長澤まさみ主演、古沢良太脚本の月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』。奔放なダー子(長澤)、お人好しのボクちゃん(東出昌大)、変装の名人・リチャード(小日向文世)の3人の“コンフィデンスマン(信用詐欺師)”が悪党から大金を騙し取る。


先週放送された第5話の視聴率は9.3%。微増が続いているが、第5話の二転三転するストーリーの面白さはシリーズ屈指だった。視聴率、まだまだ伸びるとみたね。「国際信州学院大学」がダー子たちの仕掛けの一つに見えたあなたはすでにコンフィデンスマン脳。
「コンフィデンスマンJP」「ドクターX」長澤まさみと山田孝之ズルすぎ5話。今夜は悪内村光良登場とな
イラスト/まつもとりえこ

「お金がないってことは命の価値が低いのよ」


『情熱大陸』と『プロフェッショナル 仕事の流儀』を足して3で割ったようなドキュメンタリー『ノンフィクショナル 仕事の行儀』で始まる第5話。わざわざナレーターの窪田等を起用したり、「Progress」をそのまま流したりする芸の細かさ、手間のかけ方がすごい。あちこち許諾も必要だったろうに……。

『ノンフィクショナル』に登場するのは“若きスーパードクター”こと野々宮新琉(永井大)。そして今回のダー子たちのターゲットが、彼の母親であり、野々宮総合病院の理事長、野々宮ナンシー(かたせ梨乃)だ。

ナンシーは“グッドルッキング”だが手術もろくにできないダメ医者の新琉をスーパードクターに仕立て上げ、集まった患者から賄賂を受け取った上、お金のない患者は病院から叩き出すという悪辣な病院経営を行っていた。

「お金がないってことはね、社会に対する貢献度が低いってこと。つまり命の価値が低いのよ。アッハッハ! ウチの患者じゃないわ。
安い病院で安い治療を受けろっつーの!」

このヤフコメみたいな暴言がナンシーの思想信条をよく表している。

新琉の影武者を務めていたものの、ナンシーに嫌われて病院から追い出された“バッドルッキング”の腕利き医師・田淵(正名僕蔵)から実情を聞いたボクちゃんは、ダー子に話をもちかけてナンシーをターゲットに定める。なお、第3話でダー子が描いたデタラメな贋作の絵を高額で落札したのがナンシーだとわかってツイッターが騒然となった。

炸裂する『ドクターX』の本気パロディー


田淵の後任の医者に化けたボクちゃんは病院に潜り込み、ナンシーの精密検査を行ってニセの病気、胸部下行大動脈瘤をでっちあげることに成功する。緊急手術を要するが、新琉をはじめ、野々宮総合病院には難手術を執刀する医師がいない。それでもナンシーは田淵に頭を下げることをきっぱりと拒絶。そこでいよいよ“ゴッドハンド”のスーパードクター、ナオミ・ロックハートに化けたダー子の登場! 

ナオミはナンシーの極秘手術を了承し、代金として300万ドル(約3億3000万円)をふっかける。金額を了解させるとき、ナンシーが言っていた「命の価値」を持ち出すのがうまい。不安に駆られたナンシーをなだめるとき、ナオミが「大事なことはコンフィデンス(信頼)と言うのも皮肉めいている。ダー子たちはコンフィデンスを悪用する詐欺師なのだから。

ナオミ・ロックハートの名前の元ネタは『ER緊急救命室』に登場するアルコール依存症の女医、アビー・ロックハート。アビーの本名はアビゲイルだが、あとでナオミが連れてきた看護師の中にもアビゲイルという名前の女性がいた。ダー子が勉強のために見ていたのは高視聴率の医療ドラマ『ドクターデンジャラス』(主演・我修院達也)。
医者が危険じゃダメだろう。

そしていよいよ手術! 五十嵐(小手伸也)らを率いて病院を闊歩するナオミの姿は『ドクターX ~外科医・大門未知子~』の米倉涼子そっくり。BGMもそのまんま! やるだろうとは思っていたが、ここまで堂々とやるとは思わなかった。ニセの手術映像を別室の新琉に見せて、手術は行わない手はずだったが、用意した映像が映らなくなってしまい窮地に追い込まれるボクちゃんたち。そこでダー子はついに手術を行うことを決心! 決め台詞は、

「私、失敗しない気がする」

ざ、雑!

偏見をぶっ壊す


医師免許を持たないド素人・ダー子による手術は順調に進むかと思ったが、やはり大失敗! 血が噴き出し、もはや収拾不可能……。どうする、どうなる……。

そこに現れたのは病院を追い出されたバッドルッキングな名医の田淵! なるほど、彼が手術を成功させるのかと思いきや、いきなり本性を剥き出しにして新琉に病院の経営権を要求! そのあまりの下衆っぷりにボクちゃんに殴り飛ばされて手術室を追い出される。

実はナンシーが田淵を嫌っていたのは、患者にも傲慢な態度をとりつづける下衆な性格ゆえだった。田淵は手術の腕は良いが、誰ともコンフィデンスが築けない医者だったのだ。見た目が悪くて内向的な人は優しい心の持ち主――という人々の偏見をぶっ壊すパンチの効いた脚本だ。

ナンシーがもっとも期待していたのは、息子の新琉だった。優秀な成績で医大を卒業し、患者想いでもあったが、新琉には人の命を救う覚悟が欠如していた。ダー子に促され、かけがえのない母の命を救うため、ついに自らの力で難手術に挑む! 

と思ったら、あえなく奇声をあげて手術室から逃げ出してしまう。
ダメなやつは最後までダメだった……。

目まぐるしい展開の中で、世の中の真実をグリグリと抉る古沢脚本が素晴らしい。医者を辞めることになった新琉が、実は以前からやってみたかったという新しいチャレンジが「YouTuber」というのも非常に浅はかで良い。彼が「難病の子どもたちの世話をしたい」などと言うんじゃないかと思ってしまった自分の甘さを思い知らされたよ。

山田孝之のサプライズ出演に視聴者呆然


第5話は第2話以来の二重構造のトリックになっていた。ダー子たちがターゲットのナンシーだけではなく、仲間のボクちゃんもダマしていたのだ(理由は「面白いから」)。ボクちゃんをダマす手口は視聴者にも秘密にされている。だから、視聴者もボクちゃんと一緒にオロオロするしかない。

田淵も新琉もいなくなった手術室を撤収するダー子たち。呆然とするボクちゃんの前に現れたのは……ハリウッドで活躍する天才特殊造形師のジョージ松原(山田孝之)!

「僕は仕事を選ばない主義だから」

と山田孝之本人に言わせるところがズルい。ていうか、セリフはこれだけ。「あんたは絶対に仕事を選んだほうがいい!」と東出昌大に言わせるところも、とてもズルい。
なお、「特殊メイクがそこまでリアルに見えるのか?」という問題に関しては、医療ドラマで特殊メイクばかり見ている我々視聴者には判断がつかないという底なしのオチが用意されている。

見事に3億3000万円の奪取に成功、ナンシーの健康も問題なし(もともと健康なわけなんだから当たり前)。ナンシーは憑き物が落ちたように病院の経営権を手放し、新琉はYouTuberに。ナンシーの性格が豹変したのは、盲腸の手術後、どんどんワイルドに豹変していったリチャードの姿がヒントになっていたという伏線も気が効いていた。

ただの医療ドラマパロディーで終わらず、二転三転するストーリーとともに「ダメな奴はやっぱりダメ」という真理をつきつけた『コンフィデンスマンJP』第5話でした。

今夜放送の第6話は、ついに内村光良登場! 悪徳コンサルタントに扮した内村とダー子たちの詐欺バトルが火花を散らす。今夜9時から。
(大山くまお)
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