日本生まれの私ですら辛いこの暑さ、外国人は大丈夫なんだろうか。
訪日外国人を暑さから守るため、日本気象協会が動き出した。
「熱中症ゼロへ」プロジェクトでは、都内3カ所の庭園で和傘の無料レンタルを実施する。日本の伝統的な工芸品である和傘を使って、直射日光を遮る体験をしてもらうことが狙い。日本気象協会に問い合わせ、プロジェクトリーダーの曽根美幸さんに話を聞いた。

暑さに弱い外国人、75%以上が熱中症に
──なぜ和傘の貸し出しを始めたのですか。
曽根 今年で3年目になるこのプロジェクトでは、熱中症対策の一つとして、日傘で熱や日差しから体を守ることをおすすめしています。対象の日本庭園内に和傘のレンタルスペースを設けて、訪れた人が和傘を持ってお庭をまわれるというイベントです。過去2万人以上の方にご参加いただいています。
──今年からターゲットを訪日外国人にしたのは、やっぱり外国人が暑さに弱いからですか。
曽根 そうですね。私たちが2016年に在留外国人200名に対して行った調査では、75.5%の方が「日本で熱中症を経験したことがある」と答えています。
──えっ、4人中3人が熱中症になってるんですね。暑くて頭がボーッとするとか?
曽根 めまいや顔のほてり、筋肉のけいれん、だるさ、吐き気、汗のかき方がおかしいなどの症状をまとめて、日本では熱中症と呼んでいます。
──日本では……? そういう熱中症の概念って、外国にはないのですか。
曽根 あるところもありますが、日本ほど広く浸透しているとは限らない、というところですね。日本は熱中症で亡くなる方が多くなったこともあり、熱中症の明確な定義がつくられました。

日本の日傘は「便利で革新的」
──それだけ日本の夏が暑いということですね。そこで対策として和傘を。
曽根 和傘を選んだのは、日本文化に親しみながら暑さ対策をしてもらうためです。日傘に慣れない外国の方でも、庭園で和傘でしたら観光気分で楽しく使えますよね。また和傘は柄や色づかいが大胆なので、デザインに興味を持って手に取る方も多いです。
──日傘をさす習慣があるのは日本だけですか?
曽根 他の国にも全くないわけではないのですが、暑さ対策としての日傘にはなじみがない方がほとんどです。日傘について、「このような対策は見たことがない」(インドネシア出身)、「夏の暑さに対処するための便利で革新的な方法だと思う」(カナダ出身)といったご意見をいただいています。
──日本人でも日傘を使う人はほんの一部ですよね。
曽根 そうなんです。単なる日焼け対策と思われがちですが、直射日光を遮ることで体感温度が下がります。
日本人は暑さに強い
──ちなみに、熱中症になりやすい民族や国籍はありますか。日本人は熱中症になりやすいとか?
曽根 個人の暑さへの耐性を考えるとき、「3歳」というのを一つの区切りにしています。3歳まで住んでいた地域の気候によって、汗のかき方や体温を調節する機能の発達に差が出てくるということが、名古屋工業大学・東北大学との共同研究によってわかりました。幼い頃に涼しい環境の中で暮らした人は、汗腺数が少ないために体温が上昇しやすく、熱中症のリスクが上がるのです。
──ということは、蒸し暑い日本の夏に慣れている私たち日本人は……。
曽根 比較的暑さに強いということになります。ただ、慣れとはその都度やってくるものなので、突然暑くなった日は注意が必要です。たとえば梅雨明け後の晴れが続く日や、お盆明けに暑さが戻ってきたタイミングは、日本人でも特に熱中症対策が必要な時期としてお伝えしています。
──じゃあ梅雨明けの今は危ない時期なんですね。
曽根 そうですね。今は天気が崩れていますが、これを過ぎるとまた暑い日が続くと思われます。
──よくわかりました。外出先で「この人熱中症かも」みたいな外国人を見かけたらどうすればいいですか。
曽根 熱中症の応急処置として、私たちは3つのことをお伝えしています。涼しい場所へ移動させること、衣服を脱がして体を冷やすこと、塩分や水分を補給させること(※嘔吐などの症状で飲めないときは除く)です。
──服を脱がす……けっこうハードル高いですね。
曽根 そうですよね。首や足のつけねを冷やすだけでも効果的ですが、訪日外国人の場合、まずは声をかけてあげることが必要なのかと思います。
熱中症の症状と対策については日本気象協会「熱中症ゼロへ」を参照のこと。
和傘レンタルを行う庭園は、目白庭園(7/1~7/31)、肥後細川庭園(7/21~8/31)、ホテル椿山荘東京(7/21~8/31)の3カ所。
(小村トリコ)