『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』を見て、ようやくディズニーとルーカスフィルムが何をやりたいのか、なんとなくわかった気がする。この映画は若きハン・ソロの冒険活劇であるとともに、「スター・ウォーズを肴にジャンル映画を作る」という試みの第二弾だったのである。

細かすぎて伝わらないハン・ソロ100連発「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」俺は何度でも観る

ヤンマガ的ヤンキー文脈で描かれる、まだ何者でもないハン・ソロ


『ハン・ソロ』で描かれるのは、スター・ウォーズシリーズで言う3本目『シスの復讐』と4本目『新たなる希望』の間の話。『新たなる希望』では帝国軍と反乱軍がすでにガチンコの大戦争を繰り広げていたが、『ハン・ソロ』ではそのちょっと前の、全銀河の治安が悪化して犯罪者たちがこの世の春を謳歌していた時代が舞台となる。まだ帝国軍VS反乱軍という構図が完全に成立しておらず、各地で反乱が発生していても反乱軍としてまとまってはいない。勢力を伸ばす帝国軍も完全に全銀河を掌握していないようで、流動的な状況の中で各地の犯罪シンジケートが大暴れしていた……という設定である。

タイトルの通り、主人公はハン・ソロ。『新たなる希望』では大胆不敵かつ傲岸不遜な密輸船の船長として登場し、相棒チューバッカとともに自称「銀河最速」の輸送船ミレニアム・ファルコン号に乗って大活躍した。演じたハリソン・フォードの男臭い胸板の存在感も相まって、いまだにシリーズ屈指の人気キャラである。

しかし『ハン・ソロ』でのハンはまだ何者でもない、ケツの青い若造だ。手元にあるのは若さとハッタリと頭の回転の早さだけ。地元に残して来た彼女を救い出すため、いつか宇宙船に乗って故郷に戻るということだけを目標にしているという、まるで漫画『カメレオン』の矢沢栄作みたいな奴である。そんなハンが、いかにして本格的にアウトローの道へと足を踏み出したのかというのが『ハン・ソロ』の主題だ。

なんせハリソンはもうおじさんというか、75歳のおじいちゃんだ。なので当然若い頃のハンを演じるのは無理。
というわけで、ハンを演じているのはシリーズ初登場の若手、オールデン・エアエンライクである。このオールデンのハン、とにかくハリソンのハンのディテールを追えるだけ追っていて、ほとんど「細かすぎて伝わらないハン・ソロモノマネ100連発」といった状態。腕全体ではなく手元だけでブラスターを撃つ動作や、キスシーンでの頭の傾き具合、スッと立ったときに腰のあたりに手をかける動きなどなど、とにかくハリソン版ハン・ソロの動きをほぼ完コピ。特にニッと笑ったときの口元の動きは似ている。一度でいいからハリソンの顔の下半分をくり抜いた厚紙をオールデンにかぶせて、そのままモノマネをしてほしい。スターウォーズ出演者の中で今最もHEY!たくちゃんに近い男、それがオールデン・エアエンライクである。

そんなオールデン版ハン・ソロと出会うのが、これまた若い頃のチューバッカだ。チューバッカの「中の人」も初代のピーター・メイヒュー(現在74歳)から元バスケットボール選手のヨーナス・スオタモに交代しているので、動きが断然にフレッシュ。『ハン・ソロ』ではチューバッカによる激しいアクションシーンもあるので、動ける人が中に入ったのは大英断だ。画面狭しと暴れまわるチューバッカの勇姿は、「ウーキーって敵に回すと怖いんだな……」としみじみ思わせるものがあった。

スピンオフは「スター・ウォーズの皮を被ったジャンル映画」だった


今でこそ「ああいう服装の人」として認識されているものの、『新たなる希望』でのハン・ソロの服装はよく見るとけっこう変である。チョッキにブーツにガンベルト。
それまではSF映画の登場人物といえば全身タイツみたいな格好でツルツルのロケットに乗っているものだったのに、まるで西部劇のような服装でボロボロの宇宙船に乗っている。

この服装から分かるように、ハン・ソロは西部劇的な世界観をベースにした人物だ。チューバッカとコンビを組んでいるのもローン・レンジャーとトントの関係を思わせるし、自前の宇宙船での密輸を生業としているのも、アメリカでの幌馬車やトラックでの物流を想起させる。そして『ハン・ソロ』では、この西部劇という要素が大きくフィーチャーされているのだ。

もちろんスターウォーズ的に味は付け直されているものの、ダスターコートに二丁拳銃のならず者、荒野で焚き火を囲むアウトローたち、一癖ありそうな奴らが集まる酒場でのカードゲーム、即席でチームを組んでの列車強盗などなど、『ハン・ソロ』に含まれる要素のかなりの部分には西部劇の影響がある。しかも前半に登場する帝国軍の戦闘シーンが、まるっきり第一次世界大戦の塹壕戦をトレースしている。第一次大戦は、アメリカにおいて西部開拓時代が終わった1914年という時期に勃発した戦争だ。映画で言えばアウトローの時代の終わりを描いた『ワイルドバンチ』のちょっと後に始まった戦争である。「アウトローの時代が終わり、帝国軍と反乱軍による全銀河規模の戦争の時代が始まる」という時期を舞台にした『ハン・ソロ』で、第一次世界大戦的な要素が引用されている意味は深い。

さらに言えば、『ハン・ソロ』が西部劇をフィーチャーしたという点は「ディズニーとルーカスフィルムは、今後スターウォーズシリーズをどのように組み立てていくつもりだったのか」をも浮き彫りにした。現在スター・ウォーズの映画は2つのラインが存在する。片方は「エピソード○」というようにナンバリングされた正史、もう片方は「スター・ウォーズ・ストーリー」と題されたスピンオフである。
正史では現代的なストーリーでスター・ウォーズというシリーズにドラスティックな変革をもたらし、他方スピンオフでは旧作のキャラや出来事にフォーカスしてオールドファンでも安心して見られるような作品を作る……という思惑は、前回のスピンオフである『ローグ・ワン』の公開当時からも読み取れた。

今回の『ハン・ソロ』の内容から読み取れるのは、それに加えてスピンオフでは「スター・ウォーズの皮をかぶったジャンル映画」を作ろうとしていたのではないかという点だ。なんせ、今後もディズニーはスター・ウォーズを作り続けなくてはならない。しかし、毎回宇宙船とブラスターとライトセーバーが出てくる同じような映画を見せられ続けたら、いずれ観客は飽きる。一方、同じディズニーが関係するマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)では、スーパーヒーロー映画を10年以上作り続けても平気だ。というのも、映画一本ごとに「今回はコメディ」「今回はポリティカル・サスペンス」「今回はブラックスプロイテーション」というように内容の毛色が異なる上、ビジュアル面でも差がつけられているからである。MCUはスター・ウォーズに比べて、見た目の時点で「また同じことやってる……」と思われにくいのだ。

しかしスター・ウォーズはスター・ウォーズ的なビジュアルを捨てるわけにはいかない。スター・ウォーズで主人公がピチピチの全身タイツを着るわけにはいかないし、光線銃ではなく普通のピストルを持つわけにもいかない。そんなことをしたらスター・ウォーズはスター・ウォーズではなくなる。それを解決するのが「スター・ウォーズの皮を被ったジャンル映画」という試みだ。

これまでスピンオフとして発表された作品では『ローグ・ワン』は「スター・ウォーズの皮を被った『特攻大作戦』のような戦争映画」だったし、『ハン・ソロ』は「スター・ウォーズの皮を被ったオールドスクールな西部劇」だった。
この流れからは、「正史とは別にMCUのように一本ごとにトーンが違うスター・ウォーズをスピンオフとして作ろう……」という思惑が透けて見える。この読みが正しいとするなら、製作が噂されているオビ・ワンのスピンオフでは「スター・ウォーズでありつつ、『用心棒』のような時代劇」が成立するかもしれないし、ボバ・フェットのスピンオフでは「スター・ウォーズだけど、『ボーダーライン』みたいなハードな犯罪映画」が作れるかもしれない。今まで書いたことは全て憶測ではあるが、スター・ウォーズを肴にしてジャンル映画を作るという試みはおれにはかなり魅力的に見える。

心配なのは、『ハン・ソロ』が興行的に伸び悩んだことで今後のスピンオフ製作計画がどうも大変そうだ……という噂が聞こえてくることである。一介のオタクとしては、「スター・ウォーズ的ジャンル映画量産計画」はなんとしてでも実現してほしい。そのために必要であれば、おれは何度も劇場に足を運ぶし、フィギュアだって買ったほうがよければ買おう……と決意を固めている。
(しげる)

【作品データ】
「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」公式サイト
監督 ロン・ハワード
出演 オールデン・エアエンライク ウッディ・ハレルソン エミリア・クラーク ドナルド・グローヴァー ほか
6月28日より全国ロードショー

STORY
惑星コレリアの最下層で育ったハンは、故郷を飛び出してパイロットとなることを目指す若者。恋人キーラと離れ離れになったハンは帝国軍に入隊しパイロットを目指すが、とある戦場でベケット率いる強盗団に加わり、自分の船を手に入れるため危険な仕事に挑むことになる
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