清水翔太 『WHITE』は全曲理想。その中でも特に気に入ってるのは……/インタビュー2
撮影/キムラタカヒロ

――【清水翔太】インタビュー1より

すごく大事なんですよ、6、7曲目は

――シングル曲以外で、今回のアルバムで最初に手を付けた曲はどれですか?

翔太:「Silver & Gold」「Rainbow」「dance with me」あたりかな。それらのトラックと、歌詞のない適当英語のメロディーが最初にありました。


――「Silver & Gold」と「Rainbow」は、両方ともエレピの音が印象的な曲でした。そういう生楽器による温かみのある音と、打ち込みによるデジタル感・無機質な感じが共存・融合している曲だと思うんです。そういう質感は他の曲にも感じましたが、そういう音作りも今回意識していたことですか?

翔太:生音っぽくしようとはあまり考えてないんだけど、清水翔太サウンドとはなんぞや?って考えたときに、たしかにトラップも好きなんだけど、これが俺の生きる道だとは思わなくて。オリジナルの追求を考えると、そういう生音っぽいものをどれだけ今のサウンドに馴染ませられるか、みたいなことなのかなって。とはいえ、そこまで重要に考えていたわけじゃないですけどね。

――今回は立体感のあるアトモスフェリックな音像が多く、チルな感じもありますが、前回取材したときに、「ヒーリングミュージック」がキーワードになっていると話してましたよね。

翔太:全体的にその方向性はありますね。「Good Life」「Friday」の2曲でアルバムをどうしていくか?と考えた場合、全体的にもうちょっとトラップ寄りになる可能性は高かったと思うんです。だけど「Silver & Gold」と「Rainbow」が出来て、そう思ったんじゃないかな。俺がやるべきことというか、今やりたいことはこれなんだなと思ったから、じゃあ、「Good Life」や「Friday」はフックとして考えて、全体的にはヒーリングな方向に行こうと。

――翔太くんの言う「ヒーリングミュージック」の定義を改めて教えてください。

翔太:そもそも俺は音楽に癒しを求めることが多いし、明確な目的があるもの以外、俺にとって音楽は全部ヒーリングミュージックと言えるんです。
たとえば「今日はテンション上げていこう。だからヒップホップだ」とか、そういう目的や理由があって聞くもの以外は全部ヒーリングミュージックであって、リスナーとしてもそういう音楽性を選ぶことの方が多い。それこそノラ・ジョーンズとか、そういうものを聞くことの方が多いから。だから自分の作るビーートとか音楽をそっちに寄せていこうと。でも、まるっきりそうなるわけじゃなくて、あくませ「寄せる」だけ。……という考え方でした。

清水翔太 『WHITE』は全曲理想。その中でも特に気に入ってるのは……/インタビュー2
撮影/キムラタカヒロ

――「Good Life」「Friday」はフックという話がありましたが、裏フックとか裏番長、裏リードみたいな曲はありますか? 実はこの曲がアルバムのボトムを支えているとか。

翔太:これまでだと特に気に入っている曲があって、その曲が出来たら「きたー!」ってなる感覚があったんだけど、今回は全曲がそういう感覚なんです。全曲理想。でも強いて言うなら「踊り続けよう」と「Range Rover」が好きですね。特にボトムという意味では「踊り続けよう」。ヒーリングな中にもこういうタイプの曲がないのは嫌だと思っていたし、そもそもこういうのを作る人だから。
それと、今回初めて清水翔太を聞くという人が、「Good Life」も「Friday」もなくて、いきなり「踊り続けよう」を聞くと変に思うだろうなっていうことは想像できるから、「Good Life」「Friday」と他の曲を繋ぐという意味で、「踊り続けよう」は重要な曲になっている気がします。で、そこから『WHITE』の世界にどう戻るかっていうところで、「とにかくいい曲」ということでその役目を果たしているのが「Range Rover」。だからすごく大事なんですよ、6、7曲目は。

――「Range Rover」は短い曲だけど、すごく良い曲ですね。個人的にアルバムでいちばん好きかも。

翔太:ありがとうございます。これはアルバムを完成させなきゃならないギリギリのタイミングで出来た曲で。ギリギリとはいえ、最初はアルバム用とか考えず、朝起きてなんとなく作りはじめた曲なんです。で、「またヘンな曲作ってるわ、俺(笑)」と思いながら作ってたんだけど、出来上がってみたら「マジ良い曲だ、これ!」と思って。

――これこそ冒頭に話した翔太くんの叙情性とサウンドの先進性/実験性が高レベルで融合した曲だと思う。途中でストリングスを入れるセンスは非凡だと思ったし、音数は少ないけど、音の重ね方や使ってる楽器もユニークだし。

翔太:変なことやってるんですよね。
ドラムにフェイザーみたいなのをかけたりとか。それでいてAメロとかのメロディーは90年代の邦楽のような懐かしい雰囲気もあって。それこそ僕は大江千里さんとかKANさんとか、あのくらいの時期の男性ポップスの雰囲気も好きだし、なんとなくそういうものを感じさせるメロディーになってる。なんだけど、メチャクチャ今の雰囲気のサウンドで、歌詞もレンジローバーだから、またオシャレっていう(笑)。こんな曲でレンジローバーなんだっていう。

――その言葉選びにヒップホップっぽさが出てると思いましたね。それがポルシェだと急に歌詞の世界観がバブルになる(笑)。

翔太:うん(笑)。そこじゃないから。今だからね。今回は本当全曲好きだけど、この2曲によって、より名盤感が生まれてる気がします。

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