第15週「すがりたい!」第86回 7月10日(火)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪紳一朗
86話はこんな話
いよいよ書き入れ時、この地区の小中学校、ともすると幼稚園まで運動会の前日、100円ショップ大納言が客でごったがえす中、鈴愛(永野芽郁)は涼次(間宮祥太朗)になにかとフォローされて・・・。
涼次、万能。
運動会を前に殺到する買い物客でにぎわう100円ショップの1日を描く。
雇われ店長・田辺(嶋田久作)による“100ショの極意”の紹介や、客による嫁を軽んじるネタ(「嫁は流しの下からもらえ」(お嫁さんは格下の家からもらえということわざ)も挿入され、「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」的な昭和のほのぼのホームドラマ的な雰囲気が醸し出された。
田辺が鳴らした運動会用のピストルの音を聞いて、脱兎のごとく走り出す涼次。あまりにもおバカさんである。
そんな涼次は、じつは大納言のオーナー三おば(キムラ緑子、麻生祐未、須藤理彩)の甥だったことが明かされた。社会勉強として光江が(身内であることを田辺に隠して)投入したのだった。
涼次は帽子作りのセンスがあるので帽子屋「3月うさぎ」を継いでほしいと願う光江(キムラ)。
彼のデザインした帽子を作るのが夢らしいが、そんな甥っ子の絵は、田辺(嶋田久作)が鈴愛に気楽にポップの絵を頼んだとき助け舟を出して描いたものを見ると・・・下手だった。まあ、絵の技量とアイデアは別といえば別。
絵が通り過ぎる客に雑に扱われる(肩に引っかかってぺこっとなる)感じに哀愁があった。
でもここは彼の絵の下手さやピストル音聞いて飛び出してしまうおバカさよりも、人の心を察する力のあることのほうが重要だ。
大納言オーナーの身内、鈴愛の漫画のファン、イケメン、気が利く、料理がうまい、ちょっとバカなところもかわいい・・・涼次、キャラとして万能。
拙著「みんなの朝ドラ」でも書いている、朝ドラに必要不可欠な「ビューネくん」キャラといえるだろう。
ビューネくんとは、化粧品のCMキャラで、女性が働き疲れて帰ってくると“慰めて抱きしめる”のキャッチコピーに則っていろんなやり方で慰めながら精神的に抱きしめる若いイケメン男性のこと。実在するのではなく妖精ふうに表れる。初代は藤木直人、現在は竹内涼真が演じていて、「ひよっこ」のとき、本当のビューネくんが朝ドラヒロインのビューネくんに!と思ったが残念がながら彼は彼女と結ばれなかった。
涼次は85話で鈴愛のことを身も心も“慰めて抱きしめて”いた。
仕事も律も失ってどん底の鈴愛には、涼次は絶好の癒やしである。
草太、助っ人。
そして、もうひとり、便利なキャラがいる。
弟・草太だ。
午後四時、すごく店が忙しいところ、田辺は美女とどこかに行ってしまった。
そこに飛んで火にいる夏の虫的に草太(上村海成)がやってきて手伝うことに。
飲食店経験のある草太はレジ打ちで力を発揮する。
涼次と草太のイケメンふたりに女性客は溜飲を下げる。さながら“ビューネ兄弟”という感じだ。
何かと気が利く涼次をたびたび見つめる鈴愛に草太は気づく。
(いまの生活は)「とても充実している」と言い張る鈴愛。仕事的には見栄張っているだけだが、涼次という存在によって充実しているとも言えるだろう。
田辺に漫画家だったのだからポップの絵を描いてと頼まれたとき躊躇した鈴愛。挫折体験が彼女を縛っているのだなと思う。たとえ漫画を辞めても落書きは日常茶飯事にしてしまうような気もするけれど、ひとの気持ちは千差万別で、鈴愛は絵すら描きたくないのだろう。もっとも、のべつまくなしに絵を描いている絵が好きな描写もこのドラマにはなかったが。
それにしても、こどもとはしゃぐ間宮祥太朗。「全員死刑」 という映画の、家族のために転がるように残虐非道な殺人を犯していく主人公とは別人別人のようだが“おバカ”という点においては同じである。

涼次役間宮祥太朗の代表作
(木俣冬)