「いいよ、和都。あんたになら撃たれてもかまわない。
和都は私の友達。初めてできた、私の友達」

竹内結子が変人の捜査コンサルタント、シャーロックに扮するhuluオリジナルドラマ『ミス・シャーロック/Miss Sherlock』が15日配信の第8話で最終回を迎えた。

これまでは毎週金曜日の午前10時に新エピソードが配信されてきたが、最終回はhuluが23時から#ミスシャーロック鑑賞会」を緊急開催して大いに盛り上がった。配信ドラマはいつ、どんなタイミングでも観られる利点があるが、地上波のドラマのようにリアルタイムで観ながらファン同士でツイートし合うという楽しみが得られなかった。今回の企画で初めて『ミス・シャーロック』の盛り上がりを実感した人も多いかもしれない。
「ミス・シャーロック」竹内結子ら朝ドラ女優3人の大熱演が日本の配信ドラマの未来を切り拓いて完結
イラスト/まつもとりえこ

最後の決戦はライヘンバッハビルで


第8話のサブタイトルは「最後の事件 後編」。

シャーロック(竹内結子)の同居人で相棒の和都(貫地谷しほり)は、心理カウンセラー・入川真理子……ではなく、犯罪誘導のプロである「マリス・ステラ」の正体、モリワキアキラ(斉藤由貴)の手に落ちた。恋人の守谷透(大谷亮平)を目の前でシャーロックに射殺され、感情を失った和都はモリワキの思うがままだ。

一方、シャーロックは3つの殺人事件の被疑者として追われていた。シャーロックを擁護する礼紋警部(滝藤賢一)は捜査から外され、シャーロックに拳銃を奪われた柴田(中村倫也)は自責の念にかられて退職願を出す。

モリワキと和都を追うシャーロックは、モリワキの狙いがある学者が残した超小型核爆弾の設計図にあると気づく。一方、モリワキはシャーロックに設計図を探させつつ、自ら主宰する洗脳コミューン「ドック」で和都を殺人マシンに仕立てる訓練を行っていた。

礼紋と柴田の協力を受けつつ、シャーロックはモリワキとの最後の決戦に臨む。
シャーロックが指定した待ち合わせ場所は、ライヘンバッハビルの屋上――。

ツッコミどころを押し切る朝ドラ女優3人の熱演


最終回は『ミス・シャーロック』全話の中でも屈指のツッコミどころの多い回となった。

たとえば、公安と捜査一課の捜査会議でシャーロックの本名が一切出てこず、「通称シャーロック」と呼んでいるが、そんなワケがない。どうしても本名を出したくなかったんだろうけど、ちょっと無理がある。そして全国に指名手配されているシャーロックが、相変わらずカジュアルにどこにでも出入りできるのもさすがにおかしい。特に「221B」に帰ってきてチェロを弾いているのには仰天した。警察のマークが一番厳しい場所なのに!

その後もシャーロックはサラッとモリワキの事務所に侵入したり、警察の徹底捜査の網を軽々とかいくぐったりする。警察、橋の下までちゃんと探せよ! モリワキが和都と一緒に警察に出向いてシャーロック逮捕に協力を申し出るが、そもそもシャーロックと一番親しかった和都は警察から徹底的に取り調べられていてもおかしくないのにその形跡がない。刑務所で刑事たちに取り囲まれたシャーロックが薬品の入った瓶を割って逃げるが、もうちょっとブラフがないと刑事たちはあそこまでおびえないはず。

ほかにもツッコミどころはたくさんあるが、竹内結子、貫地谷しほり、斉藤由貴の主演女優3人の熱演で押し切った形だ。竹内結子は最後まで変人シャーロックであることを貫き通し、貫地谷しほりは感情を失った人間の役を大熱演していた。狂気の学者、モリワキを目を剥きながらあくまで静かに演じた斉藤由貴の凄みも十分だった。そういえばこの3人、全員朝ドラの主演経験がある(竹内は『あすか』、貫地谷は『ちりとてちん』、斉藤は『はね駒』)。


『アナ雪』と『ミス・シャーロック』


『ミス・シャーロック』は何を描いてきたドラマなのかと言えば、シャーロックと和都が「友達」になる物語だったと言えるだろう。シャーロックは和都のことを一貫して「友達じゃない」と言い続けてきたが、最後に「初めてできた、私の友達」と和都が向ける銃口を抱きしめる。

そもそも企画の発端には、「当時『アナと雪の女王』や『思い出のマーニー』など、女の子2人が主人公のストーリーが国内外で制作され、ブームが社会現象にまで発展した背景があった」という(プロダクションノートより)。『アナ雪』は一度反目した姉妹が血縁を超えたシスターフッド(女性同士の連帯)をあらためて獲得する物語だった。『ミス・シャーロック』も同様だ(シャーロックと和都にバディ感が足りないのは、2人がバディになるまでの話だからだ)。

そしてラストシーン。「最後の事件」と「ライヘンバッハ」と来れば、展開がわかった視聴者も多かったと思う。シャーロック・ホームズシリーズ「最後の事件」でホームズと宿敵モリアーティは「ライヘンバッハの滝」で一緒に身を投げる。シャーロックもモリワキとともにビルの屋上から身を投げた。

明らかに死体として搬送されていたのはシャーロック(服装がそのまま。マニキュアなどのトリックもなさそう)だったが、柴田が「ゴンドラ」を使ったことが礼紋によって示唆され、ラストシーンはシャーロックが生きているような演出がされている。シャーロックが生きているのはうれしいんだけど、和都はシャーロックの遺体に立ち合ったりしなかったの?

……と、ツッコミどころを残してはいるが、それでも『ミス・シャーロック』が壮大なスケールとハードな描写、豪華キャストで日本の配信ドラマの未来を切り拓いた一作であることは間違いない。
パート2は、本家『SHERLOCK/シャーロック』の牙城に迫る作品をぜひともお願いしたい。

【配信サイト】
Huluにて配信中
ミス・シャーロック/Miss Sherlock(huluオリジナル)
脚本:丸茂周、小谷暢亮、政池洋佑、及川真実、森淳一
監督:森淳一、瀧悠輔、松尾崇
プロデュース:戸石紀子、村上公一
制作:hulu、HBOアジア
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