だった。先輩社員・瀬川舞香(伊藤修子)が、皆の前で春田と牧がルームシェアしていることを公表した。「楽しそうだな、ハハハハハ!」とリアクションする武川をチラ見し、一瞬だけ浮かない表情になる牧。直後、武川は居酒屋の外へ牧を連れて行った。こっそりと店内から、春田は2人の様子を窺う。
牧 そういうことです。
武川 ……説明になってないだろっ! そんな報告で通用すると思ってんのか?
牧 いや、だから……
ではここで、第2話の副音声で林遣都が提示したヒントを振り返りたいと思う。
「武川さんは“政宗”っていう名前なんですよ。覚えておいてください」
政宗といえば、伊達政宗。二刀流の男だ。
牧の態度もおかしい。連日のように絞られる牧を心配した春田は、武川に切り出した。
春田 牧のことなんですけど、うまくいってないんですかね? 最近、つらそうにしてるから……。
武川 牧がつらいって言ってるのか?
春田 あっ、いやいや、そういうわけじゃないんですけど……!
その日の夜、帰宅した春田に牧は詰め寄る。
「何、余計なことしてくれてるんですか。武川さんに今日、俺が困ってるって言いましたよね? いや、もう本当、マジ、デリカシー……。ほっといてくださいよ、俺のことなんか!」
春田から牧の様子を聞かされた武川が、その後、牧本人に詰め寄った。そう考えるのが自然だ。
女性をただの敵役にしない『おっさんずラブ』
『おっさんずラブ』第3話は、修羅場の回だった。牧―武川のやり取りは、まだ序の口。武蔵―蝶子による直接対決は、完全に待ったなしの状況である。
●修羅場その1
武蔵から離婚を切り出された蝶子は、怒りの形相で武蔵にクッションを投げつける。
武蔵 スマン……。
蝶子 私は別れる理由が知りたいの! 私の何が悪かった!?
武蔵 君が悪いんじゃないんだ。
蝶子が怒るのは当然だ。彼女に非は一つもないのだから。武蔵がスマンしか言えないのも当然だ。真相を打ち明ければ、蝶子は想像以上のショックを受けるに決まってるから。
蝶子 他に好きな女ができたの?
武蔵 女じゃ……ないんだ。
確かに女じゃない。ウソは言ってない。もっと悲惨な理由が隠されている。
「この30年、なんだったの? 何でも言い合えるのが、夫婦なんじゃないの?」(蝶子)
真実を知らぬ蝶子が抱えるのは、やり場のない憤りだ。武蔵からすると、大切な人だからこそ蝶子に真実を言えない。30年付き添った夫婦だから、言えずにいるのだが。
●修羅場その2
武蔵が入浴する隙に、武蔵の所有物を物色する蝶子。結果、彼女は武蔵のカバンから「はるたん観察日記」を発見する。ショックを受けた蝶子は「長い間お世話になりました」と書き置きを残し、家を出た。
蝶子は、ファミレス「アゼリア」に春田を呼び出した。アゼリアの花言葉には「恋の喜び」という意味がある。
蝶子 心のどこかでは、あの人のことまだ信じてた。でも、こうなったらこっちが引くしかないのかな?
春田 ひ……、引く?
蝶子 主人の幸せ考えたら……、そのはるたんとやらがそんなに好きなら……。
蝶子が引いたら、春田がピンチである。武蔵を食い止めるストッパーがなくなってしまう。春田は蝶子に奮起を促した。
「何も言わずに身を引くのは間違ってると思います。奥様のその気持ちを、部長にちゃんと伝えるべきだと思います! 部長は現実から背を向けるような卑怯な男じゃないと思うので」
自分の発した言葉にハッとする春田。今、まさにブーメランが戻ってきた。現実に背を向けているのは、春田自身である。武蔵からの求愛にNOを言えず、煮え切らない態度のまま。牧に対してもそうだ。その気がないのに、家事ができるからってウヤムヤでいようとする。卑怯者でいることに、春田はやっと気が付いた。
蝶子 君って……、君って本当にお人好しね(泣)。
春田 いえ、俺は……違うんです。俺は……、俺は……、お人好しとかいい人じゃない……(泣)!
蝶子 なんで君が泣くのよ(泣)。
春田が泣いているのは、今までの自分が情けないから。お人好しなんかではなく、俺は卑怯者なんです!
そこに、“現実に背を向けない男”武蔵がやってきた。目の前にいるのは、泣き顔の妻だ。
「泣いてるじゃないか。(春田に向かって)なんかしたのか!?」
春田に迫るほんの一瞬だけ、夫の顔になった武蔵。駆けて探し回るほど、蝶子は大切な人だった。と同時に“乙女”の気持ちもある武蔵。蝶子への優しさも溢れている。現実に背を向けるのは、もうおしまいにしよう。武蔵は意を決した。
武蔵 好きな人ができたんだ。……すまない!
蝶子 相手ははるたんでしょ? どこの子なの? ねえ! ハルカさんとは別れられないの?
武蔵 ハルカじゃない。はるたんだ。
蝶子 どうでもいいわよ、そんなの!!
いや、どうでもよくない。武蔵と蝶子の勘違いのやり取りが、またアンジャッシュのコントみたいだ。
蝶子 どこの女よ!?
武蔵 はるたんは……女じゃない。はるたんは……男だ。
蝶子 えっ……。ちょっと意味がわかんないんだけど……。
こんなクライマックスで天丼!? サンドウィッチマン富澤の「ちょっと何言ってるかわかんないです」に酷似したセリフで、困惑する蝶子。サンドウィッチマンになり営業した春田と、このシーンが見事にリンクした。
武蔵 俺が好きなのは……、(春田を抱き寄せて)彼なんだ。
蝶子 まさか……。君の名は?
春田 はるたんです……(泣)。
蝶子 えええーーーーーーーーーっ!?
『おっさんずラブ』は女性を安易に悪役として描かない。蝶子をちゃんと一人の人間として扱うことで、夫婦愛も描いてみせた。ただの敵役じゃないので、蝶子のパニックに共感することだってできる。
このドラマは男同士の恋愛を切り取り、面白おかしく仕上げるだけが目的じゃない。様々な立場による“真剣な恋”に共感できるのは、それが理由だ。
そして、今夜放送の第4話。すでに予告映像で、ショッキングなくだりが公開されている。春田が「ごめんなさい!」と頭を下げ、武蔵が「うわあぁぁーーっ!!」と崩れ落ちるシーンだ。現実に背を向けていた自分に気付き、武蔵の気持ちに向き合った春田の勇気ある意思表示である。
武蔵に対してNOならば、残る矢印は牧のみか? いや、幼馴染・荒井ちず(内田理央)との関係も進展がありそうな気配だ。
加えて、第4話のタイトルは「第三の男」。これが、武川主任を指しているのは明らかだ。
予告映像で武川は「俺ならお前を傷つけたりやしない」と、意味深なセリフを発している。天空不動産で傷ついている者と言えば、誰? 春田はどうか。いや、彼は「傷ついている」と言うより「困惑」の感情に近い。では、牧はどうか? 牧は、露骨に傷ついている。春田に振り回される彼の姿は、見てて可哀想なほどだ。
第4話、筆者は牧と“第三の男”武川の関係性に注目したいと思う。
(寺西ジャジューカ)
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