“SSWおじさん”というワードが、ネット上でバズッている。SSWとは何の略かというと、シンガーソングライターのこと。
インディーズで活動する女性SSWのイベントに出没する迷惑なファン(中高年の男性が多いそう)が、一部でSSWおじさんと呼ばれているのだ。アイドル現場での迷惑行為はよく話題になるが、SSW界隈にもいわゆる“厄介(迷惑行為を働く観客のこと)”が存在していたのか……。

Twitter上でSSW現場における迷惑行為について苦言を呈し、“SSWおじさん”という言葉を広めたアーティスト・大石理乃さんに、SSW界隈が抱える問題について語ってもらった。

「マイクが邪魔」「おいババア!」“SSWおじさん”のヤバすぎる迷惑行為、大石理乃が明かす

<大石理乃>
シンガーソングライター、ギタリスト、アイドルグループ“tasotokyoガールズ”のプロデューサーなど、音楽を軸に幅広く活動している。昨年7月、新シングル『東京LOvE STORY』をリリース。新曲もレコーディング中。


根底にあるのは“マンスプレイニング”か


――SSWおじさんは、具体的にどんな迷惑なことをしてくるんですか?

「聞いた話も混ざっているんですが、ガチ恋(演者に恋愛感情を抱くファンのこと)のおじさんから、いきなり求婚されたりとか、物販で何も買わないのにずっと話しかけてくるとか。あとSSW現場は無料で撮影OKのところが多いんですが、演者が途中で『〇月〇日からは撮影禁止になります』とアナウンスすると、『もうお前のライブには行かない!』と怒り狂ったりするんですよ。カメコ関係だと、歌っているのに『そのマイク、撮影の邪魔だからどかして』と言われたというのも聞きました」

――SSWなのにマイクが邪魔……!?

「ライブハウスで照明もあって、楽器を持っている女の子のいい感じの写真が撮りやすい上にチケット代が安いから、カメコおじさんがSSWのイベントに来るのはわかるんですよ。でも上から目線で、『撮影できないから行ってやらない』と言ってくるのは違いますよね。ライブ中、『おい、ババア!』とヤジを入れられた子もいます。自分の方がおじさんなのに……(笑)。あと私の場合、『もう年なんだから、ボイトレをちゃんと受けた方がいいよ』って面と向かって言ってこられたことがありました。
本人的には大真面目なんですけど、ヤバいおじさんですよね」

――SSWおじさんの言動として、“上から目線のアドバイス”というのもTwitterで指摘していましたね。

「『あのギターコードは使わない方がいい』とか『もっと心を込めてやった方がいいよ』とか音楽そのものにいろいろ言ってくる人もいます。こっちからアドバイスを求めた場合はともかく、聞いてもいないのにアドバイスをしてくるのは……。最近、新しい言葉を覚えたんですよ! マンなんとかっていう」

――マンスプレイニング(相手は自分より無知だと決めつけて、男性が女性に対して上から目線で物事を解説することを指す言葉)?

「それです! おじさんたちは、自分が顔出しして何か活動する気はないんですけど、SSW女子に口出しして、何かしている気持ちにはなりたいんだと思います」

SSW現場はファンの自治ができていない?


――SSWおじさんがバズッたことによって、なぜか大石さんに対する批判も起きています。

「なんか私、はあちゅうさんみたいな状態になっていますよね(笑)。はあちゅうさん好きなんですけど。どうも掲示板みたいなところで叩かれているらしいんですよ。
私に直接言うと、『僕はSSWおじさんで、図星刺されて鼻息荒くしています』っていうのがバレちゃいますからね。自分に思い当たるところがあっても認めたくない人が多いんでしょう(笑)」

――反響の中で、印象に残った意見はありましたか?

「界隈の空気がSSWおじさんを生んでしまっているんじゃないかという意見がありました。アイドルやバンドの現場だと、たとえおじさんが『この子にアドバイスしたい、もっと話したい』と思っても、自然とストップさせられる空気があります。でもSSW現場だと、物販で何も買わないのに演者に延々話しかけたりするのが当たり前になっていて、新しく来た人が『自分も無料で話しかけていいんだ』と思い込んでしまう」

――アイドル現場で言う“無銭がっつき(物販で何も買わないのに演者と交流しようとすること。マナー違反とされている)”が常態化しているんですね。他の現場だと、そういうお客さんはマネージャーなどが注意するようになっていますが、SSWの現場では違うんですか?

「メジャーデビューしていて人気の子はスタッフさんが守ってくれますけど、SSW女子は物販も何もかも1人でやっている子が多いです。
実際1人で出来ちゃう作業量ではあるんですけどね。守ってくれる人がいないというのも問題だと思います」

――他に大石さんとして、SSWおじさんが生まれる原因はどのように考えていますか?

「アイドルやバンドの現場だと、迷惑なお客さんがいても『そういうのは止めろ』って他のお客さんに注意されて自治ができあがっているんですけど、SSW界隈は人口が少ないから、お客さん同士で注意し合うことがありません。それもSSWおじさんが生まれる要因だと思います。あと、SSW女子の方も『私はアイドルじゃないから、歌を聞いてもらえるだけで充分』という意識があって、チェキを物販に取り入れるなどの対策を頑なにとらなかったりする。演者側の意識も関係していると思います」


チェキは“無料で話しかけちゃいけない”意識生む


――確かに“みんな500円のチェキを買って、演者と話している”という現場だと、何も買わずに演者に話し続ける行為は自然となくなりそうです。

「“チェキを売っている人に無料で話しかけちゃいけない”という意識が自然と生まれるんですよね。
私もアイドル現場のシステムは詳しくなかったので、初めて知ったときは、『チェキってそういう役割があったんだ!』とめちゃくちゃ驚きました。でもアイドル以外の音楽活動をしている知り合いに、私が『チェキを売ってみたら?』と勧めたら、『お話するだけで1000円!?』と驚いていました。やっぱりアイドル以外の演者にとっては、お客さんとお話をする時間を有料にするというのは違和感があるみたいですね」

――SSWおじさんに上手く対応できないせいで、音楽活動そのものを諦める女性SSWもいるとツイートしていましたね。

「SSWおじさんは、笑顔で優しく接しちゃうタイプの子のところに群がります。あとは、ライブ経験が少ない子にも『俺が教えてあげるよ』みたいな感じで寄っていきます。SSWおじさんは、界隈では昔から問題になっている存在ではあるんですが、やっぱり演者側からは言いにくいんですよね。
でも今の私はアイドルイベントやバンドイベントがメインだから、SSWおじさんに反発されたところで実害がないんで(笑)」

――迷惑なSSWおじさんをなくすために、どうしたらいいでしょうか?

「SSWおじさん的な部分って、誰もが心に持っているものじゃないでしょうか。だからこそ、ひとりひとりが『これはSSWおじさんっぽいかもしれない』と注意して、女の子の気持ちを考えるようになれば、現場は良くなっていくんじゃないかな。名前が広まることって意味があると思うんです。今まで一部でなんとなく問題視されていた存在に“SSWおじさん”というポップな名前が付いたことによって、『これは』と気づく機会が増えると信じています」

なお、上から目線で女性に絡む男性客というのは、SSW現場だけが抱える問題ではなく、アート界でも、女性作家に粘着する“ギャラリーストーカー”が問題になっている。客という立場を利用して距離を詰めてくる人間というのは、個人で活動している女性なら誰でも遭遇するリスクのある存在のようだ。貴重な才能をつぶさないためにも、女性たちに“自衛”を求めるのではなく、業界全体で対策を考えるべきだろう。

(原田イチボ@HEW)