生田斗真×瑛太主演作『友罪』。瀬々敬久監督が描きたかったものとは?
(c)2018映画「友罪」製作委員会

――心を許した友は、あの少年Aだった。

生田斗真×瑛太主演で、連続児童殺害事件の犯人“少年A”と、それを取り巻くさまざまな人々の生き方を描いた映画『友罪』が5月25日より公開となる。


薬丸岳の原作を基に製作された今作は、あくまでフィクションであるのだが、ドキュメンタリーのようなリアルさもあり、“殺人者”という他人の話であるはずなのに、それが自分の話のように迫って来る。罪が有ると書く“有罪”ではなく、友と罪と書く“友罪” ――。一体“罪”とは何なのだろうか? そんな根本的な疑問さえ沸き上がらせる。

今回「スマダン」では、本作のメガホンを取った瀬々敬久監督にインタビューを実施。映画『64-ロクヨン-』で、主演の佐藤浩市が『日本アカデミー賞 最優秀主演男優賞』を受賞するなど、“犯罪”を扱った作品で、世間からも高い評価を受けた瀬々監督が、新たに挑んだ“犯罪”をテーマとした本作。そこにどのような想いが込められているのか、撮影現場での生田さん、瑛太さんの話などを含め、じっくりと語ってもらった。

犯罪者が普通の人に罪を問いかける


生田斗真×瑛太主演作『友罪』。瀬々敬久監督が描きたかったものとは?
(c)2018映画「友罪」製作委員会

――今作は薬丸岳さんが2013年に発表された小説が原作となっていますが、監督が原作を読まれたときに、「映画化したい」と思ったポイントはどこだったんでしょうか?

瀬々監督:今でも覚えている感情なんですけど、罪を犯した鈴木(瑛太)から、社会的には罪を犯してはいないはずの益田(生田)に問うんですね。君も何かに怯えている、その罪を教えてくれ、と。そこが印象深かったですね。普通は、罪を犯していない人が、犯罪者に「どうしてそんな罪を犯したんだ?」って聞くものじゃないですか。でもここではその反対のことが起こっていて。それで映画化したいな、って思いました。普通という言い方にすると語弊があるかも知れないですけど、実は益田も小さな罪を犯しているんですが、鈴木が犯したことに比べると、そこまで罪深いものではない。
むしろ、普通の人でも犯してしまう可能性のあるもので。人は普通、安全なところにいたいし、自分は罪なんて犯してない、と思いたい。

でも、実は違うんじゃないか、みんなちょっとした罪を犯したり、知らないうちに人を傷つけたりしてるんじゃないか。僕らは生きている限り、安全ではないのだ、と。そういうことを、犯罪者の側から突きつけられているようなイメージがあったので、そこをモチーフにして二人(益田と鈴木)の関係性を描けないかなって思ったんです。
生田斗真×瑛太主演作『友罪』。瀬々敬久監督が描きたかったものとは?
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――そこから映画化の作業に入ったと思うのですが、映画としてはどこに重点を置いて作って行ったんでしょうか?

瀬々監督:それは出来上がった映画を観て、逆に気づかされるようなことがありました。作っているときはゴールが見えてなくてもやっているというか、がむしゃらなんですよ。がむしゃらに作りながら答えを探している、っていうところもあるんですよね。

――ご自身で作っているものでありながら、出来上がったものから答えを得ることもある、と。

瀬々監督:そうなんですよね。今回、すごくいいな、と思ったのは、もちろんこっちも根性を入れて撮ったんですけど、今話した、夜の公園で鈴木が益田に問いかけるシーンですね。やっぱりあそこがこの映画の中では肝となっていると思います。
それぞれが本心を吐露していくところが、すごくいいなって思いましたね。

撮影プランではそうだったんですけど、その前のシーンの、寮で鈴木が壊れたテレビをいじっているところに、益田が戻って来て、公園で一緒に飲もうって誘う。あのときに鈴木がすごく嬉しそうな顔をして、益田がそれに微笑み返すというやり取りも、僕は出来上がったものを観て、すごくいいなって思ったんですよ。

ああいう小さなやり取りに、人生のきらめきのようなものがあるな、と。誰しもが経験するような、宝物のような瞬間があるな、と思ったんです。罪を犯した人たちを救ってあげられるのは、ああいう時間じゃないのかな? って。そしてもっと突き詰めると、そういう時間の素晴らしさを加害者が知ったなら、加害者は逆に、被害者からそういうきらめきの瞬間を奪ってしまったのだというのを感じるのではないかと。それが自分の罪を加害者が本当に感じることにつながっていくんじゃないかと、最近、思うことですね。そうは言っても被害者にとっては取り返しのつかないものは残ってしまうのですが。

――そうすると、作っているときはどんな感じなんですか?

瀬々監督:俳優たちに、すごい芝居してほしい、って、念じながら撮ってるというか。やっぱり魂と魂がぶつかり合うような芝居を見せて欲しいなって思って、シーンを作って行ってますね。でもそういうことを重ねて行くと、最初からゴールを設定していなくても、何かが見えてくる気はします。


生田さんは作り上げるタイプ、瑛太さんは一発目からガチなタイプ


生田斗真×瑛太主演作『友罪』。瀬々敬久監督が描きたかったものとは?
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――主役を演じた生田さんと瑛太さんについて、監督は二人は違うタイプの俳優だとコメントされていましたね。

瀬々監督:生田くんは作り上げる、構築して行くタイプですね。だから映画『土竜の唄』(2014年、2016年に公開。ヤクザに潜入捜査する警察官を演じた)のようなブッ飛んだ役から、すごくリアリズムを持った役まで、かなりの振り幅の役を演じることができるんだと思います。現場でもテストを繰り返しながら、本番に最終到達点が来るように徐々にテンションを上げて行くんです。

一方で、瑛太くんは一発目からガチの勝負に来るタイプ。それでおなじことをやっても飽きるから、次は違うことをやる。そういう意味で全く違うタイプだなって思いましたね。

生田斗真×瑛太主演作『友罪』。瀬々敬久監督が描きたかったものとは?
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――普段のお二人はどうですか?

瀬々監督:生田くんは人あたりがよくて、いい意味で普通の人っぽい。話していても人に緊張感を与えない、親しみやすい人柄ですね。でも一歩カメラの前に立つとすごいオーラを出すんですよ。瑛太くんは……いい意味で、変わり者じゃないですか(笑)。普段から独特の雰囲気を持ってますよね。


――あははは(笑)。でも瑛太さんは『64-ロクヨン-』でも重要な役を演じられていて、今回はさらに難しい役をやっていらっしゃいますよね。

瀬々監督:やっぱり、そこは僕も楽しいんですよ。彼の芝居を見るのが楽しい。枠に収まっていなくて、自由な感じがするんですよね。そこが彼の魅力だなって思うんです。

映画ならではの表現方法で、重層的に物語を広げる


生田斗真×瑛太主演作『友罪』。瀬々敬久監督が描きたかったものとは?
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――『64-ロクヨン-』からの流れで行くと、佐藤浩市さんも出演されていますが、監督との間に築かれた信頼関係から、今回はキャスティングされたんですか?

瀬々監督:浩市さんはいち俳優というよりも、一緒に映画を作っている人、っていう感じがするんです。現場における態度もそうだけど、そこが浩市さんならではな感じがするんですよね。

――佐藤さん演じる山内は、原作とは設定が異なっているのですが、そのせいもあってか、原作以上に山内に感情移入する場面もありました。

瀬々監督:この映画って鈴木と益田が中心だけど、物語のなかに具体的に二人の父親や母親は出て来ないじゃないですか。特に鈴木側がそうなんだけど、この山内という人物が出て来ることで、観ている人が鈴木の父親を想像したりできる。世界が重層的に広がって行くような効果があるんですよね。

富田靖子さんが演じてくださった、弥生っていう法務教官の役もそうなんですけど、原作では描かれていない、少年院での描写を映画では敢えて描いていて。
そうすることで鈴木もこういう少年だったんじゃないか、って想像ができる。そういう意味で、原作よりは具体的に画として群像の描写を増やしているんですね。

生田斗真×瑛太主演作『友罪』。瀬々敬久監督が描きたかったものとは?
(c)2018映画「友罪」製作委員会

――原作だと主人公の二人に強く感情を引っ張られるのですが、映画になるともっといろんな人に感情を引き付けられて、その分、「自分だったらどうする?」というものが多く返ってくるような気がしました。

瀬々監督:原作では山内や美代子も同じ工場で働いている設定だったのを、映画では別々の場所で生きてる設定に変えたのが大きい気がします。同じ場所だと、どうしても益田と鈴木の二人からの目線になってしまうのですが、居場所を変えることで複眼的に見えてきたのではないでしょうか。

――最後に、監督としての今作の見どころを教えていただけますか。

瀬々監督:生田くんと瑛太くんが中心であるんですけど、浩市さん、富田さん、美代子を演じた夏帆さんとか、そういう人たちもものすごい芝居をしているので。今までのどの作品でも観たことのないような表情をしているところもあるので、そこはぜひ観て欲しいですね。皆さん、非常に困難な役柄、設定なんですけど、そこにぶつかって演じてる様を観て欲しいです。ある一線を超えたお芝居をされていると思います。

そして、物語としては、そうやって皆さんが演じてくださった人物たちの止まっていた時間が、後半になると動き出して行くんです。少しだけ前に進んで行く。
その変化も観て欲しいです。そんななかで、最後には、僕らなりに考えた希望とまでは行かないですけど、雲の隙間から差し込んで来る光のようなものを描こうとした部分もあるし。そういうものを感じてくださったら嬉しいですね。

作品情報


映画『友罪』
5月25日(金)全国ロードショー
出演:生田斗真、瑛太、夏帆、山本美月、富田靖子、佐藤浩市
監督・脚本:瀬々敬久
原作:「友罪」薬丸 岳(集英社文庫刊)
配給:ギャガ (c)薬丸 岳/集英社 (c)2018映画「友罪」製作委員会
公式サイト:http://gaga.ne.jp/yuzai/
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