連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第9週「会いたい!」第53回6月1日(木)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

53話はこんな話


岐阜から晴(松雪泰子)が鈴愛(永野芽郁)を訪ねてやって来た。

高瀬アナの変化


「おはよう日本」関東版で高瀬アナが「(律と鈴愛それぞれの恋愛が描かれ)大事なところです」と言ったあと「・・・ところ?」と首をかしげていた。常に肯定的に素直にドラマを楽しんでいた高瀬アナが衣替えと同時にリアクションを変えて来たことが興味深い。

鈴愛と律、それぞれの青い恋は微笑ましいとはいえ、大の大人としてはなかなか当事者的な問題としては捉えて楽しむまではいかなくて・・・という一部の視聴者の戸惑いを代弁してくれたのかもしれない。

鈴愛のファーストキスは、正人(中村倫也)のジャケットにろうそくの火が燃え移ったため頬だけで終わった。
鈴愛ががんばって火を消しているのを、さっさと避難して見ているだけの正人にファーストキスをあげなくてよかったのではないだろうか。

晴が来た


岐阜からやって来た晴(松雪泰子)に、鈴愛は仕事場と住居を案内する。
まず仕事場のオフィスティンカーベルへ行くと、秋風(豊川悦司)が和服で出迎える。晴に敬意を評しているのだろう。晴の服を褒めるがそれはおしゃれ木田原のもので、鈴愛は「おしゃれ」と言っている時点で「全然おしゃれじゃない事に気づかない」などと余計な説明をする。でもまあそういうのはお約束ということで。
それに地方都市独特の衣料品店にはときおり掘り出し物もある。

すてきな仕事場を見たあとは秋風ハウスへ。
美しく刈り込まれたプテラノドンの秘密が明かされた。壺は謎のまま。
晴には「倉庫」のように見える秋風ハウス。
オフィスを見たあとだからギャップに驚くのも無理はない。
「秋風先生 ニコニコしとったけど油断できんな」という母ごころ。


中村雅俊劇場


梟町では、男(夫)たちはスナック化した〈ともしび〉で羽根を伸し、女(妻)たちはボクシングのトレーニングで二の腕のふりふりを引き締める。
お留守番の草太(上村海成)は仙吉(中村雅俊)のギターの弾き語りに耳を傾ける。

唐突に仙吉が兵隊として満州に行っていたという戦争の記憶に関する話になり、ナレーション(風吹ジュン)が「(草太は)おじいちゃんの深い傷と濃い闇を感じていました」と言う。神様、「深い傷と濃い闇」これは坪内逍遙大賞受賞作家が書いたものなのでしょうか。

仙吉が歌うのはサザンの「真夏の果実」。
90年の大ヒット曲で、桑田佳祐初監督映画「稲村ジェーン」の主題歌にもなった。93年には、北川悦吏子の「愛していると言ってくれ」のヒロイン役で、鈴愛役・永野芽郁の事務所の先輩・常盤貴子が、桑田佳祐と同じ事務所の寺脇康文演じる男との鮮烈なシーンを演じていまだに語り草となっている「悪魔のKISS」(フジテレビ)の挿入歌にもなっている。

後に岩井俊二の映画音楽にかかわったりミスチルブームを作り出したりした小林武史が編曲で参加していて、
90年台ヒットのアイコン的なものが散りばめられている曲だ。
戦争で様々なことが制限されていた仙吉世代がこういう自由で新しい歌に憧れることは良いエピソードだと思う。とりわけ孫と一緒に歌うところが。

鈴愛と律の青くてドタバタした恋バナについていけない視聴者への配慮も感じる。

8、90年代のヒットソングがおもしろいのは、社会状況的にはいけいけぶいぶいの時代だったにもかからわず、ユーミンのラブソングやこの「真夏の果実」など失われたものを美しく歌いあげるものも多いことだ。
まだ戦争での喪失感が残っている時代なのだと思う。

そこで思い出すのは、中村雅俊が演じた「おしん」(83年)の脱走兵役。
「半分、青い。」53話。サザンを歌う中村雅俊劇場 
「おしん 完全版 少女編 」NHKエンタープライズ

おしんの名前の多義性や、勉強の大切さ、反戦、命の尊さなど、おしんの人生に大きな影響を与えた重要人物で、拙著「みんなの朝ドラ」でも紙面を割いて紹介している。そこでは、長丁場の朝ドラでは、ヒロインと関わってくる重要な人物が3人くらいは必要になるということも考察しているが、その考え方でいうと、第一の男・脱走兵・俊作の役割を「半分、青い。」で担っているのは秋風であろう。
(木俣冬)
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