「メガ崎」という地名からわかるように、『犬ヶ島』はちょっとヘンテコな日本を舞台にしている。劇中でも日本人であるキャラクターたちは全て日本語で話し、画面に出るスタッフの字幕などには全て横にカタカナ表記も出る。いきなり出てくる相撲や和太鼓、巨大なコンビナートやカタカナで書かれた看板、ぶっ壊れた原子力発電所などなど、「合ってはいるけど、なんだか変」な日本描写がパンパンに詰まっているのだ。
しかし、この映画のスタッフはおそらくこの「ちょっと変な日本描写」を、完全に分かった上でやっている。なんせ監督が細部にこだわり抜くウェス・アンダーソンである。『犬ヶ島』でも全ての色彩と構図が完璧にコントロールされ、「ちょっとずれた、変な日本」を表現するために奉仕している。また、シンメトリカルな構図と固定されたカメラによる戯画的なムードも見所。なんせ『犬ヶ島』は、画面に映るもの全てを意のままにできるストップモーションアニメだ。犬たちの毛並みの汚さ(どの犬も臭そうなのである)から三船敏郎のような小林市長の表情、サビの浮いた犬ヶ島の施設や積み上げられたゴミのひとつひとつに至るまで、めまいがするようなディテールが集積されている。