連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第14週「羽ばたきたい!」第82回 7月5日(木)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

連続朝ドラレビュー 「半分、青い。」82話はこんな話


1999年秋、漫画を辞めた鈴愛(永野芽郁)は100円ショップ大納言で働き始めた。28歳になっていた。


人生怒涛編


「おはよう日本 関東版」で高瀬耕造アナが、13週の鈴愛の表情を「狂気を湛えた」と讃えていたが、82話の冒頭、鈴愛はぼーっとした顔で登場する。
「東京胸騒ぎ編」が終わり、「人生怒涛編」のはじまりである。
ドラマの時代は99年。この年の7の月にノストラダムスの大予言では世界は滅びると言われていたが、何もなく世界はそのまま続いた。
鈴愛はこの年の夏、個人的には世界が滅亡するかのような絶望(仕事も恋も失くした)を味わったといえるだろうが、そこから立ち上がり、100円ショップで働き始めた。
あの輝かしく都会的なオフィスティンカーベルとはがらっと変わって、勤務先も住まいもじつに慎ましい(秋風ハウスは慎ましいなりにアートの香りがあったがそれもいまはない)。

安アパートで節約暮らしの鈴愛にボクテ(志尊淳)とユーコ(清野菜名)は食べ物や衣類を差し入れる。
丸の内OLになろうかと思い就職活動をするも、高校のときと同じく落ちまくったことをわりとけろっと話す鈴愛。左耳の失聴のことは年を経てだいぶ自分のなかで収めることができるようになったのだろうか。
ユーコも「左耳の事?」と全然忘れている感じで、鈴愛の左側に座っている。この位置関係はここにはじまったことではなく、こういうふうにハンデとして意識するのではなく、当事者もまわりも何気なくなることが理想的なのかなと思って見ている。

おばさんがいっぱい


「なすのなっちゃん、漬物の あれも落ちて」という鈴愛の台詞を聞いて、「しば漬け食べたい」のCMで人気だった山口美江を思い出した。87年、彼女が演じるバリキャリふうOLが帰宅した途端「しば漬け食べたい!」と素朴なことを言うところが受けた。
才色兼備で人気者だった彼女が芸能界を辞めて実業家に転身、再び芸能界に復帰と波乱万丈に生き、51歳のとき、未婚のまま孤独死したことは当時、重く受け止められた。

当時、この事件によって、結婚しないで孤独死することは不安という風潮はあったと思う。2018年のいまでは女性のみならず男性にとっても孤独死はますます不安の材料だ。

100円ショップ大納言の店長・田辺一郎(嶋田久作 88年「帝都物語」で帝都東京を滅亡させようとする加藤を演じた怪優)は鈴愛を「お嬢ちゃん」と呼んでいたが、28歳と聞いて「おばさん」と言い出す。自分のことも「おじさんもう老眼だし」とおじさんを自覚。
実家の宇太郎(滝藤賢一)も鈴愛のことを「もうおばはんやな」と大事に娘に対してひどい言い様。
ボクテは「刻々と若さという女の価値は下がっていくよ」と手厳しい。
そんななか、強烈な“三おば”という新たな登場人物が出てくる。
キムラ緑子、麻生祐未、須藤理彩。
夏の終わりの素麺を食べながら語る三人の“おばさん”はなかなか面倒臭そうだ。

“28歳おばさん”の鈴愛は結婚して「一攫千金狙います」とやる気で、ユーコの紹介で「セレブの異業種交流パーティー」に参加しようと息巻く。
28歳でおばさんと言われてしまうのも大変だ・・・。
「半分、青い。」82話。漫画家から100円ショップ店員に、そしてセレブの合コンに
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追憶のかたつむり


「女の価値・・・」と鈴愛がつぶやいたあと、すぐ「制圧 弾圧」という単語が出てくる皮肉。結婚とは制圧と弾圧かもしれないとひと妄想。

このナレーションは、映画監督・元住吉祥平(斎藤工)の映画「追憶のかたつむり」のなかのもの。
場面は、元住吉の自宅兼事務所に移る。
事務所名「COOL FLAT 」がマーキーライトで輝いているのは、ティンカーベルの「BE FREE」に似ていて、
ここが「人生怒涛編」におけるティンカーベルの役割をするのかなと思わせる。
主人公は漫画という創造を断念したが、またここで創造に取り組む人物(元住吉)が出て来た。
ナレーション(風吹ジュン)によると、元住吉は「追憶のかたつむり」で海外の映画賞を受賞したものの以来4年、何も撮れてない。それでも彼は事務所を構え映画の道を歩き続けている。

元住吉は弟子の涼次(間宮祥太朗)に「目線カメラ」の話を喜々とする。漫画家編では出てこなかった画の話がようやく出てきた。映像系のディテールは脚本家には自家薬籠中のものであろう。
しかも斎藤工はこの「追憶のかたつむり」を自分で撮ったそうで、目線のこだわりを喜々として話すところにもリアリティーを感じる。

映画を見ている間締め切っていたカーテンを開けると「うわ まぶし・・・」と外光が降り注ぐところは、80話の「15分の光」を思い出す。元住吉は4年という暗闇にいるのではないだろうか。

鈴愛が諦めた創造の世界での葛藤が、新章にもまだ引き継がれるのではないかとドキドキする。

出会ってしまった?


「家を借りるのと結婚は違う」「私は出会って恋をして結婚していきたい」とときめきを求める鈴愛。
だからパーティーに行こうと思っている。なにしろ100円ショップでは出会いが少ない。
ところがそこへ、若い青年・涼次がやって来た。
「ソケットってありますか?」で、つづく。

その前に(少ない出会いといえば)「同じ店員の田辺さん」とじーっと田辺を見ている鈴愛が面白かった。
(木俣冬)
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